14話 待ち侘びる者
【大魔王の館 『???』】
大魔王ふたたび。
「ヘルラよ、おるか?」
「――――――――」
「ヘルラ?」
「うみゅみゅ…………すう……すう」
「おっと。眠っておったのか」
ミラ達が帰路に着いていたころ大魔王もまた準備の最終確認をすべく、再びこの日光差さぬ石造りの空間へ。様々な器具に大量の資料が収められた本棚、またそれらを置くための複数の横長テーブルが占領するこの一室へ戻ってきた。
「すうすう……だ、だいまおうさま……じゅんびはもうすでに……あとはまつだけ……です」
「フッフッフッフ。そうか、どうやら準備は終わっていたらしい。誠に大儀であったな。同じ夢の中でその労を労うことが出来ぬのが残念だが、お前の働きはしかとこの大魔王が聞き届けた」
よほど集中して取り組んでいたのだろう。
様子を見に来た大魔王に気付くことなく、そのまま机に突っ伏すようにスヤスヤと寝息を立てているヘルラ。いつも着けているモノクルも今だけは持ち主の元を離れ、同じ机で休んでいる。
「だが……いくらなんでもここで眠ってしまうのは頂けぬな。いくらドラゴン族は丈夫とはいえここは予想以上に冷えておる。油断すればお前といえど体調を崩してしまうやもしれぬからな」
そこで寝言だったものの。望んでいた報告を聞けた大魔王は夢の中でも働き者な彼女に今出来るせめてもの労いをと。魔法なのか、指をパチンと鳴らしてフカフカの毛布を手元に出現させると、そのまま寝ているヘルラへ優しくそっとかけた。
「あ……ありゃりゃ? 大魔王さま?」
「えっ? あら、こちらにいらしたのですね」
「むむ? おお、お前たちであったか」
部屋の入り口からだった。
眠るヘルラに毛布をかけ終えるとほぼ同時、大魔王は聞こえたその声に反応して振り返る。すると自分がくぐってきたその場所から様子を覗くように立っていたのは“悪魔族の双子姉妹”。
「んもう、あちこち探したんだよ? 執務室に行っても誰もいないし、メイド達に聞いても知らないって言うし。でもまさかここにいたなんて」
「うふふふ♡ でも会えて良かったですわ。まさかヘルラ様もご一緒とは聞いておりませんでしたけれど……まさかとは思いますが“ナニか”怪しいことでもしていたんですか? うふふふ♡」
「こら! メア! 大魔王様に向かってそういういやらしい発言するなって何度言えば分かるのっ!? そんな……大魔王様に限って――」
「あらあら♡ ミアったらいつも真面目ちゃんなんだから。でも“主君の好み”を知るのも仕える者として必要な情報だと思いますけどぉ?」
「うっ。ううう……そ、そう言われてみると確かに一理はあるかもしれない。大魔王様、ヘルラ様とどんなエッチなことしてたんですか!?」
「いや、我輩は何もしておらぬが…………それよりも声を控えよ。ヘルラが起きてしまうではないか、役目を果たしてゆっくり休んでおるのに」
「あっ。ごご、ごめんなさい」
ミアとメア。
悪魔族らしい黒い羽に、頭の両側にはS字に伸びたねじれた角、そして先のとがった尻尾が生えており。装いに関してはいわゆる淫魔で、2人とも胸元やヘソ、太ももなど発達した部分を露出させた煽情的な外見をしている。
「うふふ♡ ミアはやっぱり面白いわ♡」
「うううぅ……あ、あとで覚えておきなさい」
なお双子につき顔付きはそっくりだが一点だけ大きく異なるのは髪色。ミアが赤色、メアが紫色の髪をしており言動や性格といった内面的な違いを除くと、この髪色だけが唯一の手かがり。
「ゴホン……して、どうした? もしやお前たちに任せておいた例の件についてか?」
「ええ♡ その通りですわ♡」
「はい。そのご報告となります」
「うむ、2人とも大儀である。では早速報告を聞こう……おっと。このままではヘルラに迷惑をかけてしまうな。すまぬが、少し待っておれ」
「「はい」」
熟睡しているヘルラを起こさないようにと。
大魔王はまた指をパチンと鳴らすと、今度は毛布ごと彼女に透明な音の防壁を纏わせる。そのうえで参上したミア・メア達へ。
「待たせたな、では早速聞こう」
「はい。それではまずクックロウ殿からの経過報告です。無事に聖薬草は確保、採取中にて予期せぬ戦闘を挟んだものの大事には至らず。現在は勇者と共にこちらへ向かっているとのことです」
「ほお、それは良い報せだ」
「ええ。ですのでもうすぐ戻る頃合いかと」
「うふふ♡ クックロウちゃんって普段はふざけているけど、こういう時にはやっぱり頼りになりますわね♡ まあ、だからこそ大魔王様からの信頼も厚いのでしょうけど……羨ましいです」
「ヌワハッハッハッ! まあそう言うな、お前たちも充分によく働いてくれておる。それに特に今回はあやつの発見あってこその案件だ、ならばその功績を認めて顔を立ててやらねばならぬ」
「いいなあ……私だって褒められたいよ」
「まあまあ♡ また今度頑張りましょう?」
「ハッハッハ! 楽しみにしておるぞ!」
やはり自分の見立ては誤っていなかった。
ミラとクックロウならば必ず成し遂げて帰ってくる。そんな予想していた通りの報告に、彼は満足げに語り笑い声をあげる。そしてそのまま。
「して、メアよ? そちらも終わったか?」
「ええ、こちらも完了致しましたわ♡ 天井・壁の補修工事ならびに壊れていた浴室の整備。またそのほかの細かい点検諸々も全て完了しております。これで今日から勇者さんが雨漏りや吹き抜けの風に悩まされることも無いでしょう」
「うむ、これで勇者も少しは安らげるだろう」
続けてメアの報告へと移り、結果を聞く。
本来なら成功した暁にと提案していたミラの家の修繕だったが、先と同じく大魔王は勇者を信頼していたため。留守中で丁度空いているのも相まって予めメアに作業を命じていたのだった。
「ええ。ですが……少し妬けてしまいますわ」
「ふむ? 妬けるとは何のことだ?」
「何のことって……もお♡ 大魔王様ってば復活されてからずっと勇者さんの事ばかり考えていらっしゃるじゃないですか? なのでちょっとくらいワタクシ達に“構って”くださっても♡」
「こら! メア! また変なこと言って! ごめんなさい大魔王様。メアってばいつもこんな感じで、大魔王様のことばかり気にしてるんです」
「ふむう……なんだかよく分からんが。まあとにかく2人とも大儀であった。あとは我輩とヘルラで対応する、お前たちはもう休んでよいぞ」
「えっ? ああ……いえ、我々はまだ」
「そうそう、ワタシだってまだ頑張れ――」
「いや、ならぬ。お前たちもヘルラ同様に相当疲れているはずだ。なにせ今日は通常の業務に加えてこの館の転移など我輩のワガママに皆を振り回してしまったからな。せめてその見返りに、皆の王としてその労を労わせてくれぬか」
敗北を喫してもなお、自身を慕う従者達へ。
責任ある魔族の王として大魔王は2人に休むように命じる。
「はっ! かしこまりました!」
「そういう事であれば……分かりましたわ」
「うむ! ではご苦労であった!」
「「はい! では失礼致します!」」
と、勇者の知らぬところで色々と大がかりな作業を仕掛けていた件もあり。彼はそんな慰労の言葉をかけた後に部屋から離れていく姉妹の背中を見送った。
「よし。
では我輩も最後の仕上げといこうか」
これで一段落ついた。
残るは仕上げのみ、と。
大魔王も同じく同胞と勇者の帰還に備えて。
ヘルラが未だ寝息を立てて休んでいる姿をチラリと確認すると、纏わせていた音の防壁を解除して彼もまたこの場から姿を消すのだった。
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次話は明日を予定しています。




