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12話 勇者のやさしさ



 激しい応酬の繰り返しだった。



「かああっ!!! ホンマにすばしっこい奴やのう! ええかげんに諦めたらどうや!? 降参するんやったら今の内やで? なにせこのクックロウ様が本気出したらお前なんかイチコロ――」


「ジャシャアアアッッッッッ!!!」


「げっ!? まだ話しとる途中やろが!」



 息もつかせぬ。緩んだら即座に負ける。

 クックロウとバイオ・マンバの一騎打ち。


 鳥型(カラス)の魔族であるクックロウはバサバサと翼を羽ばたかせて宙からの攻撃、相手の技を退けつつ嘴と足蹴りで相手を攻め立てる。



「ギシャシャシャァァァァッッ!」



 ビュオンッッッ!



「うっぶ!? ほんまゾッとする動きやで!」



 その一方でバイオ・マンバは自慢の毒牙をチラつかせつつ、しなやかな体を生かしての迎撃。

 ビシャリと耳を貫くような鞭の如き音を響かせる打撃技で、宙を舞う彼を叩き落とさんと距離を開けたり、とぐろを巻きながら機会を伺う。



「ギャシャァァァァッッ! ガグッ!?」


「いよっしゃあ! 隙ありぃぃぃ!」


「シュググ……ゲシャアアアアッッ!!」



 ビュルルオンッッ!!!



「おえっ? うおっぐ!?」



 地上 VS 空中。

 両者ともに気が一切抜けない攻防。


 互いにもし攻撃を外せば相手はすかさずその隙を突いてくるため、クックロウとブラック・マンバともに無闇には突っ込まず、ひたすら相手の動きを観察して仕掛ける機会を図って戦っていた。



「ゼェゼェ……い、今のはメッチャあぶなかったで。ったく、このヘビ公め。ただのモンスターやと思ってたが、そんな急な動きまで出来るんかいな。ホンマにこれやから野生は怖いのう」



 だが時にその読み合いを制しても通らず。

 大振りな飛びかかり噛みつきを避けて、隙だらけの背後を狙ったクックロウだったが、相手は競争の激しい自然界を生き抜いてきたモンスター。


 被捕食者にならぬため学び会得したのか。攻撃の隙をカバーするように、後ろから嘴を突きだして飛んできた彼を目視せず、尾の先端を感覚で振るっての反撃というトリッキーさを見せつける。



「シュルルルル。シュッシュッシュッ」



 一方は宙に逃げられるのは強みだが、そのぶん武器として振るえるのは硬く鋭い嘴と足のみ。もう一方は飛べないうえに鋭利な武器は毒牙だけだが、代わりに全身を使った殴打を仕掛けられる。



「けっ! なんやなんや得意げな顔しおって! ちょっとビビらせたくらいで良い気になってたらアカンで。悪いけどプロ(ワシ)は同じ手は食わんから。だから次はもう無いと思っときや?」



 そんなこんなで戦況はどちらにも傾かず。

 たまに避けきれず掠っての傷は増えるがいずれも決着には至らず、よって倒すためには決定打となる重い一撃を先に与えた方が勝ちを掴める。



「ギッ! ギシャシャアアアアッッッッ!」


「しゃあ! 来いやヘビ公ぉぉぉぉっっ!!!」



 と……そんな一歩踏み外せば死が待っているシビアな戦闘が繰り広げられる最中にて。別の作業に取り掛かっていた“もう1人”はというと。




「もう少し……もう少し」




 勇者ミラは託された役割を全うしていた。

 クックロウに望まぬ来客の対処を一任し、自分は太ももまである泉を進むや否や、



「よしよし……根っこが見えてきた」



 ひたすら聖薬草のある真ん中の小島目指して。

 視界は島の聖薬草だけを捉えたまま、ミラは一心不乱に進み続けた。もはや水の冷たさなど気にも留めずに。そしてたどり着くなりすぐに、



「傷つけないように……ゆっくり」



 目的の聖薬草の採取へと取り掛かっていた。

 ちなみに情報だけでなく、大魔王達の見る目もやはり確かだったのか。純粋な者以外が近づけばたちまち枯れてしまう性質の聖薬草だったが、彼らの見立て通りにミラが近づいても特に変化はなく、未だ眩しい銀白色の花を煌めかせている。




「ふう……採取ならお手の物だ。なにせここ1年ずっとおじいさん達と一緒に農作業をしていたんだ。根を傷つけず丁寧には収穫の常だからな」




 それも確認したうえでミラはすぐ採取に。

 力任せに引き抜けば早いが、それでは傷をつけてしまい台無しになる恐れがあるため、根ごと回収すべく辺りの土から丁寧に掘っていく。



「シュルルルル…………ギュシャッ!」



「ぬおおおっ!? そ、その噛みつき方は反則やろ!? こちとら嘴と足蹴りくらいしか攻撃方法ないのにそないな動きしたら……うげっ!?」



(集中集中集中。今は掘る事だけ考えるんだ)



 あるのは一輪だけ、つまりワンチャンス。

 後ろから音が聞こえるたびに応戦中のクックロウに気を取られそうになるが、それでも視線は手元から外さずに。逸る気をグッと抑えながら、ミラは根を痛めぬようゆっくり採取を試みてゆく。



「うっ!? しまっ…………ふぎゃっ!?」



 バチンンッッッ! ドサッッッ!



「シュウゥゥゥ。シュルルルル?」



「うぐ。こ……こんちくしょう。こんな、こないな毒で相手いたぶるしか能がない奴に負けてたまるかいな! ミラっちが無事に採り終えるまでワシは負けんで!? 覚悟せぇやヘビ公ぉ!」



「ギググ! ギシャアアアッッッ!!!」




(くっ!? あ、焦るなミラ。ここでしくじれば全部水の泡だ。もう終わる。もうそろそろ!)




 抑えて、堪えて、冷静に。

 ミラはいよいよだと覚悟を決めると掘り起こした根部分に左手を、聖薬草の茎に右手を当ててそのまま優しく持ち上げた。そうすると!?



「こ、これでどうだああっっ!!!!」




 ボゴッ。




「や、やった! 採れた!」



 長引いたが、どうにか採取に成功。

 細心の注意を払った甲斐もあり、どこを見ても傷ついてはおらず。その証拠に銀白色の花に関しても未だに生き生きと煌めいたまま。



「よし! クロちゃ……クックロウッッ!」



 して、採取を終えるとミラはすぐさま視線を後ろへ。聖薬草へ近づけぬよう囮となり、自身の代わりに戦っていた相棒(クックロウ)の方へ振り向きその安否を確かめる。すると……彼は。




「シュルル……ルル。グフ……シュウウウ」



「へ、へへへへ……どや? ワシ自慢の嘴は痛かったやろう? これでも魔界(地元)では『みだれ突きのクロちゃん』って呼ばれとったんや。毒牙振り回して相手ビビらすのも結構やけど、奥の手は最後まで隠しとくのが真の強者なんやで?」




 こちらも同じく、既に決着済みだった。

 勝者はクックロウ。当人の発言通り嘴の連続攻撃が決め手になったか、その傍には全身刺し傷だらけのバイオ・マンバの亡骸が転がっており、ミラが助けに入る前にカタが付いていたのだった。



「クッ、クックロウ!」


「お? ああ、ミラっちか……良かった。ハアハア……その様子を見る感じ、どうにか聖薬草は採れたんやな。ほんま良かった……わ」



 だが予想以上の苦戦だったのか、勝者のクックロウも無傷では済まなかったらしく。



「そこで待っていろ! 今すぐそっちへ行くから! あまり無理をするんじゃないぞ!」



「へへへ、なにを慌てて。べ……べつにワシはこの通りピンピンして……あ、あれ目まいが?」



「ああもう! ほらボロボロじゃないか!」



 威勢の良い言葉とは裏腹に力無く地面にへたり込むその相棒に、ミラはバジャバジャと泉の水面を荒らしながら慌てて彼の元へと向かった。



「待たせたな。大丈夫か?」



「わ……ワシは大丈夫や。それよりも早く“それ(聖薬草)”を大魔王様のところに持っていくんや。ワシはしばらくここで休んどくさかい……な」



「か、噛まれたりは――」



「ハア、ハア、だ……大丈夫や噛まれとらん。なにしろ一番警戒しとったからのう。ただ思っていたより尻尾攻撃がえげつなくてのう。さっき地面に叩きつけられたせいでこのザマや。ハアハア……ほんまに……情けない相棒やで。なっ?」



 叩き付けられた際に痛めたか。あちこち傷だらけのクックロウは片方の翼を下に垂らしながら、そう優しく自分を抱きあげるミラへと向ける。



「さあ……はよ行き。ワシはこのままでええから、大丈夫やから。クックロウ様がこんな傷程度でくたばらへんから、はよう大魔王様の所へ――」



 どこまでも任務優先だと。

 物が確保できたのであれば後は納品のみ、帰り道は分かっている。ならば手負いの自分(案内役)は足手まといだから、このまま放って行くべきとクックロウは狼狽えるミラを急かした……が?



「いや、それは許さない。一緒に帰るんだ」



「えっ? お、おいおい……なにしとんねん。ワシの事はこのまま放置でええ言うたやろ? それよりもはよ行かんかいな。ワシは魔族やで? ちょっとだけ休憩したらこんな傷ぐらい別に」



「ダメだ。絶対に一緒に帰るんだ」



「な、なんでや……なんでそないに――」



 ミラは彼の言葉には従わず。

 それどころか、彼の意にまるっきり無視するように場に座りこむと腰の道具袋を漁りながら、



「なぜかって? 決まってるじゃないか」


「き、決まってる?」



 その理由をハッキリと口にした。



「大魔王は……アイツは私と2人で採りに行くようにお前に命令したんだろう? それなら()()()()()()2()()()()()()()と、その大切な命令とやらに反してしまうんじゃないのか?」



「…………………あっ。えっと、それは」



「大魔王の命令は絶対。そうなんだろ?」



「せ、せやけども。流石にこの場合は――」



「命に代えてでも守るんだろう?」



「あうっ……むぐぐぐぐぐ」



 まさかここで自分の発言に縛られるとは。

 大魔王様の命令は絶対だ。命を賭してでも守らなくてはならない、そのために自身クックロウはここにいる。そんな迷っていた自分を説得するために話してくれた内容を、今度はそっくりそのまま引用する形でミラはクックロウへ返した。



「――――それに」


「うん?」



 また、さらにミラはこうも続けた。



「それに……目的の為とはいえこうして私の代わりに必死に戦ってくれたんだ。なら、たとえ魔族だろうと恩人だ。それを置いていくなんて勇者どころか人ですらない。だから助けたいんだ」



 勇者として、1人の人間として。

 そんな本音を語るとアルローの町で調達していた包帯と傷薬を取出し、恩人の手当を始めた。




「へ、へへへへへ……真面目か、アホウ」




 魔族だろうが関係なく助ける。

 そんな勇者らしい優しさ、もとい聖薬草も安心して身を任せられるほどの純粋さに甘んじて、彼は大人しくミラの手当を受けるのだった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)

次話は明日を予定しています。


2024/01/15追記

※明日1月16日に投稿します。

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