1話 大魔王、討伐(☆)
挿絵回です。
【魔界 大魔王の城】
終幕寸前だった。
「ゼェ……ゼェ……ウグ……グググ」
「……呆気ない幕切れだったな、大魔王」
人類VS魔族。
人間界の土地を奪い取らんと勃発し、長きに渡って多くの犠牲を伴ってきた激しい大戦争。しかし…………今ついにその終焉が近づいていた。
「よ……ようやく本当に倒せるのですね」
「長かった……でもこれで平和が戻るんだ」
「さあ、ミラ。大魔王に最後の一撃を――」
「ああ、分かっている」
勇者、ミラ・E・セーレネ。
凛々しい顔立ちと後ろに束ねた艶のある黒のロングヘアーが目を惹き、スラリとした体には白銀に煌めく“勇者専用の装備”を纏っている。
さらに強大な闇の力に唯一対抗できる“聖なる力”も宿しており、これまでの戦いではその力で多くの魔族を退けて人々に希望を与えてきた。
「はあはあ……ごめん、こんな肝心な時だっていうのに全部ミラに任せちゃって。でも、ぼく達もさっきの大技で残っていた全ての魔力を注ぎこんじゃってさ。ほとんど動けそうにないんだ」
「ええ、お恥ずかしながら……ワタクシも」
そうした人間達の最後の希望として。死線を幾度となく潜り抜けた末、ようやく迎えたこの日。
魔族達をどうにか抑え突破口を開いた一行は境界を越え、敵本陣であるこの【魔界】へ突入。その勢いままに敵将にしてこの大戦争の終着点でもある“大魔王”を討つべく、居城へと一気に乗りこんだ後にここ玉座の間にてそれと対峙した。
「ははは……てなワケだ。最後の最後でお前以外ろくに動けないなんて情けねぇ話だけど、この戦いのラストは勇者であるお前が締めてくれ」
「ああ、勿論だ。ここからは私に任せてくれ。それに……どのみち“コイツ”だって同じだ。もうとても動けるような状態じゃないらしい」
存在こそ魔族から仄めかされてはいたが、初めて目の当たりにして感じた威圧感。これまでにない大魔王の強烈な闇の闘気に気圧されながらも、ミラ達は勇気を振りしぼり挑んだ。
「よし。それじゃあ――」
闇の力と聖の力。
そんな相反する属性の衝突、互いが互いを滅ぼさんとする者同士の凄まじい力のぶつかり合い。
大魔王撃破の切り札となる勇者ミラを軸とした仲間達の手厚いサポートのもと斬り合い、撃ち合い、殴り合いと、一瞬たりとも気の抜けない攻撃の応酬を繰り広げ続けた――――その果てに。
「フフ……フハハハ……ヌワハッハッハッ!」
「…………何がおかしい、大魔王」
「フフフ……いやすまぬ、気にするな。ただ我ながら驚いておるのだ。よもや……よもや魔族最強であるこの我輩が人の子に敗北するとはな。だからこそ、このような予想もせんかった結末にふと笑いが零れてしまった。それだけの話だ」
ミラ達はついに大魔王を降した。
その手に勝利を、希望を掴み取ったのだ。
またさらに朗報と表現すべきか。持ちうる全ての力を注いだ最終決戦ではあったものの、幸いにもミラ達の誰も斃れず決着した。まして共倒れも覚悟していたのに、消耗こそすれどその誰もが“致命傷”すら負わずに勝利を収めた。
――そんな“奇跡”にも恵まれたうえで、
「そうか。じゃあ覚悟は出来ているんだな」
「無論だ、敗者は散るのみ。今さら悪あがきなど無様は晒さぬ。さあ、ひと思いに斬るがよい。それが我輩を倒した其方の権利だ」
いよいよ物語は幕引きを迎える。
「なあ、その……最後に1ついいか?」
「ふむ? いったいなんだ?」
戦場で敗れた者は誰だろうと消えゆく運命。
そんなこれまでの戦場で何度も目にしてきた至極当たり前な摂理のもと、ミラは両手で聖剣を握り大きく振りかぶった姿勢で大魔王に尋ねた。
「どうして……なんでここには誰もいなかったんだ? それだけ最後に聞かせてほしい」
「はて、こことは?」
「ここだよ。この魔界とこの城についてだ」
いくら満身創痍でかつ片膝をついている状態とはいえども、相手は魔族の頂点につき。警戒は解かずあくまで剣を構えたままでミラは求める。
「ふむ、なるほど。それについてか」
魔族の頂にして魔界の統治者、大魔王。
暗赤色の外套なびかせる、見るからに禍々しく厳つい意匠の真っ黒な鎧に全身を包み、かつ勇者より数回りも大きい巨躯をした文字通り“大魔王”の名が相応しい魔の者の回答を。
「フッフッフ……なあに実に単純な理由だ」
ここ大魔王の城へ乗り込むまでの道中。もっと掘り下げるならば、対峙してから決着が着くまでのこの間でずっとミラが抱いていた疑問。
「簡単な理由?」
それは――この魔界へ乗り込んだ際に、なぜ誰も行く手を阻まなかったのか。なぜ統治者である王の居城に乗り込んだのに迎撃する者が一人も現れることなく、その気配すら無かったのか。
「さよう。少し考えれば分かることだ」
「? なにが言いたい?」
その違和感、異質さの謎を解消するため。
今こうして王が敗れたというのに未だ誰も現れない、敵の本拠地にしてはあまりに静かすぎる異常さに耐えきれなかったのか答えを求めた。
――すると、大魔王はこう返した。
「ハッハッハ……我輩は所詮、敗軍の将に過ぎん。初めは勝てると踏んだ戦だったが、其方達の予想外の抵抗に攻めあぐね、戦況が悪くなるにつれて同族内での不信感も大きくなっていた」
「…………………………」
「そうして、其方達がこの魔界へ乗り込んでくる寸前のタイミングでついに不信感が危機感へと変わり、我輩に見切りをつけて次々と離脱していきおった。その結果が今この状況というわけだ」
「で……自分を指導者として慕ってきた同胞から見捨てられて、お前は“孤軍の将”として一人で私達の相手をする事になったのか。哀れだな」
「ヌワハッハッハ……好きに嗤うがよい」
魔族もまた生命の1つに過ぎない。
非力な人間とは違って力は持っていても死を恐れるのは同じため、勢いが増した勇者達との戦いを恐れてどこかへ隠れてしまったと溢した。
「そうか……分かった」
なんとなく事情は察した、ならばと。
ミラは改めて満身創痍の大魔王にとどめを刺さんと剣を、専用武器の聖剣に力を集中させる。
色々と思うところはあっても結局は倒すべき相手。大魔王は敵なんだ、敵の首領なんだ。どれだけ哀れに見えようが、自分達が平和を取り戻すためには斬らなくてならない。
「では、これで終わりにしよう。私達とお前たち魔族の縁をこの一撃で……断ち切るっっ!!」
バシュウゥゥゥゥゥッッッッッ!!!!!
そんな一気に盛った火炎の如き轟音を伴って。ミラは残っていた力を全て聖剣へ込めると、輝く巨大な刃へと変換させて大きく構え直した。
――そうして。
「終わりだッッ!!
大魔王ォォッッッ!!!」
一閃。
「ウグッ!?
ウググオオッッッッ!!!!」
ズジャアアアアアァァッッッッ!!!!!
その巨大な黒鎧を丸ごと断ち切るほどの大きな斬撃を放ち、ミラは大魔王を見事討ち取った。
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次話は21時の投稿を予定しています。