第42話 告白
「お、俺さ、将来、山岳ガイドになって、ここら辺の自然を守りたいんだ」
何を言い出すのかと、ユキもポカンとしている。
「でっ、でも、もひとつ守りたいものがあるんだっ」
ユキは一応頷く。その時、ゴンドラの機械が動き出した。新は横目でチラっとそれを見て慌てる。
「えっと、お、俺、好きなんだ! やまが たが・・・」
柄にもなく緊張で尻すぼみになった新の声は、不幸なことに、最後の二文字がゴンドラの軋む音と重なった。
ユキの瞳がクルっと動き、しかしユキは明るく返す。
「山が好き? 私も山が好きよ。私もそう言う仕事に就きたいなって思ってるから、一緒に頑張ろうね」
え? 聞こえてねえ?
新は焦った。ユキの傍らでは車椅子の由芽が何故か新を厳しく睨んでいる。
ちょ、ちょっと待って。なんで高岸が怒ってんの? 一歩下がった新に由芽が言い放った。
「あんた、なにいい気になってんのよ! ユキちゃんは私の彼女なのよ。勝手に手を出さないで!」
「へ?」
あ? 俺、悪者になってる? ってか、彼女って、何?
グォーッ
ゴンドラがゆっくりと入って来た。新は訳が判らない。何がどうなってんだ?
仕掛け人の月は横を向いて吹き出していた。ユキ、聞こえたくせに、上手く躱したな。まあ、そう急がなくてもいいか。まだ中学生だし。
+++
「おーい、ゴンドラに乗るぞー、一旦止めてもらうから、ゆっくりとな」
剛が大声で叫ぶ。ユキと遠藤先生がまた由芽を支えながらゴンドラへと乗せ、月が慌てて一緒に乗り込んだ。ゴンドラが動き出し、次のゴンドラに大人たちも乗り込んでゆく。乗り込みかけた剛がふと振り返った。
「おい!宗清君も乗るんだぞ!」
うわ!そうだった。新は慌ててもう一つ次のゴンドラの前に走る。
「はいはい、危ないからゆっくり乗ってよ。完全に振られたわけじゃないから、まだチャンスあるよ」
新の乗り込みをアテンドしながら、スタッフの人がニヤリとした。
グォーグォングォン
新が一人で乗るゴンドラが山を下る。新はスタッフの人の言葉を反芻する。そう、振られたわけじゃない。きっと言葉が足りなかっただけだ。高岸は訳が判らんけど、またやり直せばいい。
山の上ではあんなに激しく降った雪も、下界の地面には殆ど残っていない。何回も雪が重ならないと真っ白な雪原にはならないんだ。よーし、俺もひと冬かけて、何回もアタックするぞ、雪女に。
センターハウスの駅にゴンドラが到着する。ドアが自動的に開くと、新は思い切って飛び降りた。