第41話 到着
一行がゴンドラ駅に近づくと、稲葉先生が階段を駆け下りてくる。
「先生! あぶねぇーですぅ」
新が叫ぶのもお構いなしに稲葉先生は橇に近づくと、しゃがみこんで由芽の頬を両手で包んだ。
「お帰り、良かった、無事で」
由芽が起き上がろうとするのをユキが手伝い、よろけながら橇から出て立ち上がった由芽を先生は抱きしめる。
「すみません…でした」
由芽のくぐもった声を無視して稲葉先生は『良かった良かった』を繰り返している。
「じゃ、上がろうか。ユキちゃん、気を付けて一歩ずつな」
剛が声を掛け、稲葉先生とユキが左右を支えながら階段をゆっくりと上がる。ようやくゴンドラ乗り場に到着した一行を、月が拍手で迎え入れた。ゴンドラ乗場のスタッフが、どこから持ってきたのか車椅子を出してきて、由芽はそこに座った。スタッフは剛に告げた。
「隊長、寒い中申し訳ないんだけど、ゴンドラ動かすの、もうちょっと待って下さいや。今、下に連絡するんで」
「すまんな、慌てなくていいから」
大人たちは其々がスマホで電話しながらバタバタしている。下界には父兄や先生が集まって大騒ぎになっているようだった。
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そんな中で月が、すーっと車椅子に近づいた。
「由芽、ヒーローみたいになっちゃったねぇ」
「むっちゃハズいんだけど」
由芽も同級生の前では素に戻る。
「ユキが見つけたんだって?」
「そう、命の恩人よ」
由芽は傍らのユキの手をぎゅっと握った。
「ありゃ? 敵じゃなかったっけ?」
「まさか。私、足が治ったらユキと一緒にスキーに行くの。もう月に独占権はないからね」
由芽はニコッと笑った。
「なんじゃそりゃ。まぁ、そう言う事になったんだったら構わないかな。ダメ元で」
「ん?なに?」
「ちょっとしたセレモニー」
月はチョイ悪そうな表情で、今度は新の横へ行った。
「宗清、ちょっといい?」
新を後ろに向かせて、月は新に小声で喋り始めた。
「今、ユキに告りなよ。由芽もいるし、ちょうどいい舞台じゃん」
「え?マジかよ。だって今は」
「今は何よ。後はゴンドラで降りるだけだもん。そしたら親や先生がたくさんいて、それどころじゃないよ。それにユキがOKならさ、お母さんもいるから公認になるよ」
おっと、そう言う見方もあるのか。新は計算する。そう、空には星がきれいだし、周囲は雪景色。今日は二人の時間もたくさんあって理解しあえた筈だ。チャンスなのかも知れない。新は気合を入れて一歩を踏み出した。
近づく新をユキが不思議そうな顔で見る。
「あ、あの、山形」
「はい?」
ユキの正面で新は気を付けの姿勢を取った。