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雪女のシュプール  作者: Suzugranpa
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第36話 嫉妬

 4月、ユキは二年生に進級した。バックカントリーのあの場所にスノードロップが咲いている頃だ。しかし、その後、ユキはもうゲレンデにもバックカントリーにも足を運ばなかった。父親の形見とも言えるウェアの切れ端はハンカチに包んで、引き出しに大切にしまってあるが、それ以上のことはなく、晴樹と紗香の元でごく普通の中学生生活を送っていた。もっとも、だからと言って、養父への『ハルキ』呼ばわりが直った訳ではなかったのだが。


 白兎中学は1クラスしかないのでクラスはそのまま持ち上がる。だからクラスメイトの関係もそのまま。しかし春休みを過ぎて、由芽は妙に気になっていた。


 近しいのだ。 ユキと新が。


 るなが新を突き放しているのは相変わらずに見える。しかし1年生の間は、ユキも新に対しては無関心でなかったか。確かに新は度々ユキにちょっかいを出していた。しかし大抵はクールに跳ね返されていた筈だ。由芽はそれを好ましいことと見ていた。ところが…、


「やまがたぁ!」

「はい?」

「知ってる花屋に聞いたらさ、あの花の球根、そのうち入るって。買いに行く?」

「え。秋植えじゃなかったっけ」

「そうなんだけど、入ったら秋までは保管するんだろうな」


 新はユキの机の横で親し気に机に肘をついて話している。 何なの? 由芽は上目遣いで見続ける。ユキは可愛く小首をかしげた。


「どうやって保管するんだろう。暑いと駄目な気がする」

「ん。花屋に聞いてみるよ。どのみち花屋でも保管するんだから、秋になってから買ってもいい訳だよな」

「うん。売切れそうにないし」

「オッケイ。じゃ、入ったら幾つか秋まで取っといてーって言ってみるよ」

「ありがとう」


 新はにっこり笑ってユキの机を離れる。


 ちょっと! 本当に何なの? ガーデニング部でも作ったの? 気が気でない由芽はるなを捉まえて聞き込みをした。


「ね、月。最近、宗清君とユキが怪しく見えるんだけど。私には」

「そーぉ?」

「見える見える。宗清君が親し気に近づいていくし、ユキも前みたいに不愛想じゃない」

「あー、そりゃね。いろいろあったし」

「なに? いろいろ」


 月は困った。あの話は長過ぎるし、第一、クラスの中ではユキは長野市内から来た都会派になってんだよなぁ。今更、実は新潟生まれで小さい頃は白兎町に居て、お父さんが消防団で、そのお父さんは…なんて言えない。ましてやユキのお父さんとあたしのお父さんがそっくりで…なんて、あ、これは言わなくてもいいか。


「何なの? いろいろ」


 由芽は眉間に皴を寄せている。月は溜息をつく。まっずいなぁ、これ。だいたい宗清がだらしなさ過ぎるんだよ。さっさと告って振られちゃえばいいんだけど、煮え切らないし、まあ、彼が崇拝する救助隊長さんがユキのお母さんのお父さんだって言うから、振られて気まずくなるのを避けるのは理解できるけど…。


「ね、月は何か隠してるでしょ」


 由芽は頭から湯気が出そうだ。


「いや、隠してるって訳じゃないんだけど、大っぴらに話す事でもないしさ。まあ、春休みにスキーしたらたまたま一緒になっちゃったってことで」

「なにそれ。本当にたまたまなの? ユキがモーションかけてんじゃないの」


 モーションをかける? なにその昭和っぽい表現。月は違う意味で驚く。誰に習ったんだ? おばあちゃんか?


「意味が判んないけど、基本的にユキは変ってないよ。必要以上には相手にしてないし」

「そうかなー」

「どっちかって言うと、宗清の方が熱心なんじゃない?」

「マジ? 宗清君、ユキが好きなの?」


 月は慌てて手を振って言い訳する。


「そう聞いた訳じゃないけどさ、スキーがさ、ほら、ユキって上手いじゃない。だから宗清も目の当たりにしてリスペクトし出したって言うのか、親近感持ったって言うのか…」

「それで好きになったってこと?」

「だから、そういう訳じゃなくて…」

「それ、月も居たの?」


 最早、尋問である。


「まあね。ユキとは一緒に行こうって前から言ってたし」

「ふうん。二人きりじゃないってことね」

「そうよ。親もいたし」


 由芽は眉間に皴を寄せたまま頷いている。


「ま、いいか。じゃあさ、何かあったら教えてくれる? 私も二人が一緒に出たりしたら尾行してみるし」

「び、尾行?」

「そりゃそうよ。王子をよそ者に取られるなんて恥だもん。許せないよ」


 言い放つと由芽はツカツカと歩いて行った。月は大きなため息とともに、窓枠に手をついた。


 うわーーっ、めんどくせぇーー。


 この事は、月も敢えてユキにも新にも何も言わなかった。月は新の気持ちを知っているだけに、余計に面倒な話になりかねない。下手するとあたしが悪者になっちゃうしな。さっさと二人がくっついてくれると諦めもつくだろうけど、見たところ、ユキにその気は無さげだし、ユキが振ったら振ったで、由芽は『原住民への屈辱』とか騒ぎそうだし。どうしたもんだか。


 その後、月なりに気を遣って両名プラス由芽に接していたのだが、幸い、1学期の間は騒ぎにならなかった。


 問題は2学期だ。行事が多く、カップルが生まれる季節でもある。まずは遠足、つまりトレッキングと、その後の文化祭だ。特に文化祭は危ない。あたしがユキを守らなきゃ。月は妙な正義感を持った。



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