36/50
第35話 ひと区切り
しばらく黙り込んでいたユキは、木を見上げ、そして雪面を眺めた。
もしかして…。
ユキは一つの可能性を思いついた。だが人に喋る事じゃない。でも、じゃあ、どうしたら…。
そんなユキを紗香がじっと見つめている。
紗香の視線に気がついたユキは、紗香の腕に自分の腕を絡め、小さな声で言った。
「ママ」
「ん?」
「私、もうここには来ないようにする」
「え? なんで?」
ユキは黙り込む。紗香は自分の腕に伝わって来る僅かな震えを感じた。
この子、ここで何かを感じているのかも。ひょっとしてパパと心で会話しているのかな。私たちは踏みこんじゃいけないところだ。
紗香はユキの手を取り、自分の掌で覆った。
「ユキがそう思うならそうするけど…」
「うん。ごめんね。散々大騒ぎして」
「いいのよ。当然だと思う」
ユキの腕が離れ、拳が握られた。
「代わりにゲレンデをガンガン滑りまくる!」
瞳にも明かりが灯った。
「そうね。その方がみんなのためにはいいかもね」
母娘は顔を見合わせて微笑んだ。本当に、13歳のひと区切りだ。