第30話 そっくりさん
フォグの向こうから声がした。
「月?」
え? この声って
「ユキ?」
「うん、そう。ママと一緒だけど」
「よく判ったねー」
「月の匂いがした」
「追いつかれちゃったなー」
月の背後で新が言った。ユキも驚く。
「宗清君もいるの?」
「まあね」
「な、なんで?」
「ユキを手伝おうかと思ってね」
月がペロッと舌を出す。
口をポカンと開けるユキを見て、圭介がゴーグルを外しながら月に言った。
「これで充分サプライズじゃない?」
しかしユキはその圭介を見て更に絶句した。え? パパ… いやいやそんな筈はない。誰?
圭介はユキの顔を面白そうに見る。以前、スマホで月との2ショットを見ているから、圭介にはユキがすぐに判った。
「この二人が何だか企んでてさ、サプライズにするからって手伝わされてんだけど、ユキちゃんのその顔でもう充分って気がするよ。あ、ごめんね、僕は月の父親の遠藤圭介です。初めまして」
隣の紗香も慌ててゴーグルを外してお辞儀をする。
「月ちゃんのお父さん? すみません、ユキの母です。いつもユキがお世話になります」
遅れてユキも頭を下げるが、内心はそれどころじゃない。私からするとあなたがサプライズだよ。だけどそんなこと言えやしない…。いや、ちょっと待て。今はそこじゃない。そもそも…
「な、何を手伝うって?」
「ユキってさ、夏休みの宿題で描いた、あのお花を探してるんじゃない? 咲いている場所を」
月が一歩近づき、新が肯く。止む無くユキも小さく肯いた。
「なんで判ったの?」
「そりゃ、宗清の熱い想いよ」
「おいおい、今はいいから、それ」
新が慌てる。圭介が紗香に向かって言った。
「なんだか事情は判らんのですけど、ここら辺は中学生だけじゃ危ないんで、文字通りの保護者で僕も手伝ってるって訳です」
「それは仰る通りですね。ゲレンデを外れると本当に危険ですもんね」
紗香はビンディングを外し、板を雪面に突き刺す。ユキはまたポカンとした。パパと一緒に植えたお花を、みんなが探してるって? どうなってるの? ユキは心臓バクバクが止まらない。紗香に倣ってビンディングを外しながら、ユキは圭介の言葉の続きを聞いた。
「この辺りで、草花が生息するなら、ここじゃないかって思って、僕たちもさっき来たところなんですよ。フォグが晴れたら一緒にお探ししますよ」
パパが決めた場所をパパのそっくりさんが探すなんて、何の罰ゲームよ。ユキはもう訳が判らなくなっていた。