第29話 救助しない救助
三人はスキーを外し、雪面に立てる。そして木々の下を探し始めた。雪の表面をそっと掬ってのぞき込む。月はため息をついた。
「こんな調子だと何時になったら終わるんだろう」
新も同じ思いだった。第一どこを調べてどこを調べていないかなんて、目を離すとすぐに判らなくなる。そう思って顔を上げたとき、ずっと下の方からフォグが上がって来るのが目に入った。新は圭介に告げる。
「やばいっすね。フォグが来ると益々探しづらい」
「そうだね。みんな今の場所をあんまり動くな。フォグが晴れるのを待とう」
そして圭介はバックパックから取り出した灯火を、雪面に刺したスキー板の先端に取り付けた。スイッチを入れると黄色に点滅する。
「黄色は目立ちますね」
「うん、フラッシュさせると気を引くからね。間違ってこっちに突っ込んでくると危ないから」
「なるほど。あの、そう言うのってどこかで習うんですか?」
月のお父さんもなかなかのアウトドア派だと新は感心していたのだ。
「どこか学校みたいな所で習う訳じゃないよ。先輩なんかと山に登ったり、山スキーするとさ、自然と覚えるし、覚えなきゃ危ないし」
「いい先輩がいらっしゃったんですね」
「まぁ、雪国だからね。みんな山スキーとか行ったさ」
「あれ? 長野・・・なんですか?」
「いや、隣だよ。新潟」
「あっ、そうか。月さんも新潟生まれだった」
「だけどここのホテルに来てから結構役に立ってるよ。冬場のお客様には冒険したがる人もいるからね。レセプションとかに相談に来られた時、僕が出て行っていろいろお教えするんだよ。怖さも装備もね。この人ちょっと危ないなと思ったら、時々脅したりもするよ。行方不明になったって、すぐ保険金は下りないんですよ、とかね」
「えー」
「そしたら大抵奥さんの方が『止めようよ』とかなっちゃうけどね」
「あはは」
新は感心した。予防も一つのレスキューだ。救助される前に救助している。俺の将来ももうちょっと範囲を広げて考えてもいいかも。
その時、圭介が斜面の山側を見た。
「誰か来る。念のために宗清君も月も木の陰に入って」
「はい」
その直後、人影が二つ、ヘッドライトをフラッシュさせながら上手くカーブを描いて速度を落とし、新たちのいる林の前で止まった。