第28話 父親の勘
ゴンドラを降りた遠藤親子と新は、少し山手側へと登ってゆく。
「サプライズが草花探しって、まだよく判らんけどな」
ゴンドラの中で月から聞いた話を思い出して、圭介がボヤく。
「いいの。見つかったら事情が判るから。とにかくお父さんは木が生えてる場所に上手く案内してくれたらいいの」
「親使いの荒い娘だこと。宗清君もそのうち思い知るよ。女の怖さを」
「えー、そうっすかぁ」
「ま、判らんから好きになるんだけどな。だから判らん方がいいのかな」
「ちょっとお父さん、余計な事言わなくていいの」
新が笑う。
「でもなんか、娘さんがいるっていいなって、今ちょっと思ってます」
「まあそれは否定はせん」
「これ、男ども! さっさと滑って見つける! ユキに追いつかれちゃうよ」
月が号令をかけ、一同はバックカントリーに向け滑り出した。
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「あ、あんな所です。隊長が探していたのは」
新が木々の下に先に滑り込む。圭介が後に続く。
「ふうん、なるほど。こういう場所なら積雪も幾らかマシだし陽当たりも良いから、雪も溶けやすいな。流石は救助隊長さんだね」
月がポールで雪面をほじくり返している。
「うーん。何もないよー、掘ってもひたすら雪」
「じゃ、次、行くか」
一同はまた滑り出す。幾つかの林の下を観察したが、草花らしきが出ている気配はない。
「やっぱ、まだ早いのかなぁ。雪が溶けてからの方がいいのかな」
月はため息をつきながら父を追いかける。父は緩斜面の真ん中で停止していた。
何だろ?
圭介は目を凝らす。ずっと左の前方。緩やかに上がっている場所に林がある。その向こうは恐らく崖。調子に乗って突っ込むとエライことになる場所に見える。その林の中の一本の木の枝から突然雪の塊が落ちたようで、雪煙が舞い上がっている。木はシラビソの仲間か。と言うことは、緩斜面で適度な湿地であると言うことだ。積雪があれば地表付近の温度も0℃を保持できるから、草花の球根も凍結しない。ほう、あの場所なら…
圭介は追いついて来た二人に、ポールでその場所を指した。
「珍しい草花が生えそうな場所なら、僕だったらあそこを探すな。人が踏み込むこともなさそうな場所で、陽当たり良好」
その場所は、断崖の手前、背面の木々で守られ感のあるちょっとした窪みで、その先は雪庇になっている。山頂の方から滑り降りて来ると、少し手前からカーブして危険を避ける場所だった。
「行ってみましょう。なんか曇って来たし」
空を仰いだ新が先導し、三人はその小さな林を目指した。