第24話 深謀
「遠藤さん、ちょっといい?」
珍しく新が礼儀正しく月に声を掛けた。2月の廊下での出来事だ。
「なに?畏まって」
「うん、俺さ、先月、消防団の訓練を見に行ったんだ、唐沼高原スキー場とバックカントリーの間くらいの場所へ」
「はい」
何の話? 月は戸惑う。
「そこでさ、山岳救助隊の隊長がさ、木の下を棒でつついてさ、何かを探してるっぽかったんだよ」
「はぁ」
「何してるんですかって聞いたらさ、春先に草花が出て来そうな場所を探ってたんだ」
「うん・・」
「山形のことなんだけど、あいつも何か探してるっぽいじゃん」
「前にあんたがそんなこと言ってたね。ユキは否定しなかったっけ?」
新は腕組みをして深く肯く。
「そう、そうなんだ。秋の遠足の時はね、そんなことないって言ってた」
「じゃあ違うんじゃない?」
「それがさ、12月のスキー場オープン直後にさ、山形のお母さんがバックカントリーを滑ってるんだよ」
「はぁ?」
「スキー場の人が見たって言っててさ、山形のお母さんってめっちゃ上手いんだぜ、スキー」
「へぇ」
「装備がバックカントリー用だからスキー場の人も気がついたんだって」
「ふうん」
「で、いつの間にか山形と一緒に降りて来たって」
「親子だもんね」
「そうだけど、ゴンドラには山形のお母さん一人で乗って行って、降りて来た時には親子一緒なんだよ」
月も首を傾げた。
「どう言うこと?」
「どこからか山形が現れたって事だよ。お母さんの装備からして、多分、バックカントリー」
「あー、先にユキが行ってたってことでしょ?」
「そう」
「何が不思議なの?」
新がイラッとした顔をする。
「山形が先にバックカントリーに一人で行ったってことだよ。危険じゃんか、フツーは」
「まあそうね」
「俺が思うに、連休のトレッキングコースと同じで、お母さんがレスキューに行ったんじゃないかって」
「ふうん」
「それの意味するところは、やっぱ、山形は何かをバックカントリーで探していて、お母さんもそれに気がついて、 でも一人じゃ危ないからって助けに行ったんじゃないかな」
「あー、そう言う推理なのね。あんた、ユキに何かを探させたいみたいね」
「そういう訳じゃないけどさ、なんか放っとけないって言うか」
「好きなんだ、ユキのこと」
突然新の顔が赤くなる。
「いや、そ、そうじゃなくて、やっぱほら、原住民としては移住者に優しくって言うか、手助けって言うかさ・・」
「わっかり易いねー、あんた。由芽に襲われるよ」
「ちょ、ちょっと、そういう方向じゃなくてさ・・」
「じゃあ、何なのよ。あたしにどうしろと? ユキに吐かせろーなんて嫌よ」
新は照れ隠しに手を振り回す。周囲の生徒が怪訝そうに新を見る。
「ほら、遠藤って山形のお母さん知ってるんだろ? 遊びに行ったとか言ってたじゃん」
「うん、まあ」
「こっそり聞いてみてよ。本人には聞きにくいじゃん」
「聞いてどうするの? 結局手伝いたいんでしょ?ユキのために」
「いや、それは、これから考える。隊長みたいに草花だったら手伝える。ほら、山形って夏休みに白い花を描いたんだろう? あれが好きで探してるってのもありでしょ? そんなのじゃなきゃ手伝えないかもだけど」
月は呆れて手を拡げた。
「いい加減な話ね。そんなんじゃユキに口利きしてあげないよ。ま、お母さんに会ったら一応聞いておいてあげるけどね」
半ば言い捨てるように、月は新の前を立ち去る。あまり話し込んでいたんじゃ、あたしが由芽に襲われちゃうよ。