第21話 探しもの
紗香もユキの隣でしゃがみ込んだ。泣いているユキの背中を擦る。この子、親の前で泣くの、初めてかも知れない。紗香はその切実さを感じた。しゃくり上げながら、ユキは切れ切れに言った。
「ママ…ごめんね…隠してて。ホントにごめんね…」
「ううん、いいのよ。少しは整理がついたのかな」
「あの…あのね…、ユキはちっちゃい頃、パパと一緒にね…球根を植えたの」
意外な単語。球根? 何の話だ?
「ここの山のね…、どこかの林の木の下に幾つも植えたの」
「球根って?」
「春になったら下向きの白い可愛いお花が咲くって、・・・、パパが言ったの」
「お父さんとここに来て植えたの?」
「…、ゴンドラに乗って、そこから歩いて、秋に植えたの」
よしよし…。ずっと秘めていた思い出と想い、それが今迸っている。
「だから、だから…、お花、咲いたかなって…」
嗚咽が激しくなる。紗香は更にユキの背中を擦った。
「…、春になってから 一緒に スキーで 見に 来たの… そしたら…」
そう言うことか! 紗香はピンと来た。これを言わせるのは可哀想だ。紗香は拾ってあげた。
「もしかして、そこで雪崩に遭ったのね」
ユキはコクンと頷いた。
「…、ユキは助かったけど、パパは…」
「うん。もういいのよ。ママは少しだけ知ってるの、その事故のこと。ユキがその女の子だろうって判ってた」
ユキの嗚咽は不意に止まった。
「ママが?」
「うん。ユキを助けたの、ママのお父さんよ。ユキも一回だけ会ったことあるかな、おじいちゃん」
「あ」
「ユキの名前までは覚えていなかったんだけど、多分ユキがその女の子だって教えてくれた」
ユキは下を向いた。その人に抱きかかえられて助けてもらったこと、今でも覚えてる。おじいちゃんだったのか。束の間、ユキは、ぼーっとした。
「ユキはそのお花の場所をずっと探してたんだ」
ユキは肯く。
「じゃ、ママも一緒に探していい? そのお花」
「うん」
6年間も一人でよく抱えて来たね、まだたった13歳なのに。紗香の目にも涙が滲み出た。
「でも3月の方がいいかな。こんな中で探すの大変って、解ったでしょ?」
ユキは黙り込み、涙を拭いて、やがて小さく肯いた。紗香が背中をポンと叩き、ユキはゆっくりと立ち上がる。
「ハルキもユキのこと、知ってるの?」
「ううん。パパはよく知らないよ。ママとユキの秘密にしておこう。ユキはバックカントリーを滑りたかっただけって言っとくよ」
「うん」
ユキはちょっと含羞みながらポールを引き抜く。紗香はその背中に話し掛けた。
「ユキ、さっきから自分のことを『ユキ』って言ってるよ。小さい頃はそう言ってたのかな。可愛いからそのままにしときな」
「あ」
冷静沈着なユキが珍しく狼狽えた。