第19話 雪洞の中
何分経ったのだろう。
雪がユキの上に降り積もる。もがき過ぎは体力を消耗する。小さい頃、パパに教えてもらった迷子の時の鉄則。開けた同じ場所でじっとしていなさいと。しかしこのまま雪が降り積もれば、私は雪に覆われる。まるで雪洞の中に閉じ込められるように。
顔の周りに空間を作ること。これも教えてもらった。今のところ空気は大丈夫だけど、雪が崩れて空間が塞がれることもある。そこは気をつけないと。
きっとママは学校から帰って来て、私が居ないことに気が付いて、でも月と一緒にスキーに出掛けたのだと思って、しかし夕方になっても帰ってこないことを心配して、メッセージを入れても返事がなく、月のお母さんに聞いてみたら月は家にいて… そこで初めて気が付くのだろう。私が一人で滑りに行ったのだと。プローブが無くなっていることにも気づくかも知れない。勘のいいママのことだ。きっとゲレンデではなくバックカントリーだと察するに違いない。レスキューはそれからだ。今から多分4時間後くらい。その頃には辺りは暗くなっている。見込みはあるのか。それまで頑張れるのか。
頑張らなくてもいいのかも。
ユキはふと思った。どうせ独りぼっちだし、パパと同じように雪の中で一生を終える。自分の名前に相応しい最期だ。クラスのみんなは『やっぱり雪女だった』と思うかな。見つかるのは雪が溶けた春。それでいいのかも知れない。パパに会えるんだもん。パパはきっと『ユキはバカだなあ。俺の真似なんかしなくてもいいのに』って笑ってくれるだろう。それから初めてお母さんと会うんだ。ちょっと楽しみかも。
ふう。
ハルキとママは泣くかな。2年しか一緒じゃなかったけど泣いてくれるかな。ママは私の部屋にこっそり入って、きっとそこで泣くんだろうな。私の為に設えてくれた部屋。見つかって恥ずかしいモノは置いていない筈だけど、だけどなんだかやり切れない…。
月には『ごめん』しかない。本当にごめんなさい。後味、悪いだろうな。なんにも言い訳出来ない…。
凍死する時って幻想を見るという。とてもきれいで温かくて、幸せな気分になれるって読んだことがある。カラフルなんだろうな。雪のスクリーンに投影される色取り取りのお花畑の光景とか。その向こうにパパが見えるんだ。どうせ見るなら早く見たい。
ユキの両腕から力が抜けた。