第18話 油断
その頃、ユキは唇を噛み締めていた。
「判らない。どの林も一緒に見える」
12月とは言えここら辺の積雪は既に1m超。地面の形状や特徴なんて皆目判らない。ユキは木々の下を少し掘り返してみた。しかし地面にはなかなか到達しない。小さなシャベルでは小さな穴しか作れないし、掘り返しているとスキーを履いたままでもユキ自身が沈んでゆく。
あの日、パパは何を目標に滑っていたのだろう。雪で覆われた山であっても地形を熟知していたに違いない。私はそんなこと何も知らない。何となく木々の集まり方の雰囲気を覚えているだけ。やはり春になってから、歩いて来ないと判らないのだろうか。しかしあの花が咲く3月にはまだ雪が残っている筈。
どうしたら… あ、またフォグだ。
ユキの目にゆっくりとフォグが流れて来るのが見えた。連休の事を思い出す。2回は失敗できない。急がなきゃ。
ユキはまたそろそろと滑り始める。雪原の両脇に時々現れる林を繋ぐように緩やかな円弧を描く。
あれ? あの木の並び方、見覚えがあるかも。
ユキは通り過ぎた左側の木々を振り返った。その瞬間、
ズコッ! うわっ!
コブを見逃したのだ。分厚い雪に覆われた倒木に突入したユキは、それを乗り越えることが出来ず、情けないジャンプのように横滑りし、そのまま右半身から雪原に放り出された。
弾みで片方のスキー板が外れ、雪面を流れて行く。板はやがて小さなクラックに落ち込み、突き刺さった。
ヤバい…
ユキは半身が新雪に嵌り込み、起き上がろうとするが、もう片方のスキーがつっかえ棒になって動けない。板を外そうとビンディングに手を伸ばすと更に新雪に嵌り込む。第一、無理に板を外そうとすると足を捻挫しそうだ。
ユキのバカ。ちゃんと前を見ないって、なんて大失態なんだ。初心者じゃないのよ。ユキは自責の念に駆られた。今日は誰にも言わずに来てしまったのだ。レスキューは期待できない。この恰好では、リュックに入っているスマホすら取り出せない。このまま降雪が続けば、ユキ自身が中に閉じ込められ、コブになってしまう。パパ…。ユキの身体と心は虚しくもがいた。
青空が覗いていた空には雲がかかり、次第に降雪が激しくなってきた。