第17話 探索
「ただーいまー」
紗香が玄関ドアを開けた。
あれ? 静かだな。晴樹もユキもいないの? どこ行ったのかな。靴を脱いで紗香は2階に呼びかける。
「ゆきー」
階段を昇りユキの部屋のドアを開ける。あれ、いない。
その時、表で車の音がして、間もなく玄関を開けて晴樹が入って来た。紗香は1階に降りる。
「晴樹、どこ行ってたの?」
「ショッピングモールだよ」
「ふうん。ユキも一緒?」
「いや。ユキはまだだよ」
「え? でも靴があるでしょ、スニーカー」
「あ、ホントだ」
「いないんだけど、どこ行ったのかな。メモもLINEもないし」
すると玄関の晴樹が叫んだ。
「ユキのスキーがないからさぁ、滑りに行ったんじゃない?」
確かにユキはそんな事を言っていた。月ちゃんと滑りに行くって。いや待て。紗香は少し胸騒ぎがした。
だって、月ちゃん、さっき学校に居たじゃない。お母さんと一緒に。
紗香はもう一度玄関に行き、クロゼットを開けてみる。あ… プローブもない。どう言うこと? 紗香は考え込んだ。プローブはバックカントリースキーの必需品だ。雪崩等に埋もれた人を探すのに使うものだが、ユキってそんなこと、知ってたっけ? 少なくとも私は教えたことがない。もしかしてあの子、どこかで調べて、良く判らないまま持って行った…とか。と言うことはバックカントリーを滑ろうとしているのか? それはひょっとして、あの探し物のために? ヤバい。
「晴樹!車出して!」
紗香は叫んだ。急ぎ身支度をする。スキーウェアに着替え、バックカントリー用装備をバックパックに詰め込む。救急セット、ビーコン、レスキュー用具、シール、折畳シャベル etc。
晴樹が紗香を覗きに来た。
「え? 紗香も行くの? あれ、どこ滑る気? スキー場だよね、ユキ」
「うん。一応非常用。晴樹はさ、センターハウスでスタンバイしててくれる? あの子、バックカントリーに行った気がするの。そしたらまた迷子になってるかも知れないから」
「え? マジ?」
「うん。スマホ持って、待っててね」
こう言うことは紗香の方がずっと上手だ。晴樹は文句言わずXVを出した。唐沼高原スキー場まで15分。助手席で紗香はポツリと言った。
「連休に林で迷子になった場所らへんに、ユキはいると思う」
「なんで?」
「それが判らないの。あの子、何かを探してる」
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ゴンドラ頂上駅で降りた紗香は、ユキの後を追うように斜面を登る。シールを付けているので、スキーを履いたままトレッキングコースへと歩く。少し登ってみたが山側に人影はなく、足跡もない。紗香は新雪の中をキックターンし、横手の林を目指す。上手くシュプールを見つけられたらいいんだけど。左右を見渡しながら、紗香は横方向へゆっくりと滑った。
木々の間を通り抜けると緩斜面の雪原に出た。ここだったかな、ユキが迷子になった所って。はっきり判らないけど凡そこの近くだった筈。紗香は方位を確かめ、緩やかに斜面を滑り降り始めた。左右を確かめながら、シュプール跡はないか目を凝らしながら。
スキーが奏でる音の他は無音で真っ白な世界。紗香はユキの心の中に迷い込んだような錯覚を覚えた。