第15話 手伝いたい
慌ててユキは新から目を逸らした。
「なんで?」
「いや、よく判んないから誤解だったら申し訳ないけど、何かを探してるんじゃないかって思ってさ」
「え、ううん」
俯いたままユキは首を横に振った。月が目を丸くして新の顔を覗く。
「何よそれ。宗清はなんでそんなこと言うのよ」
新は月には気圧される。
「い、いや、前に山形が山で迷子になった時にさ、ちょっと思ったんだ。幾ら街の子でも知らない山で一人でフラフラ散歩するか?って。もし親にも内緒で何かを探してるんだったら、俺、ずっと地元だし手伝えないかなって」
「そうなの、ユキ?」
月が心配気に問う。
「ううん。そんなことない」
ユキは消え入るような声で答えた。
「ほーら。前もあんたユキに言い掛かりつけてたし、手伝うとか言って、本当はユキのこと好きなんじゃないの?」
「い、いや、んな訳ねぇだろ。いや、それならいいんだけど、まあでもそう言うことで、いつでも力になるから」
新はまたそそくさと引き下がった。
「あいつ、きっとユキのことが好きなのよ」
新の背中を見送った月は断言する。ユキは心が苦しくなった。そう言う感情は、只今御免だ…。
「ユキ、気をつけてね。相思相愛なら仕方ないけど、変に思わせぶりするとクラスの女子を本当に敵に回すからさ」
ユキは小さく肯いた。
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新の言葉はユキには逆効果になった。具体的には判らないが、新は何かに気づいている。うかうかしているともっと深入りしてきそうだ。早めに探さないと。ユキは慎重に計画を練った。
間もなくこの辺りは冠雪すると言う。トレッキングコースは閉鎖となり、スキーシーズンまでゴンドラが休止する。するとあの日のバックカントリーに行き着くことが出来ない。かと言って、スキーシーズンはたくさんのスキーヤーが訪れ、一人でバックカントリーに進入するとスキーパトロールに見つかる可能性がある。
やはりスキー場オープン直後、まだみんなの目が慣れていない頃に虚をつく形で入るしかない。そしてゲレンデに戻ってくる必要がある。でないと本当に帰れなくなる。そんなコースを見定められるのか。更に装備も一応は揃える必要がある。大荷物では却って怪しまれるし目に付いてしまうので、遭難対策の最低限の装備。
ユキはネットでバックカントリースキーの装備をリサーチした。ビーコンなんて高くて買えないけど、プローブは家にあるのを知っている。ママのものだそうだが、なんでまたママがそんなものを持っているのか判らない。ま、1日ない位では気がつかないだろう。それから折畳みの小さなシャベル。これは百均で見掛けた。小ぶりだが今回はその方がいい。それから保温ボトルにお湯、非常食、ライト、携帯カイロ、救急セット、板に貼るシールはちょっと無理だけど、滑り降りるだけだから大丈夫だろう。そして、ここと思った場所で目印として結ぶリボン。これは何本か持ってゆこう。候補場所が何か所かになる可能性がある。
スキーは携行できるショートタイプ。ヘルメットは小学生から使っているもので良い。何とかなるな。
この程度ならいつものリュックに収まる筈。自分自身が遭難したら元も子も無くなる。ユキは慎重に計画を練った。日付は両親の目を盗める日、月と一緒に滑りに行くと言う体を取る。月、ごめん。
ユキは自室で月に手を合わせた。