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9.恋都と一緒


「……ぃ、ナカ兄!! ねえ、生きてる? ボクを置いて勝手にかないよね? 聞こえてる~? ナカ兄ってば!!」


 どこかの豪華な部屋に運ばれた――かと思っていたのに、間近に迫ってきた顔は恋都だった。


「こ、ここ……は?」


 見上げたら小さな谷間があった。


「保健室! もしかして転生でもしてるかと思った? そんなに世界は甘くないよ~?」

「それはそうだけど……それよりも恋都って、ずっと乗っかってた?」


 小柄な彼女ということもあってか、今の今まで俺の上に馬乗りになっていたらしいが、恋都の重さをあまり感じることが無かったのは内緒だ。


「軽いだろ~? えっへん! それに、ふふ~ん。ボクだって意外とあるんだぞ!」

「ん? 何が?」

「視線を真下から感じたぞ~? ボクのいいチチを見てただろ~」


 見てたというか、見上げたら自然に視界上にあったというべきか。


 それはそうと、


「恋都が俺をここまで運んだの?」

「それは無理! 俺なんてほざく生意気なナカ兄なんかを運ぶ義理なんてないもん! ボクはあの人に言われたから様子を見に来ただけだよ~」


 相変わらず歩み寄らせてくれないな。それにしても、恋都があの人呼びをするということは、まさか街香なのか?


「街香だよね? 何て?」

「んーとね、廊下に半端な筋肉男が転がってるから保健室に運べって。だから男子たちに協力してもらったんだよ~」


 半端な筋肉男ってキツイな。街香と交わした約束は多分、鍛えて強くなることだったと思うけど、それにしたって厳しすぎる。


 しかし意外だ。


 仲が悪いはずの恋都に俺のことを言うなんて、首を絞めたことに少しは罪悪感でも感じたのだろうか。


「男子たちっていうと、近東たち?」

「うん! 役に立つ時があって良かったって言ってたよ」

「そっか。あとでお礼しとかないと。で、肝心の街香は?」

「知らな~い。ボクとあの人が一緒に行動することなんてないし~。あ、一緒にと言えば……!」


 そこは徹底してるな。姉妹の問題は関わらないことにしよう。


「うん?」

「ナカ兄、これから一緒に行って欲しい所があるんだけど、行ってくれるかなぁ?」

「行くのはいいけど、今って何時? 俺が倒れてたのは朝なんだけど……」

「放課後だよ? すっごい寝まくりだったよね~!」


 え、マジか?


 朝から放課後まで眠りについてたとか、相当危なかったってことじゃ?


「せ、先生は何か言ってた?」

「一歩前進したかも! だって。意味不明だよね~」

「…………」


 街香のことなんだろうけど、授業とか出席扱いになっているんだろうか。


「でさ、一緒に行って欲しいなぁ……ボクとナカ兄の将来の為にもやってみたいし」


 馬乗り状態ながらも、恋都はくねくねと腰を動かしながら"甘え"を見せている。


 何をやりたいのかは不明だし、将来とかの意味も分からないけど俺を看てくれていたのは恋都だけだ。ここは恋都に付き合うことにする。


「いいよ。一緒に行こう」

「やったね! じゃあさ、これを先に書いて」

「名前……と、住所と学校名……を書けばいいの?」

「そうだよ。ボクは、カバン取ってくるから待ってて~」


 恋都に渡されたのは、チラシの裏に記入すればいいだけの簡単な履歴書だった。ということは、この紙と行く場所は――。


 嬉しそうにしながら歩く恋都と一緒に到着した場所は、学園からほど近い住宅街。一角にあったのは、住宅街カフェというやつだった。


 いわゆる隠れ家的なカフェというやつだろうけど、まだ開店すらしていないようで店内はよく見えない。


「恋都。ここってまだ開いて無いんじゃ?」

「そうなんだよ~! 開店準備から始めてくれるバイト募集中って書いてたから来てみたんだ~」


 開店準備どころか改装すらままならないような。しかも気のせいか、中で動いている人間がやばそうなんだが。


「ちなみにどこで募集を見たの?」

「学園のタブレットに流れてきたんだ~。ナカ兄は見てない?」

「意識飛んでたからね……」

「とにかくさ、入って面接受けようよ!」


 面接して受かったとして、改装費とか取られるんじゃないよな?


「と、とりあえず入ってみようか」

「行こう行こう~!」


 恋都がやる気みたいだし、まずは話だけでも聞いてみるか。意気込んで中に入ると、すぐに引き返したくなる男たちが俺と恋都を出迎えた。


「何だガキが二人? ここがどんな場所なのか知って入って来たのか? あ?」


 店内へ入ると、見るからにごつくて危なそうな男たちが三人ほど立っていた。しかもどう見ても店には見えない。


 カフェというよりここは怪しさ全開で一般人お断りの場所では?


 全身黒ずくめの格好をしてるし、どこかの組織のような気が。


「面接でーす! ボクたちを雇って欲しいです~お願いしまーす!」

「えっ、いや……恋都、それはまだ――」

「違わないじゃん! ボクたちでお店をにぎやかにして有名にしてみせまーす!」


 何て度胸がいい子なんだ、この子は。


「有名に? まさかてめぇら……ライバル事務所の――」


 事務所とか言い出してるし、男の一人が何かを手にしようとしている。冗談じゃなくて、本当に危険な場所なのでは。


 そんな状況すら気にしない恋都を見ながら、彼女の手を引いて外へ出ようとしたそんな時だった。


「小さい方はどうでもいいけど彼は何も問題無いから! そこの人、今すぐ膝をついて彼に忠誠を誓って!!」

「え、し、しかし……」

「……それならクビ。もう来なくていいから!」


 どこかの高貴そうな令嬢が、危ない男の一人を追い出してしまった。かなりの権力者っぽく見えるものの、同じ高校生のようにも見える。


 恋都はポカンとしていて沈黙しているようだ。そんな恋都に目もくれず、どこかの令嬢は俺の前に近づいて手を握ってきた。


「あたるくん、わたしに会いに来てくれた! ずっと待ってた、待ってたよ?」

「えー……と」

「あたるくんが欲しいって言ってたから、わたしから現れた、現れたの」


 この独特な言い方はもしかして?


 四人目の幼馴染の子に欲しいのがあると言ってた気がする。しかしとてつもなく苦しい状態だった気が。


「あたるくんが欲しいって言ってた、わたし。鮫浜さめはまひめ! 今日は最高の日って占いに出てた。当たった!」

「えっ、あっ……ああぁぁ! 姫……姫ちゃん!?」

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