安堵
(うぅぅ、頭が痛い、、こっ、ここは…俺の家???ん、待てよ…、どうも頭がすっきりしない。えーと、そうだ俺は気分が悪くなってそのままバタン…Q。あれれ、おかしいぞ?じゃあ何故俺はここに??まさか無意識の状態でここまで歩いてきたんだろうか…?いやそんなわけないよな?えっ怖い怖い怖い)
「謎は深まるばかりだ、…が、とりあえず後回しだ。」
「何が後回しなの?」
Mr.Xはぎょっとした。
部屋の中から突然女性の声がしたのだ。
「誰だっ!!」
Mr.Xは見えない敵に怒鳴った。
(暗殺者か!?いや違う、俺はまだ…。何故だ?何故俺の部屋に人がいるんだ!?しかも女だ。そもそもこの家を知ってる奴は茂田のおっさんと、あれだ、俺の彼女ぐらいなのに…。しかもだ、多分俺をここに連れてきたのも今ここにいる変質者だ…いや、待てよ??じゃあ何故その変質者さんはわざわざ俺を助けてくれたんだ?しかも家まで知っているときてる…)
「何!?もう急に怒鳴ったと思ったら黙り込んで!もしかして無視するつもりじゃないでしょうね!?」
(んっ?このボイスは確か…)
「あーやっぱり無視だ。せっかく助けてやったのに、これじゃなんだか助けて損したみたいじゃん。別に何にも期待してないけど。」
(やっぱりな、俺は天才だ!!)
「ステファニーだな!?」
Mr.Xはズバリ言った。しかしその瞬間に包丁が三本飛んできた。
(ファッ!!?)
「誰?ステファニーって?私は真理愛よ!」
「まりあ?」
「そう真理愛。飛鳥真理愛。あなたの彼女よ。記憶でも失くしたの!?もう冗談もいい加減にしなさいよね!」
「ああ、すまんちょっと記憶が混濁しててな。それと助けてくれてありがとな。」
※飛鳥真理愛(結構な美人):飛鳥は“とびしま”でも“ひちょう”でもなく【あすか】と読む。
一応Mr.Xの彼女。
ちなみにMr.Xは真理愛に対して鈴木光彦という偽名を使っている。
出会いはMr.Xが情報屋と落ち合う時にいつも利用していたバーであり、Mr.Xがたまたま一人で飲んでいたときに真理愛が逆ナンしてきたことがきっかけである。
最初のうちは仕事柄もありMr.Xも警戒して対応していたが、邪なオーラは特に感じられなく、それからちょくちょくこのバーで落ち合うようになった。
そしてその後なんやかんやあって真理愛から告白された。
真理愛とは何故か人が苦手なはずのMr.Xも気兼ねなく話すことができ、気を使わなくてもいいありがたい存在だった。
そして、『いやぁ!モテる男はつらいなぁ、ムホホ。』と言いつつMr.Xは身体目当てで真理愛の告白を了承したのだった。
しかしそのチャンスは何故だか今も巡ってこないのであった。
「ところで偶然でも俺が倒れているところをちょうどアスカマリアが見つけてくれるとは俺も運がいいな。」
Mr.Xは重い体を起こしながら言った。
「偶然じゃないけど。」
「はひっ?」
(偶然じゃない?どういうことだ?つけられてたのか、いやそれはない、それなら俺が気付くはずだ)
「何てね。それよりさー、みっちゃんさ、熱があるみたいだよ?今日はもう布団の中でゆっくり休んだほうがいいんじゃない?」
「あー確かにちょっと体がだるいかもしれない。」
「あっ!ゴメン!そう言えばそうだった!みっちゃん宛に差出人不明の封書が届いてるんだった。」
「なっ、なんですとっ!!?」
Mr.Xはそうだったとばかりに手を真上に上げいきなり腰を揺らし始めた。
「あっ、でも早いな、朝なかったし。届くのを見計らって電話してきたのか…?どれどれ?んっ!?こっ、こりは間違いなく、茂田のフォー!!!!!!!!!!!!」
Mr.Xは歓喜の声をあげた。
中には任務の諸費用として大量のクオカードと現金10万ペソと宝くじと映画のチケット二枚入っていた。
アスカマリアはMr.Xの一連の奇行を見ても特に驚くこともなくただ笑って見つめていた。
付き合い始めて3カ月ちょっと、もうアスカマリアはMr.Xの奇怪な行動を幾度となく目撃していたのだった。
「そういえばみっちゃんさ、その封書って何?いっつも思ってたんだけど。まあ最近はあまり見てなかったんだけど…。」
Mr.Xは焦った。どうやってごまかそう。これがばれたら、、色々やばい。
アスカマリアにも危険が及ぶかもしんれない、そう思った。
「あっ、これ?これは不倫調査の依頼の書類だぜ。」
Mr.Xは見事な言い訳をした。
「みっちゃんてさ、あからさまな嘘つくんだね。」
アスカマリアは見破った。
「なんでわかる?」
「だってこの探偵事務所全然依頼が来てなかったじゃない。」
アスカマリアはMr.Xをじっと見据えたまま微動だにしない。
(こいつ、やりやがるっ!)
「ああ、まぁこれは冗談だからな。本当は…、別の仕事で使う書類を上司から時々送って貰ってるんだ。」
「ふうん…、やっぱり不倫調査の依頼は嘘だったんだ。」
(あれはブラフか!)
アスカマリアはまじまじとMr.Xを見ている。
Mr.Xもここぞとばかりにアスカマリアを見返していた。
時々綺麗だなぁとか思いつつ、時々ムフフな事を想像しつつ、しかし顔はいたって真面目であった。
が、2時間後Mr.Xが笑ってしまい負けてしまった。
「まっ、いいか。そんなのどうでもよかったし。」
アスカマリアがつまらなそうに言った。
「それよりみっちゃんさ、お粥作ったんだけど…。」
「なぬっ!!!?」
この後Mr.Xは激しい昇竜の舞を踊り、お粥を一瞬でぺろりんちょしコロリと眠ってしまった。
アスカマリアは静かにMr.Xのパソコンのスイッチを入れた。
パソコンがカタカタいって起動し始めたる。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカ
「結局今までパスワードはわからなかったけど、この端末を挿してBIOSの設定を変更して、え-と…」
アスカマリアは小声で呟きつつスマホの画面を眺めながらパソコンの操作を続ける。
「…やったわ。」
アスカマリアは荷物をまとめるとMr.Xの事務所をあとにした。