久しぶりの任務
―プルルルル プルルルル プルプルプルルンルン
「はっ、スマホが呼んでる!?」
Mr.Xはスマホの着信音でとうとう眠りから完全に覚醒してしまった。
ここで説明するが、Mr.Xは自分の眠りを邪魔する奴はたとえ知っている奴であろうと、あかの他人であろうと、もう誰であろうと全くもって無関心なのだ!
そしてMr.Xはあわてて右手をポケットに突っ込むと、おもむろにポケットをまさぐりサングラスを取り出しそれを素早くかけ、左手にあるスマホの画面を見る。
そしてスマホの画面としばらくにらめっこしたのち、サングラスを目の上に少しずらし、画面の明るさを上げた。
どうやら画面には非通知と出ているらしかった。
Mr.Xは恐る恐るの手つきで通話ボダンを押した。
「あっ、もしもし」
「・・・・・・・」
応答がない。
「…もしもし?もしもーし!……もひもひ?くそっ、イタズラなら切るぜ!?」
Mr.Xは少しキレた。
(いたずらテレフォンか!?)
Mr.Xは思った。だが、その時だった
「・・・もし、・・もし、亀よ。」
電話口から何やらダークで渋い声が聞こえてくる。
(なにっ!?何なんだ…?何なんだよ、この電話!そう言えば、こ、このフレーズ…どこかで??もし、もし亀よ?か…そっ、そうか!!)
Mr.Xはしてやったりという顔をし、電話口に向かって口を開いた。
「…亀さんよ?世界、のうちで、お前ほど…、?」
Mr.Xはおそるおそる応える。
「ウハハハハハハハハ!久しぶりだなぁMr.X。やっぱりお前は…、あっいややめておこう。ところで今、何してるんだ?お前の事だろうからさしずめ趣味の盆栽でもいじくってるとこだったんだろう?」
どうやらMr.Xの知り合いらしい。
「たわけっ!あっ、いや、なっ、何でもありません茂田上官!私はまだ盆栽を趣味にするような年とはかけ離れておりますので、さしずめ金もなく暇なのでお昼寝タイムを取っていたところです。」
※ここで説明しよう!Mr.Xは今とある組織に属している。
そしてMr.Xの直属の上官にあたるのが今電話を掛けてきている【茂田勝彦】だ。
Mr.X自身はこの組織に属して数年経つのだが、この組織に属してる奴で知っているのは、自分の上官、自分の助手、あと自分と同じ役割を持つ奴ら数人である。
一応高額な報酬をもらってはいるのだが、組織の内部のことは全然把握していない。
ちなみにMr.Xが所属している組織とは、誰がつけたか知らんが
―世界犯罪者取締機構―
という組織である。
略して【ザ・ワールド】と呼ばれることもある。
Mr.Xの仕事内容としては、大体上官から犯罪者や凶悪犯罪者の居所や写真を載せた封書を自宅に郵送してくるので、その封書の中の指示に従ってそいつを調べたり、捕まえたり、…殺したりするという内容的には至極簡単な仕事だった。
「なぬっ!?金がないからお昼寝タイムを取っていた?」
茂田が何か言った。
「はい、ここ一カ月何も任務がなかったのでお金が無くなりやした。」
「そうか・・・、それは良かった。ところで何にそんなに金を使ったんだ?お前には破格の報酬金を払っているはずだが。」
「よ、よかった?う、うほん!何に使ったんですかね?忘れました。」
「そうか、それは良かった。ところで何にそんなにお金を使ったんだ?」
「ってそれさっきも聞いたじゃん!全くもう茂田ったら。」
「あひっ、さっき聞いたっけ?」
「聞いたよ!?ボケたんじゃないの?死ね!」
「えー聞いてないよ!て聞いたか…。っておい!!上官に向かってなんて口を!も~う許ひまへん!あひあひあひあひ!減給じゃ!」
茂田はキレてしまっていた。
茂田の怒鳴り声は鋭い刃となって電話越しのMr.Xの鼓膜を貫いた。
(いてっ)
「す、すみません上官。つい口が滑って本当のこ…、う、うほん!!冗談が好きなもので、つい冗談を言ってしまいました。で、なぜに私に電話を?」
「・・・・・・・・・・。」
一瞬の沈黙が流れた。
それはMr.Xにとっては永遠を思わせるほどの長い時間であったかもしれない
(し、しまった。上官からの電話ときたら仕事の事しかねーじゃねぇか!ちっ愚問だったな)
「そうか、そうだったのか、冗談か!いやいやすまん。わしもつい感情的になってしまっての。」
(うわっ、質問無視…)
「いやはや実はあれは演技だったんだよ。私もMr.Xが冗談を言っているのは早い段階で気付いていてね。もうあれだ!あの、最初の一言めで気付いたね!それに―」
―ペチャクチャペチャクチャ―
一時間後…
「で、何の用件で?」
「あっ、そうだったな。なぁに、暇だったからスマホの電話帳開いてランダムに電話番号を選んでいたら、ちょうどお前に当たったというだけのことだよ、ハハハハハハハハハ!」
茂田は高笑いをしてみせた、とその時
―プチッ。
どこかで血管の切れるような音がした。
すると電話越しでも聞こえたのか、慌てた茂田の声が聞こえてきた。
「と、冗談はここまでにしてだ…。Mr.X!任務だ!!」
「ほっ、ほい!」
「って嘘だけどな。」
「嘘だったんかいっ!」
ついMr.Xはお笑い芸人のようなツッコミをした。手は相方の代わりにマネキンを叩いていた。河川敷のどこにマネキンがあるかは全くもって不明だった。
「まぁ本当だけど。」
「本当だったんかい!」
今度は見えない手が茂田の脳天を叩いた。
「いてっ!まあ本当は嘘だけどな。でも嘘が本当で、嘘は本当になって、あるいは真実はいつもひとつでcosineα=sineβが成り立つとしたら…、本当は本当で嘘はなくなるかもしれんな。」
「もうなんのこっちゃわかりまへん!」
「それでだ、万が一こんなくだらなくて面白くないのをここまで読んでくれた人様がいたとしだ。・・・あれだ、このままだと非常にやばいのだ!もうそろそろ話を進めないと、読者が誰も…」
茂田は何か恐ろしい考えでも振り払うかのように頭を振っていた。
もうその速さといったら光の速さを軽く超えていた。
「Mr.X!今回の任務のことだが、詳しいことは封書で送るとして・・・、実にあれなのだが・・・。先に言うが今回の任務は困難を極めるだろう。まあだからお前に頼むんだんだがな、その任務達成率99.99%オーバーのお前に。でも今回はお前の助手のサブも連れて行った方がいい。何といってもいつにも増して危険を伴う任務になると予想されるからだ。こちら側としても今君をなくすのは避けたいんでね。」
先程とは打って変わって緊張した雰囲気がこの場に張りつめた。
それはMr.Xの過去の任務に起因することでもあったからだ。
「ありがとうございます。しかし、危険だからこそ今回はサブを連れて行くことはできません。…もう決めたんです。自分の目の前でこれ以上仲間が傷つく姿を見たくないと…。だから今は危険の少ない任務にしかサブは連れて行ってませんし…。」
何だか柄にもないセリフをほざいたMr.Xだったが顔は真剣そのものだった。
その顔つきと言ったら…、いや、今はやめておこう。
茂田はまだ何かほざいている。
「ディア―革命のことをまだ引きずっていたのか?過去を省みるなMr.X!一人の力には限界があるんだ、お前はもっと強いはずだぞ。それに助手なんて使ってなんぼだし、助手だってその結果どうにかなったってそれが本望なんだ!・・・たぶん!」
※ディアー革命:それは二年前のこと、世界犯罪者取締機構が独自に世界各国の精鋭諜報部員たちに近年の犯罪傾向を調べさせたところ面白いことに世界に起きてる犯罪や凶悪犯罪の何と6割が一人の人物に関係していることがわかった。
だがしかしその調査を進めていく段階で、その人物が一カ月後に革命を起こして世界を闇に染めようとしているじゃねーか!
その革命がディアー革命だ。ちなみに何故ディアー革命というのかというと、革命の主犯格、つまり世界の大悪党こと“ピカピ・ハゲロビン・デルソーレ(イタリア)”の口癖が風の便りによるとディアーだったことに由来している。つまりこちら側が勝手につけた名前だったのだ!ムフッ!
「なにっ!!助手なんて使ってなんぼで、うじ虫以下で、生きてる意味なんて全然これっぽっちもないのにわざわざ使ってやってるんだとっ!?お前には幻滅したぜ茂田勝彦!それにディアー革命の事も俺は引きずってなんかないっ!」
Mr.Xは上官に向かって見事に言い切った。
「Mr.X、誰もそこまで言ってないぞ?まあしかしだ。ディアー革命が阻止できたのもお前とその助手、ボブおじさんがいたからこそだ。あっ、いやすまん。嫌なことを思い出させてしまったな・・・。しかし世界はお前にもっと感謝するべきだな。」
「いや、もういいんだ茂田のおっさん。それにピカピはまだ生きてる。いつか必ず捕まえて見せるさ!きゃつが生きてる限りこの世界に平和は訪れないからな。」
「そうか…。お前の気持ちはよくわかった。それでは今回の任務、助手のサブを連れて行け。」
穏やかだが決して断ることを許さない声が聞こえてきた。
「じょ、上官!!」
「黙れ小僧!」
「はい!」
「私はお前のことを思って言ってるんだ。それにこの世の中、綺麗ごとだけではやっていけん。それにこれは何より上官命令だ!」
「はひぃー!」
Mr.Xの頭に上官の最後の言葉が何回も繰り返し響いた…、ような響かなかったような
Mr.Xは何も言い返せなかった。
Mr.Xは何故だか顔がかぁーっと熱くなるのを感じた。
そして茂田の声もあまり聞こえなくなっていた。
「わかりました。では一度家に帰ります。」
Mr.Xはそれだけ告げると、向こうが話してくるのを無視し電話を切った。
視界を河川に移し空を仰ぐと虹がかかっていた。
昼寝をしていたときに通り雨が降っていたのだ。
Mr.Xが大量の汗だと思っていたのは実は雨だった。
視界は揺れていた。頭もくらくらしていた。
―バサッ
Mr.Xは突然倒れ込んだ。