「公爵令嬢ってなんですの!?」
小公女セーラというアニメをご存じでしょうか?
原作はフランシス・ホジソン・バーネットの『A Little Princess』。
放送されたのは1985年。まだ時代は昭和でした。
古いアニメですが、名作と言われ、また主人公のセーラに対して嫌がらせをする、ミンチン女史、ラビニアと取り巻きたちなど、今流行りの”悪役令嬢”の見本の様な人物が登場します。
なんだか転生悪役令嬢物として『生まれ変わったらミンチン女史だった』で一本小説が書けそうな気もします。
”悲報、私、ミンチン女史に生まれ変わってる”
”悲報、ラビニアがいう事を聞いてくれない”
”悲報、なんかもう最終局面っぽい”
”悲報、妹に罵倒された”
”悲報、セーラの弁護士が訪ねてきた”
”悲報、小公女が現れた”
主人公は『小公女』のラストをよく思い出せないって設定で、全6話構成。よし、いける。
まあ、著作権的にいけませんが。
ここで『小公女』を上げた理由は、その”小公女”という言葉にあります。
そう、”リトルプリンセス”の和訳です。
”小公女”は小さな公女、即ち”公爵令嬢”の事ですね。
では、プリンセスは”公爵令嬢”なのか?
ここが、今回の主題、「公爵令嬢とは何か」になります。
☆プリンセス=お姫様?
変な言い方ですが、日本語の”プリンセス”という単語は、”お姫様”という意味で定着しているように思います。
一般的に王の娘、もしくは、王子妃。ディズニーやおとぎ話、それに類する物語のメインヒロインですね。
小説では、姫の他、皇女、王女、王太子妃などとも書かれます。
ですが、本来のPrincessには別の意味もあります。
それは、同じく一般的に”王子様”と訳されるPrinceも、です。
そもそも、Princeを王子様と和訳した事が間違い……とは言い切れませんが、プリンスには王子以外も含まれるのです。
それが、”公爵”です。
☆公爵=デューク?
現在、なろう等で使われている爵位、五爵(公侯伯子男)の筆頭が公爵です。
「なろう等ではなく、イギリス等では?」と思われるかも知れませんが、それは置いておいて。
通常、爵位のデューク(Duke)を公爵、グランドデューク(Grand duke)を大公、若しくは大公爵と訳します。
おそらく、なろうで使われている公爵、大公爵はこの認識で間違い無いでしょう。
ですが、前述通り、本来、日本語の公爵には英語のPrinceが含まれています。
単純に公爵と公爵が同じ公爵という単語に訳されている。かつ、プリンスには王子と公爵が存在する事を、多くの人が認識していないのです。
はい、「何言ってんだ、こいつ」とか思いましたね?
では、のんびりと説明して行きます。
☆五爵(公侯伯子男)と西洋の爵位
五爵と呼ばれる五つの爵位は本来、古代中国の爵位です。
これを日本が取り入れ、西洋の爵位の日本語訳として利用すると、上記の混乱が発生しました。
はっきりと言いますが、そもそも”公侯伯子男”の五爵と”デューク、マーキス、アール、バイカウント、バロン”は別物です。
それを対応させて和訳とした為に、微妙なズレを発生させています。
その最たる物が”公”に含まれる”デューク”と”プリンス”。
ついでに男爵以下の準貴族、”バロネット”と”ナイト”の存在もですが、それは別の機会に。
私が最初に”プリンス”に対する違和感を覚えたのは、イングランド王国の王位継承者が持つ”プリンス・オブ・ウェールズ”の称号に関してです。
皆さんも、多分、一度は聞いた事があるのではないでしょうか。
実はこれ、”ウェールズ王子”ではなく、”ウェールズ公”なんですよ。
私はずっと王子様の事だと誤解していました。……イングランド王子なんですけどね。
日本語で公国と訳される、君主が公爵である国の内、モナコ公国やリヒテンシュタイン公国は、プリンシパリティ、つまり、プリンスの支配する国です。
対して、ルクセンブルク大公国などは、グランドデュークの支配する国としてグランドダチィと呼びます。
デュークの支配する国を表す言葉は、ダチィ(duchy)とデュークダム(dukedom)、これらも日本語では公国です。
公爵、公国。
公爵、公国
特に意味も判らずに「○○公国」とか作中に登場させている作家さんはいらっしゃいませんか?
それ、プリンシパリティですか? ダチィですか?
意味が判らないのは、プリンスもデュークも公爵と呼んでいるからです。
つまり、日本語への翻訳が悪い。
更に「国家の君主は皇帝か王ではないのか?」と、そんな疑問もあるでしょう。
なぜ、公爵が君主たり得るのか。
では次に、君主とは何かを語ります。
☆君主 モナーク(Monarch)
君主とは国家の統治者であり、主権者です。
逆に言えば、国家の主権を持つ個人が君主です。
(複数の君主がいる国も存在しますが、それは例外として)
当然、”皇帝”は君主ですね。
”王”も多くの場合は君主です。
先に説明した通り、プリンス、デュークなどの”公爵”、”大公爵”も君主である場合があります。
重要なのは主権の有無、つまり”他国の支配に服さない”事で、王国内の公爵領なのか、公国なのかの違いは、ここにあります。
もちろん形式的な主権で、実際は支配されている場合もあるでしょうが、特に領土の維持管理、兵力の運用、税金の徴収に対しての決定権は君主が持ちます。
そして、もう一つ重要なのが、”君主の継承権”。
基本的に君主は世襲で、同一家系から継承者が選ばれます。
中には選挙によって君主が選ばれる国も存在しますが、こちらも国内の議会や選定候によって選出されます。
当然、国外からの干渉はありません。もしあるのなら、主権が揺らいでいるか、もしくは既に無い、と言う事になるでしょう。
実際、王国が他国の支配下にあり、王位継承が独自に行使出来ず、上位の国家に承認を求める場合もあります。
こうなると主権国家とは言えず、国王は厳密には君主ではありません。王爵位を持つ中間領主です。
さて。
では次に、通常、爵位には含めない”王爵”と、最上位である”帝爵”も併せ、ずらりと書き並べてみます。
☆爵位
爵位とは序列化された”栄誉称号”です。
本当に栄誉だけの物もあれば、領地と紐付いている物もあります。
当然、国によって違いがあり、また、同じ国でも時代によって変化しています。
国内の作品では、一般的にイギリス系を参考にしている物が多く、次いでドイツ系、フランス系でしょうか。
以下に、和名のあと、英語のカタカナ表記で男性形、女性形の順で書いています。
帝爵 エンペラー、エンプレス
王爵 キング、クイーン
大公爵 プリンス、プリンセス
大公爵 グランドデューク、グランドダッチェス
公爵 プリンス、プリンセス
公爵 デューク、ダッチェス
侯爵 マーキス、マーショネス
伯爵 カウント(アール)、カウンテス
子爵 バイカウント、バイカウンテス
男爵 バロン、バロネス
準男爵 バロネット、バロネテス
騎士爵 ナイト、デイム
ついでに、本来ドイツ語なのでよく判りませんが、
方伯 ランドグレイブ
辺境伯 マルグレイブ
宮中伯 パルスグレイブ
城伯 ブルグレイブ
更に、爵位ではないですが、
選定候 クーアフュルスト、は英語でイレクター(elector)で良いのかな?
さて、前述通り、西洋の爵位を無理矢理に五爵を当て嵌めている為に、明らかにプリンスの辺りだけ怪しい事になっています。
余談ですが、ドイツではプリンスに相当するフュルストが公爵より下位になるので、侯爵と訳される場合があります。
その所為で、リヒテンシュタイン公国も侯国と書かれたりします。
取り敢えず、英国を主として、公爵について纏めて話します。
☆公爵
公爵プリンス、女公爵プリンセス。
そして、
公爵デューク、女公爵ダッチェス。
まず、プリンス。
”王子”としてのプリンスは、今回は無関係とします。
語源はラテン語のプリンケプスで、”第一人者”と言う意味でした。
公爵としてのプリンスの定義は”特定の領域を支配する君主の称号”です。
例えば、先に上げたプリンス・オブ・ウェールズは、本来はウェールズの君主でした。
中世においては、キングを名乗る事は承認されないが、実質的に君主と見なされる貴族が名乗った称号が”プリンス”だったそうです。
実際には爵位は関係なく、ある程度の主権を持つと、”君主”の意味としてプリンスを名乗る様になりました。
調べてみると、公爵以外にも、伯爵がプリンスになった例がありますね。
ほぼ君主。
自称君主。
どちらにせよ、このプリンスは、王に近しい存在です。
プリンスが統治する国を公国と呼ぶのは前述通り。
デュークの公爵と混乱するので、プリンスを大公爵としている例もあります。
ただしグランドデュークも大公爵と和訳します、と。
……アホですか?
更に、全てのプリンスが大公爵とされた訳では無く、依然、公爵と表記されるプリンスが残ります。
もー、ホントにもー。
アホですか??
全く区別になっておりません。
そもそもプリンスには、公の字以外の、別の和訳を付けるべきだったのではないかと考えます。
ここで『小公女』の話に戻ります。
小公女というタイトルは、こちらの女公爵から来ていますが、セーラ自身は女公爵でも公爵令嬢でもありません。
父親のクルー大尉はお金持ちですが、公爵ではないはずです。
つまり、『A Little Princess』は”小さなお姫様”の意であり、『小公女』は女公爵のプリンセスとお姫様のプリンセスを混同した事による誤訳だと思います。
問い。
「公爵令嬢ってなんですの!?」
答え。
「ごめん、誤訳」
冗談です、公爵令嬢についてはまた後ほど。
次に、もう一つの公爵、デュークについてです。
語源は古代ローマの有力者に与えられた称号、ラテン語のドゥクス。
デュークは1337年エドワード黒太子に与えられたのが始まりです。
基本的に王族に与えられた事で、王位に次ぐ爵位となりました。
これらは王族公爵であり別格の扱いを受けます。
その後に、臣下にも公爵位が与えられる様になりますが、こちらは臣民公爵として、明確に区別されています。
デュークは、あくまで王家、もしくは王家に次ぐ家系に与えられる称号でした。
その為に、かなり上位の王位継承権を持っている可能性があります。
大公爵グランドデュークは、一部の有力公爵が「他とは違うのだよ、他とは!!」といった感じで、勝手に名乗り始めたらしいです。
それがそのまま定着し、また、他でも使われる様になりました。
当然、王家に近く、日本の宮家みたいに”王家の予備”としての機能も持ちます。
☆王国キングダム
王と諸侯の関係において、切っても切れないのが領地の話。
中世の王国では、国土の全てが王の領地という訳ではありません。
王は王国内に”王領”という独自の領地を持ち、それ以外の国土は、諸侯や騎士の領地として分け与えられています。
王家は絶対的な存在では無く、本質的には王国を形成する民族の中の、最大の有力者でしかありません。
公爵家に嫁ぐ娘に領地を分け与えたら、公爵領が王領を超えた、とか、ざらにあります。
下手したら公爵家が次期王家ですよ、まったく。
王は諸侯の領地を保障し、代わりに軍と税を求めます。
諸侯はそれぞれに自分の騎士を有しており、領地の一部を騎士領として分け与えています。
これら諸侯の騎士は、諸侯に対して奉仕し、諸侯の命により王国に奉仕します。
ここで重要なのは、諸侯の騎士の主は、あくまで諸侯、という事。
主の主は主に非ず。
これは、ホントに重要。
部下の部下は部下じゃないとか、結構洒落になりませんが、ガチです。
諸侯の騎士の忠誠が王に向く事は無く、諸侯が「戦わない」と言えば決して動かず、「よし、王を討とう」と言い出せば、即座に敵になります。
「貴様、なぜ裏切った!?」
「いや、そもそも、お前の部下じゃない」
みたいな状態。
いとおかし。
日本人に解りやすく言えば、織田信長と明智光秀、そして、その部下の武士の関係みたいなもの、かな?
絶対王政になると、奉仕とか生やさしい事は言わずに、義務になります。
貴族は地方領主から中央官僚へと変化し、王の下、国家の枠組みに捕らわれます。
王が諸侯に保障する物に”貴族特権”が加わり、諸侯がこれにしがみつく、しがみつかざるを得なくなる。
権威と権利・特権と義務が全てセットに成り、その結果が、
「王の物は王の物、諸侯の物も王の物」
もちろん、近世に入り、騎士が銃士になり、交通と物流が整備され、小国が淘汰されて、市民が台頭し始めてからの話ですが。
現在、なろうの主流を占める中世ヨーロッパ風の世界において、王は絶対に非ず。
公爵、場合によっては侯爵辺りに取って代わられる可能性も有ったのです。
☆爵位について
西洋の爵位には男性形と女性形があります。
公爵がデュークなら、女公爵はダッチェスという具合に。
また、英語では女公爵も公爵夫人も、同じダッチェスと名乗ります。
そう言えば、昔、女公爵の事を公爵夫人と呼んでいた様な気がします。
でも、公爵夫人という表記だと、公爵位を持つ男性の妻なのか、本人が公爵位を持っている女性なのか、判別が付かないですよね。
もっとも、その頃は、爵位は個人で無く家に付くものだと思っていたので、公爵の夫人も公爵位を持っていると誤解していたのですけれど。
爵位は個人に与えられ、原則として、嫡子に継承されます。
妻は夫の爵位を名乗りますが、その爵位を有している訳ではありません。
そして、公爵令嬢も、公爵位を持ってはいないのです。
もちろん、公爵令息も”令息”である内は公爵位を持っていませんが、伯爵以上の諸侯は”従属爵位”を持っており、嫡子はその内の一つを儀礼称号として称します。
公爵が持つ従属爵位は侯爵以下ですが、多い場合は2つ3つと持ち、嫡孫、嫡曾孫まで儀礼称号が付く事もあります。
例えば、
当主が、ボーフォート公爵
嫡子が、ウスター侯爵
嫡孫が、グラモーガン伯爵
嫡曾孫が、グロモント子爵
と言う具合に。
この場合でも、全ての爵位の所有者は当主になります。
その証として、当主のボーフォート公爵は”the Duke of Beaufort”と定冠詞theが付きますが、嫡子のウスター侯爵は”Marquess of Worcester”としか名乗れません。
日本語では区別が付きませんが、theが付いてないなら儀礼称号、つまり親の従属爵位である、と判断する事ができます。
相手がtheの付かない、聞き覚えの無い男爵号を名乗ったら、家は最低でも伯爵以上って事ですね。
「口の利き方には気を付けた方が良いですよ。子爵様?」とか言われるかも。
男爵位なんか覚えてないよぉ、とか言ってられません。
貴族にとって、家系の勉強はとても大事。
百年使われてなかった伯爵号とか、出てくる事もあります。
貴族の令息はロード(Lord)、夫人と令嬢にはレディ(Lady)の敬称を付けて呼びます。
『銀河英雄伝説』のアンネローゼ様は、昔、「レディ・アンネローゼ」と呼ばれてた様な気がしますけど、最近見たら「ミス・アンネローゼ」になってました。
そもそも皇帝の妾って、ミスのままなのかな。
まあ、キルヒアイスの言う事だし。
ラインハルト様は「ロード・ラインハルト」でよかったはず。
若い頃、ロード(日本語では”様”)を付けて呼んでいるのを笑われた事があったはずだから。
☆公爵令嬢
さて、今回の本題。
ここまで、だらだらと書き述べて来た事を下地に、まとめます。
最近、悪役令嬢物が増えるにつれて、公爵令嬢が主人公として活躍する姿をよく見かける様になりました。
大抵が異世界からの転生者の様な気がしますが、それは度外視して。
2種類の公爵の内、一般的な公爵令嬢は、デュークの娘であると思います。
現在、デュークが君主を務める国は存在せず、ルクセンブルク大公国が唯一のグランドダチィです。
また、英国の公爵とされる称号の内、プリンスはウェールズ公だけで、英国公爵は公国を持っていません。
つまり、公国は基本的にプリンシパリティ。
だとすると、公国の君主はプリンス。
公爵という爵位は基本的にデューク、大公爵はグランドデューク。
と、いう認識で、(おおむね)間違い無いのではないかと考えます。
公国の君主であるプリンスの娘は、プリンセス。
日本語では”公女”と書いたり、または、元々は誤訳でしょうが”公主”とも書きます。
公主は、本来は中華皇帝の娘です。
現在は他国の王女も公主と訳されます。
単純に日本語の”姫”が中国語の”公主”に当たる様で、『白雪姫』が『白雪公主』と呼ばれています。
その流れで”公国の姫”が”公主”であるのは間違い無いのですが、公主の公の字はデュークやプリンスとは関係がありません。
何にしろ、今流行りの”公爵令嬢”に、こちらは含まれないと判断します。
問い。
「公爵令嬢ってなんですの!?」
答え。
「公爵家の娘です」
「そのままですわっ!!」
さて、公爵の令嬢という事は、通常、父が公爵になります。
祖父が公爵位を持っており、父が侯爵以下の名誉称号を名乗っている場合も”公爵家の令嬢”になるので、公爵令嬢と呼んでも差し障りないと思われます。
ただ、父方の祖父が存命の設定って、見覚えが無いですね。
例外として、母が女公爵だとか、祖父が王で父が公爵とか、あるかも知れません。
血筋的に王家に非常に近く、女性に王位継承権があるのなら、公爵令嬢に継承権が有ってもおかしくありません。
ただ、本人に爵位は無く、敬称はレディ。
基本的に、レディは”嬢”と訳すべきだと思いますが、状況によっては”令嬢””様”と訳し分けられるでしょう。
目上の者が呼び掛ける場合は”嬢”。
同格か、下の者が呼び掛ける場合は”様”。
使用人たちがお呼び掛けする場合は”お嬢様”。
誰かに紹介する時などは”(家名・爵位)令嬢(名前)”がよろしいかと思います。
そう言えば『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま』はLady Beelzebubかと勝手に思っていたのですが、公式には『As Miss Beelzebub likes it』でした。
レディの方がイメージ合いそうなのに。
まあ、侍従のミュリンが存在してるって事は、彼女は帝爵、つまり女帝(Empress)。
陛下って呼びなさいって事ですね。
関係ない話を挟んでしまいましたが。
女性に当主権がある場合。
……という言い方をする様に、女性は当主になれない、王位を含め、爵位を継げない国もあります。
ここでは、”ある”事を前提に話を進めます。
前述通り、公爵の嫡子は儀礼称号を名乗ります。
男子優先の場合は、第一子の長女より、弟である長男が”嫡男”になります。
そうで無い場合は、第一子が”嫡子”です。
つまり、公爵令嬢は嫡子に成り得ます。
貴族学校に通う公爵令嬢は、儀礼称号で呼ばれても良いのではないでしょうか?
公爵の娘の女伯爵とか、すごくややこしくなりますが。
女性が公爵位を継いだ場合も、当然、その子供が継承者になります。
その価値を考えれば、侯爵家、伯爵家の次男三男が、花に群がるミツバチの様に寄って来そうですよね。
むしろ、イチゴに群がろうとするナメクジのイメージ。
恐ろしい事に、他国に嫁いでも爵位を持って行ってしまいます。
爵位に領地が紐付けされていると、領地も持って行ってしまいます。
これは結構、洒落にならない。
王国内に他国領が出来てしまいます。
政略結婚は、国家護持において非常に重要。
殆どの場合、国内の有力貴族から婿を取ります。
また、通常、養子や妾の子には爵位の継承権がありません。
嫡子がいない場合は当主の兄弟、叔父叔母、従兄弟と継承権が移っていき、最終的には断絶となります。
断絶爵位は、君主の預かりとなって、いつかまた誰かに下される事もあるでしょう。
『乙女ゲームの破滅フラグしか無い悪役令嬢に転生してしまった』では、養子である義弟が公爵家を継ぐ設定になっていますが、本来なら有り得ない事です。
王子妃になっても公爵位を継承する事はできますので、最終的には、王妃兼女公爵で宜しいのではないでしょうか。
そうは言っても、まあ、「あの世界のルールではそうなってる」で全て解決ですが。
☆公爵令嬢の周辺
公爵令嬢は一人では生きていけない。
「なーんっちゃって、転生者だから大丈夫」
と言うのは無しにして。
身の回りには、その身分に見合った人物が配置されます。
○侍女
通称メイド。
レディズメイド(Lady‘s maid)とするのが正式でしょうか。
ハンドメイド(hand maid)かも?
若い貴族はより上位の貴族の屋敷に奉公に出て、働きながら仕来りや行儀作法を学びます。
男性であれば小姓や近侍、女性なら侍女となります。
つまり、レディズメイドは貴族階級であり、最低でも準貴族の娘です。
いわゆる召使い(サーヴァントServant)ではありません。
下級の使用人からは元より、他家の使用人からもMiss、つまり”お嬢さん”と呼ばれます。
大体、令嬢が5才くらいの時に、同じか少し上、5~7才の少女が選ばれます。
令嬢にとって側近であり、友人でもあります。
当然、衣食住付き。
よくあるメイド服などは着ずに、身分に相応しいドレスを着用しています。
主な役目としては、令嬢の衣服の管理、着付け、化粧、髪結いなど直接触れる仕事や、外出時の付き添いをします。
外出は個人的な買い物から、公務、社交パーティーまで様々。
また、令嬢のアクセサリーを管理しています。
○侍女
通称メイド。
あれ? さっき見た、と思うでしょうが、少し別物です。
正式にはウェイティングメイド(waiting maid)と呼びます。
身分的にはこちらの方が下で、ハウスメイドからの昇格です。
ウェイティングは、ウェイターやウェイトレスと同じ”待つ”の意味を持ち、令嬢の傍に控える女性です。
ハウスメイド上がりなので、それなりのお年。
主な役目はレディズメイドと変わりませんが、大体何でも出来ます。
ちなみにレディ・イン・ウェイティング(Lady in waiting)は、上の二つの侍女とは違い”王室に仕える淑女”です。
和訳は女官。
一応、王妃や王女に仕える侍女みたいなものですが、上級貴族の令嬢によって構成されています。
○侍女?
レディズコンパニオン(Lady‘s Companion)
ただコンパニオンとも呼ばれます。
大人になってから雇うもので、レディズメイドと同じく、少し下位の女性貴族です。
厳密には使用人ではありません。
”お手当”はいただいても、”給料”を貰っている訳では無いのです。
何を言っているか解らないかも知れませんが、気にしてはいけません。
和訳すると、友人?
仲間とする場合もあるようです。
お金を払って、お友達とか……。
コンパニオンの語源はラテン語で「ともに(com)パン(panis)をたべること(ion)」
主な役目は、女主人のお相手です。
お茶を淹れて、お菓子を食べて、のんびりお話をする。
女主人が面白い事を言ったら、「おほほほほ」と笑う、大切なお仕事。
他に、一緒に買い物したり、社交界に出たり、一応、レディズメイドの大人版です。
年上のコンパニオンは、下記の”お目付役”としての働きもあります。
○お目付役
シャペロン(chaperone)
職業ではなく、役目でしょうか。
男性の来客に際し、淑女が一人で出迎えるのは”やってはいけない事”でした。
必ず男性の親族か、年上の女性が立ち会います。
その役を担う女性がシャペロンです。
もちろん、淑女の外出にも付き添います。
未成年の淑女が社交場に出る時には、服装やアクセサリーが場に合っているかどうか、淑女の立ち居振る舞いが相応しいか、判断し、指導します。
その性質上、”年上の女性貴族”でなくてはならず、使用人が務める事は出来ません。
○家庭教師
ガヴァネス(Governess)
正しくは女家庭教師。
当たり前ですが、身の回りの世話をするのではなく、教育の為に雇われています。
文字の読み書きや計算の他、歴史や社会情勢、楽器の演奏から絵の描き方まで、貴族に相応しい教養を身に付けさせる事が目的です。
もちろん、それらの指導が出来るガヴァネスもまた、貴族令嬢、もしくは貴族夫人です。
基本的に、夫を亡くした未亡人、もしくは未婚の女性、特に当主である父を亡くし、母と暮らす女性が、金銭を得る為になったと言われます。
多くの場合、住み込みで一つの家に奉仕します。
下手をすればそのまま生涯独身ですが、令嬢が成長したあと、コンパニオンとして雇われる事もあるそうです。
○乳母
ナニー(Nanny)
古い言い方ではナース(nurse)
ガヴァネスが付くまでの幼少期、子供の世話をしながら、一般的な躾、テーブルマナーや言葉遣い、立ち居振る舞いを教えます。
乳母の和訳通り、母乳を与える事もありました。
子供部屋の掃除や着替えの手伝いも仕事です。
今の言葉ではベビーシッターですね。
令嬢の身の回りで直接奉仕する人間は、この辺りでしょうか。
もちろん、他にも下級使用人がたくさんいます。
家には父や兄弟に仕える男性使用人もいますが、基本的に言葉を交わす事はありません。
護衛(Guard)は全員男性ですので、普段は傍にいません。
外出時に、必要な数だけ配置されます。
以下、中世にその役職があったかどうか知りませんが、メイド系を列挙します。
ハウスキーパー
家政婦。
家政婦長とも書かれますが、単に家政婦で正しいです。ちなみにメイドとは違います。
現在では下働きの様なイメージですが、執事と共に上級使用人に含まれます。
尊敬を込め、独身であってもミセス(Mrs)を付けて呼ばれます。
食料庫の鍵を持つ他、高価な食器類の管理も任されていました。
以下のメイドサーヴァントたちの管理統括を行い、人事権も持っています。
ハウスメイド
基本的メイドにして究極メイド。メイド・オブ・オールワーク。
ヘッド・ハウスメイド
メイド長。文字通りハウスメイドの長で、ハウスキーパーの補佐を行います。
チェンバーメイド
部屋メイド。寝室と客室の整備、清掃、管理を行います。女主人の服の管理も掌ります。
パーラーメイド
接客メイド。来客の取り次ぎと給仕を担当。美人が多いそうです。
スティルルームメイド
お茶メイド。紅茶の管理とアフタヌーンティー用のお菓子作り、貯蔵を行います。
キッチンメイド
調理補助メイド。食事の下ごしらえなど、コックの手伝いをします。
ランドリーメイド
洗濯メイド。主家の為の者と、使用人の為の者は別にいます。
スカラリーメイド
皿洗いメイド。厨房の掃除も担当します。
ビトウィーンメイド
見習いメイド。色々やります。その後、キッチン系のスカラリーか、ハウス系のランドリーに配属されます。
ビトウィーンは間という意味で、キッチン系とハウス系の両方で働いているからです。
最後に、
コック
料理人。
実は女性が多かったようです。
ハウスキーパーと同じく、尊敬を込めミセスと冠されます。
パン職人は別に居る場合がありました。
長くなってしまったので、男性使用人に関しては、またの機会に。