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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人とキャベツの炒め物

作者: 河川 鮎

思いつきで書きました。

よろしくお願いします。

北海道の夏は暑い。

俺、木谷純也は24回目の夏を迎えて思った。


ここが極寒の大地、北海道だったのは5ヶ月も前のことだ。

日本の一番北にある北海道といえど地球温暖化の影響は免れなかった。


「ああ、暑い」


そう愚痴をこぼして再び俺はトラクターを運転し始めた。

農家に休みは許されないのだ。


俺は農家の家に生まれた。

ガキの頃の夢は声優だった。

今思うと分不相応な夢を見ていたものだ。

とにかくこんな田舎から抜け出したいと思っていたのだろう。

始めは農家なんて仕事を継ぐつもりもなかったが、お袋と親父が事故で急逝したので渋々この仕事を継ぐことにしたのだ。


1日の仕事を終えて母屋に戻った。

結婚なんてしていないので、灯りなんてついていない。

誰も返事をするはずなどないのに返事をしてしまうのは親から仕込まれた本能であろう。

当然食事なんて用意されているはずなどないので、自分で飯を作る。


フライパンに油をいれる。

冷蔵庫にはキャベツが残っていた。

チルド室にもベーコンが残っていたので両方とも包丁で切ってフライパンにぶち込む。

出来上がった料理は、シンプルな炒め物であった。


「いただきます」


こんな挨拶も親に仕込まれた本能の1つである。


いつもの味だった。

食レポなんてできそうにない普通の味だった。

そりゃそうだ、昨日も一昨日もその前も、ずっと同じものしか作っていないのだ。

男の料理なんて大体そんなもんだろう。

ぱぱっと食い終わった俺は、食器を洗い風呂に入って床についた。

いつも通りの日々。

おやすみなさいと、言って俺は意識を手放した。





翌朝、畑に行くと見慣れない車が止まっていることに気づいた。

電気屋のおっちゃんだろうか。

それとも農協の職員だろうか。

どっちにしろこんな所に車を止めているのはおかしい。


不審に思った俺は車に近づいた。

車はどこにでもありそうな軽トラで、個性なんてなかった。

車に鍵はかかっていなかった。

ここに人なんて来ないから大丈夫。

そんな印象を抱いた。

ますます怪しい。


もしかして泥棒だろうか。

不意に俺の頭にそんな考えがよぎる。

俺は警察を呼ぼうかと考えたが止めた。

もし、俺の勘違いだったら迷惑をかけてしまうからだ。


車が止められていた畑はトウモロコシ畑だった。

畑の中は高い茎に遮られて見えない。

中で怪しいことをするには好都合だ。


「おい、誰かいるのか」


呼びかけてみるとガサッと音がした。

間違いない、だれか中にいる。

俺は気を引き締めて、行動を起こした。


「誰かいるんだよな、おい」


そう言いながら畑の中に入る。

トウモロコシの葉が首にあたりチクチクするがそんなことは無視した。

人が苦労して育てた農作物を盗むなんて。

そんな行為に腹が立った。


「ここだ!」


勢いよく声を上げ、飛び込む。


人がいた。

俺より年上の男だった


「うわっ」


手にはトウモロコシ。

そいつは驚いたような顔をしながらも、逃げようとした。


「おい、こら待てや」


襟をつかみ引き倒す。

周りにあるトウモロコシが倒れるがそんなことどうでもいい。


「人が苦労して育てたものを盗るなんて駄目やろが」


視界が揺れる。

いつの間にかトウモロコシに包まれていた。

どうやら殴られたらしい。

だが殴られても襟は離さない。


「殴るとかもう警察行きだな」


男はさらに殴ってくる。

逃げようとして暴れる男を押さえつける。

男は何も喋らずに暴れてくる。

ちょっとしたホラーだ。


「いい加減に、しろっ」


たまらず俺は殴りつけた。

ああ、俺も殴ってしまった。

まあ、正当防衛で済むか。

そう思えばタガが外れてしまった。



気づけば、男はぐったりしていた。

身じろぎすることもなく、寝転んでいる。

俺の手は男の喉元にある。


「生きている、よな」


脈を確認するが、無い。


なんてことだ、死んでしまっている。

俺が首を絞めて殺してしまったのだろうか。

手を見る。

いつもと見た目は変わらない手だ。

だが、殺したというレンズを通してみると悍ましい手のように見える。


これも正当防衛になるか・・・・・・いや、ならないか。

明らかにこれは過剰防衛だ。


「どうしよう」


頭の中で考えていたことがそのまま口に出た。

真っ白で何も考えられない。

生まれてきてから、自分が人を殺すなんてこと考えたこともなかった。


しばらくすれば落ち着いてきた。

暑さを感じる。

しかし体の芯は冷え切ったままだ。


終わってしまったことはどうしようもない。

こいつが生き返ることはないのだ。

まずは、死体をどうするかを考え始めた。












結局家に持ってきてしまった。

あのまま畑に置いていれば見つかってしまうような気がして、怖かったのだ。

リビングに死体を寝かせる。

死体はぱっと見、寝ている人のようにしか見えなかった。


これ、どこに捨てよう。

考える。

幸いここは北海道で、俺は農家だ。

土地はある。

一人暮らしだから、ばれる心配なんてほとんどない。

そう思えば、幾分か心が楽になった。

心に余裕が出来ると、いろいろ考えれた。


そういやこいつの声、聴かずじまいだったな。

こいつがどんな声をしていたかなんてどうでもいいはずなのに、なんだか気になってきた。


どんな人柄なんだろうか。

家族はいたのだろうか。

仕事は。

住んでいる場所は。

好きな物は。

嫌いな物は。

なんで盗みをしようとしたのだろうか。

今考えても詮無いことなのに、考えてしまう。


「今日の晩飯どうすっか」


そんな考えを頭から振り払って、今日の晩飯について考え始めた。


冷蔵庫を覗くとキャベツしかなかった。

ベーコンがない。

代わりになるものないかな。

辺りを見渡す。


あるじゃないか。

そこに大きな肉が。


いや、何考えているんだ俺。

人を見て、ベーコンの代わりになるかなんて考える時点でどうかしている。

疲れたんだろうか。

今日は色々とあったからな。

寝るか。

俺は飯を食うことを諦めて寝ることにした。




目が覚めても死体のことが最初に浮かんだ。

着替えて、リビングへと向かう。

そこには、相変わらず死体があった。


朝飯をどうするか考える。

基本的に俺の飯はキャベツとベーコンの炒め物なのだ。

他にレパートリーは無いし、材料もない。

キャベツはあった。

しかしベーコンがない。

肉がないとこの後のハードな農作業に耐えられる気がしない。

何かほかに代わりになるものはないのか。


リビングに目を向ける。

死体がある。

あれを使えばいいんじゃないのか。

そんな考えが再び頭に浮かぶ。

人なんて食えない。

何考えているんだ。


昨日と同じ考えが頭に浮かぶ。

それは脳裏にこびりついて離れない。


「ちょっとぐらいなら、良いよな」


自分に言い聞かせるように言う。

いつの間にか包丁が手の中にある。

いつも使っている料理用の包丁ではない。

いつもより刃先が厚い、肉用の包丁だ。


一歩ずつ近づいていく。

起き上がることはないはずなのに、そろりそろりと、起こさないように進んでいく。


死体の傍にたどり着いた俺は、死体をよく見た。

おいしそうだ。

魚とかの水揚げされた感じみたいだな。


肌に刃を当てる。

部位は二の腕。

なぜそこかというと、筋肉がよくついていておいしそうだったからだ。

いつの間にかおいしそうと考えている自分に少し引きながらも、刃を突き立てた。


思いのほかすんなりと刃が入る。

血は死んでいて時間がたっていたからだろうか、少ししか出なかった。

しばらく刃を進めていると、なにやら固いものに当たった感触がした。

おそらく骨だろう。

刃を抜いて、少しずれた場所にもう一度突き立てる。

今日の朝飯に必要な分だけ。

少しだけを切り取る。





取り出した肉は肌の部分を除けば、マグロとかの赤身魚の肉とあまり変わらなかった。

なんだ、あまり特別なもんでもなかったな。


肉を細かく切る前に、先にキャベツを切る。

野菜を先に切るのは料理の基本だ。


次に肉を細かく切る。

まずは肌の部分を薄く切り捨てる。

肌はちょっとおいしくなさそうだからだ。


その次はサイコロ状に切る。

均一な大きさにしないと、火がうまく通らず中が生になってしまうかもしれない。

細心の注意を払って俺は切った。


切り終えたらフライパンに油を敷く。

十分にフライパンが温まったら肉、キャベツを入れる。

いつもと同じような感じに見える。

少なくとも、ベーコンと見分けはつかない。


皿に盛り付けたら出来上がりだ。

塩、コショウも忘れずに。


早速食べることにした。

昨日の晩から何も食べていない。

おなかがペコペコだった


「いただきます」


いつもより心を込めて言う。

箸で口に運ぶ。

口の中に入れて唇を閉じる。

舌を動かして、口の奥へと送る。

奥歯で噛んで飲み込む。


これだけの動作がなんだかとても大変だった。

味はしなかった。

緊張して味覚が麻痺していた。


食感はいつもと変わりなかった。

いや、少し違う。

いつもより硬かった。

まあ、いつもと大体同じだ。

人の肉はなにか違うのではないかと期待していただけに残念だ。


考えていたら、皿は空になっていた。

おいしかった。

これで今日の農作業も頑張れそうだ。


「ごちそうさま」

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