174.無意味な魔法と少しの希望
ハイベアー2匹が追いかけてくる中、僕をおぶいながらカイトは必死に走った。
でも、僕の魔法で戸惑った時に開いた距離はまたしても徐々に徐々に縮まってきていた。
僕はもう一度魔法を使い地面に火柱を出現させる。
しかしハイベアーは学習能力が高いのか、2匹とも二度も同じ手に引っ掛ることはなく、その火の柱を回り込んで避けて追いかけ続けてくる。
しかもその避け方も無駄に身のこなしが良くて、想像以上に距離が離れない。
これでは僕をおぶったカイトの体力が尽きた時点で追い付かれてしまい、ゲームオーバーとなることは必須だ。
せめて僕のこの足が動いてさえくれれば・・・。
確かに、僕は元の世界ではこういった戦闘というか戦場というか、命の危険を感じることとは無縁の生活を送ってきた。
特に日本で生きていたからなおさらだ。
唯一あるとすれば愚かにも、海外に旅行に行った時に、ふと深夜にコンビニに行きたくなり、人通りのない通りをフラフラッと彷徨った時に、ふと我に返ってドキドキしたぐらいだ。
あの時の自分はバカだったかもしれないけれど、結局何も起きなかったんだ。
とにかくそんな感じの平和な人生だったから、僕はここまで死ぬかもしれないなんていう経験が無さすぎたんだ。
だから足が棒のように固まってしまって動かなくなってしまったんだと思う。
でも、このままだとホントに死んでしまうぞ。
いいのか自分!?
それでいいのか!?
う!ご!けーー!!
そう心の中で叫びながら足を手でポンポン叩く。
動け動け動けー!!
その瞬間、少しづつ足に感覚が戻りつつあるような気がした。
僕はそれを確かめるべく足を摘まんでみた。
ほんの少しだけど、痛い感覚がある。
何でか知らないけれど、これは確実に少しづつ足に血の気が戻ってきて、感覚も戻りつつあるのだ!
良かった、希望が見えたぞ!
これなら生き延びることができるのかもしれない!
この喜びをカイトに伝えようとしたけれど、それより先にカイトが口を開いた。
「ハルトお前、ふざけないでくれって。 バンバン暴れないでくれよ。 俺はお前をおぶってるんだぞ。 ただでさえ走りにくいのに、動かれたら相当走りづらいっちゃないよ。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
せっかく僕のことを見捨てずにおぶりながら必死で走ってくれているのに、悪いことをしちゃったね。
「で、でもねカイト聞いて! 今ちょっとづつ足の感覚が戻ってきてて。 もう少ししたら動くようになるかもしれないんだ!」
「なんだって!? それはホントかハルト!! 」
「うん、ホントだよ! だってこれ、何だか血の色が戻ってきたような気がするでしょ!」
「残念ながら見れないけれど、そうだというんならそうなんだろう! 動けそうなら言ってくれ、俺ももうキツイから。」
「うん! ゴメンね。 あと少しお願い。」
「任せとけ!」
希望が見えたからなのか、カイトの足取りが気持ち若干軽くなったような気がした。
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