“les quatre saison”へようこそ
初めて投稿します。
文章の拙さはもちろんのこと、執筆のための情報が
まだまだ足りなくて・・・・
広い心でアドバイスをいただければ幸いです。
もともと好きなことなので、いろいろ教えていただけますと
楽しく続けていけますのでよろしくお願いいたします。
「茉莉香ちゃん。どう?」
オーナーの由里が呼びかける。
茉莉香は、恐る恐る更衣室を出る。
「あらー!茉莉香ちゃん。よく似合うわ」
「そ、そうですか……?」
茉莉香はこのカフェの制服である、ヴィクトリア朝風のメイド服を着ていた。
「丈は前の人のでちょうどけど、腕の丈を直さなきゃ。茉莉香ちゃん手足長いのね」
「ありがとうございます」
「いい?教えたとおりに落ち着いてやれば大丈夫だから。 そろそろお客様がいらっしゃるからよろしくね」
由里は優しく励ましてくれる。やはり気を引き締めて取り掛からねばと思う。
ドアが開き、年配の女性がふたり窓際の席に座るとメニューを見始めた。茉莉香は頃合いを見はからって静かに近づいていく。
「ご注文がお決まりでしたらお伺いしますが」
「そうね……アッサムティーをミルクでふたつ。あと、『今日のサンドイッチ』は何かしら?」
「生ハム、きゅうり、スモークサーモン、チキンのリエットです。それにミニサラダがつきます」
続けて、
「少し多めですので、ケーキををご注文なさるなら、おふたりでシェアなさると丁度いいと思います」
「今日のケーキは?」
「白桃のタルトとミックスベリーのチーズケーキです」
それとなく振り返ると、由里はそっとOKサインを指で作った。
「じゃあひとつづつお願いね」
と、客たちは注文をした。
ポットとカップをテーブルテーブルにセットし、砂時計をひっくり返しながら置く。
「砂が下に落ちきったら飲み頃です。どうぞごゆっくりお過ごしください」
お茶とサンドイッチを口にした客たちは、その美味しさに感嘆の声をあげる。
「こんにちは」
またひとり入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「キャンディをアイスティーでお願い。そうねぇ。レモンティにしてね」
「かしこまりました」
キャンディはスリランカ産の茶葉である。アイスティーと言えば、アールグレイがよく知られているが、キャンディも水色が鮮やかなためよく用いられる。渋みの少ない軽やかな味わいが魅力だ。
アイスティーは注文ごとに作られる。淹れたての紅茶に大量の氷を入れて一気に冷却する。こうすると透明感のある美しいいアイスティーが出来上がる。
果実やキャラメルなどの香料を加えたフレーバーティーも人気で、洋梨と巨峰を注文した人2連れの客は交換し合い、爽やかな香りを楽しんでいる。
お茶とスコーン、ケーキ、サンドウィッチ……客たちは好きなものを注文しては、会話に花を咲かせる。
そして14時30分になると、それぞれのテーブルに向かう。
「ラストオーダーの時間ですが、追加のご注文はございませんか?」
たいていの人ははここで穏やかに辞退をする。
こうして15時に店は閉店となる。
「ありがとうございました。またお越しください」
初日が無事に終わり、茉莉香はほっと一息をついた。
「茉莉香ちゃん。よかったわよ!お茶のこともよく覚えていたし、なんって言っても、お店のイメージにピッタリ」
「本当ですか?」
褒められると疲れもとれるような気がした。
オーナーの名は前川由里。30代半ばの上品で快活な印象の女性である。
ゆるく巻いた髪を肩のあたりまで伸ばしている。
「今日は私が後片付けをするわ。もう上がってね。お疲れ様。あと、これ、スコーン食べてね」
由里は、少しあたたかい紙袋を茉莉香に手渡した。
「ありがとうございました」
礼を言うと茉莉香はカフェを出て 同じ建物の上階のマンションの一室に入っていった。
les quatre saisonsは、住宅街にある4階建て低層マンションの1階にある、紅茶とちょっとした食事を提供するカフェだ。
客たちはマンションの緑地帯にあるアプローチを通り、ガラス張りの扉から店に入る。
由里の夫は紅茶の輸入商で、ここは昔は茶葉の小売店兼事務所だった。彼は5年前にブランドをles quatre saisonsを立ち上げた。
販売はオンラインに移行した。デパートへの出店も始まり、事務所も移転した。ここは引き払うはずだったが、由里の提案でカフェとして再利用することになった。
そのなごりで、貯蔵庫の棚には茶葉の缶がずらりと並んでいる。
通年通して飲めるものがほとんどだが、期間限定のフレーバーティーや、産地より取寄せた旬の茶葉もある。
店内はアイボリーを基調とし、窓にはレースのカーテンがかけられている。床にはカーペットが敷き詰められ、白いクロスで覆われたテーブルには生けた花が飾られている。
店の営業時間は、午前11時30分から午後15:00まで、小学生ふたりの子どもの世話と、夫の事業の手伝いに 支障が出ない範囲で店を開いている。
茉莉香が帰ったあと、由里は上機嫌で片づけをしていた。
「ほんと!茉莉香ちゃんが来てくれて助かったわた。覚えはいいし、仕事は丁寧だし、あの品の良さ!
さすがは……」
由里は、茉莉香の姿を思い浮かべた。大きな瞳は表情豊かで、長いまつげが優し気な雰囲気を醸し出している。長い艶のある黒髪と、華奢な手足。静かだが弾むような話し方が感じがよい。
客たちも好感を持つだろう。
だが……
由里の手が一瞬止まる。
茉莉香がこのままここでアルバイトを続けることに対して、迷いがないわけではない。
彼女は、まだ高校生で本来ならば、学校に行っているべきなのだ。
「まぁ、なんとかなるでしょ!」
無駄に心配するよりも、今できることをするべきであると考えることにした。
今自分がすべきことは、仕事を早く終わらせて、子どもたちが待っている家に帰ることだ。
由里さんは私の理想の女性です。
優しくて面倒見のいい彼女には、心配事がいろいろあります。
それらを少しずつ明らかにしていきたいと思います。