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もしも夢が叶うなら

第1話「秘密は枕の下」(仮題)

作者: 夢乃 リボン

前回のあらすじ。


私は幼い頃から一緒だった縫い包みのアーニャを外に連れ出し、自分自身を見つめ直した。

 放り出していた靴を拾い上げて、丘を下る。裸足で歩く野原の感触がくすぐったく面白い。

 道路に出てからは靴を履いた。少し高いヒールのコツコツと鳴る音が楽しい。

 右手にお気に入りの本、左手に縫い包みを抱いて、夕日を背に帰り道をひた歩く。道行く人の視線も、今は気にならない。


「明日はきっと良い日になる。」


 どこかで聞いたワンフレーズを口ずさんで、私は玄関の鍵を開けた。


「ただいま。」


 靴を脱ぎ、履き潰したスリッパを履く。抱えていたものを一旦置いて、靴を揃えた。


「お帰り、私。」


 本と縫い包みの汚れを払って抱え直し、六畳の狭い部屋に明かりをつけた。

 テーブルにはノートやシャープペンシルなどの筆記用具類が雑然と置かれ、その下にも鉛筆などが転がり落ちている。

 狭い部屋を更に狭くする大きな棚には乱雑に雑誌やら漫画やらが詰め込まれており、上にも読みかけと見られる小説が幾冊か放って置かれていた。


「、、、まずは、片付けからだなぁ。」


 溜息をついて、本棚の整理に手を付けた。


「これは要る、これは要らない、、、。」


 なかなかやる気にならなかった掃除に、いつのまにか没頭していた。

 気がつけば要らない物がゴミ袋一杯になって溢れそうだった。雑誌などをまとめた塊も幾つが出来た。

 ベットの上の置き時計を見ると、短い針が真上を指していた。


「、、、夜にやる事じゃ、無かったな。」


 眠気には勝てなかった。身体を洗わないままでベットに横たわる。

 枕が少し固く感じたが、それが気にならないほど疲れていたらしい。私はそのまま眠りに落ちた。


『おやすみ、ひろな。』


 誰かの優しい声が聞こえた気がした。


『いらっしゃい、ローナ。』


 多分、この声は、、、。



 夢を見た。

 私の背に羽が生えていたのだ。しかも感覚がある。意識すると動かす事が出来た。

 体の新しい部位に慣れ始めた頃、私は空に飛ぶ七色の鳥を見上げて希望を見出した。


(いけるかも!)


 助走をつけて跳んでみた。そのまま体がふわりと浮き上がり、空を飛ぶ。


(なんて素敵な夢なんだろう、、、。私、空を飛んでる、、、。自由に、空を飛んでる!)


 下を見ると両手を振る縫い包みのアーニャが居た。長い耳をピンと立たせてこちらを見ている。

 私は急降下してアーニャの手を取った。

 アーニャが驚いて耳をせわしなく動かしているのを笑いながら、私は心行くまで大空に羽ばたいた。







 窓から差す太陽の眩しさに目を覚ますと、腕の中の柔らかい感触に気付く。そこにはアーニャが居た。


(いつのまに抱いてたのかな。)


 夢にこの縫い包みが出て来たのはそう言う事だろうか。首を傾げながら縫い包みを枕元の定位置に置いた。

 軽く腕を伸ばして、身体をほぐす。

 まだ眠いからか欠伸が出た。

 ベットから降りて、布団を整えようとすると枕の下から何か飛び出している事に気が付いた。


「絵本、、、。だから少し固かったのね。」


 表紙には羽の生えた人間の絵が描かれていた。


「枕の下に好きな物を敷いて寝ると、それが夢に出てくるっていうのは迷信じゃ無かったんだ。」


 私は年甲斐もなく、子供のようにはしゃいだ気持ちになった。


「さてと、ゴミ出しに行かなくちゃね。」


 沢山の荷物を抱えてドアを開ける。

 靴を履いて踏み出した一歩が、羽が生えたように軽く感じた。

第2話「私とアーニャ、そしてリボン」(仮題)に続く。

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