表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公の居ない集団異世界転移  作者: 十二月敬太
主人公の居ない集団異世界転移
71/75

島64.山吹丈太郎の視点

山吹丈太郎やまぶきじょうたろう

 45歳、無職、身長165。

 よく言えば野性味のある風貌。悪く言えば反社顔。

 だが別に反社ではない。

島64.山吹丈太郎やまぶきじょうたろうの視点



 過去を振り返り自分の人生をかえりみた時に恥ずかしい思いをしたことはないか? そんな風に問われたとする。

 いくらでもあるさと俺は答えるだろう。


 嫌なことを思い出して夜中に叫びたくなることも、悲しいことを思い出して泣けてくることもある。

 一番嫌なのは、誰かの眩しい才能に感嘆しながらもそれを羨み、自分の才能の無さを嘆くことだろうか。


 腕っぷしだけは若い頃からそれなりの自信があった。

 俺の若い頃は今と違って不良が不良らしかった時代だ。

 俺は街の喧嘩自慢だった。


 面白いもんで喧嘩ですら名が広がればスカウトが来る。

 腕っぷしが強いだけならいらないが、腕っぷしが強いと何かと役立つからと、ヤのつく怖い人から勧誘されたりするのが主流だが、意外と格闘技系も来たりする。


 格闘技系は街の喧嘩自慢を更生させる為にやってるからスカウトとは少し違うかもしれないけどな。

 ちょっとジム(もしくは道場)に来ないか? と挑発されたり誘われたりするんだが、行ったら終わりだ。

 大抵の素人喧嘩自慢はそこで天狗の鼻が折れる。

 そりゃあもう面白い位にボコボコにされるからだ。

 俺もボコられたが、逆にそれがハマるきっかけになった。


 強い奴にやられても次は負けねえって気持ちになった。

 こんだけ強い奴らと何回もやってりゃあ俺も強くなれるとも思った。

 根性があるしセンスもあるって先輩連中に言われたのもでかい。


 連れていかれたのはボクシングジムで肌に合った。

 プロライセンスを取ってデビューし、日本タイトルに手が届くところだった。

 だけどバイクで事故ったのをきっかけに現役を退いた。


 それから十数年、身体は鍛え続けていた。

 頭の悪い俺でもそれくらいはできるからだ。

 だから、現役の時ほどではないが腕っぷしはまだ自信があった。

 プロのルールでプロには通じなくても喧嘩ならその辺の素人に負ける気はしなかった。


 この世界に来てから身体の調子もすっかり良くなったのもあり、自信は現役の頃並みとはいかないが、かなり回復した。

 でかいトカゲに対峙した時も恐怖はなかったくらいだ。

 だが、象みたいに大きな犬をあっという間に朽木が殺したのを見た時に、その自信は木っ端微塵にぶっ壊れた。


 当時はここが異世界だなんて信じていなかったが、朽木拓哉が異次元の強さを持っていることは理解できてしまったからだ。

 魔法だ闘気だと言われた時には珍紛漢紛だったが、それが強くなるために必要なのであれば、学ぶつもりだった。

 だが、見るからに俺よりも弱そうな女や痩せこけた男、逆に運動不足が顕著な太っちょが闘気や魔法で自分よりも上を行くともう我慢ができなくなった。


 何に対してもヤル気が無くなってしまった。

 自暴自棄になり、文句を言うだけの存在になってしまった。

 若い奴らから見れば老害そのものだろう。

 だが、そんな俺に朽木は何度も声を掛けてくれた。


「もう少しだけ闘気の修行してみませんか?」

「凄い才能ありますから、めちゃくちゃ強くなりますよ」


 そんな風に何度も。しつこいくらいに。

 当時は気付いてなかったが、少し嬉しかったんだと思う。

 駄目人間を見る目で見られないことは、当の駄目人間にとって救いになる。


 だが、当時の俺は朽木への鬱陶しさを強く意識し、彼を避けていた。

 そこには朽木に対する根拠のない負の感情があったと思う。

 その実、ただの妬みでしかないのに。

 それでも朽木は、そんな俺に対しても、見かけたら声を掛けてくれていた。


 だから朽木が死んだと聞かされた時、もうこの世で俺に期待してくれる奴はいないと思った。

 反朽木派と行動を共にするのではなく、朽木と共に行動していればと悔いた。

 ただ、自分に何かができたとは思えなかった。

 結果として、ますます駄目人間と化した。


 だが、飛行機後部の生存者たちと共にこっちに来たこの世界の人たちの中にいた二人によって変わった。


 先ずは団長。俺を見ると団長は逸材が居たぞと師匠を呼んだ。

 団長は朽木と同じ様に俺の才能を見抜いてくれたのだ。


 そして団長に呼ばれた師匠。

 師匠は他の誰もやらない戦闘方法の使い手だ。

 それは簡単に言ってしまえばボクシングを対異種格闘技どころか対武器、対魔法にまで昇華させた戦闘方法。


 ただ、独自性が高く、後継者はいなかった。

 だが、その戦闘方法を後継できる才能が俺にはあると言う。

 ああ、朽木が師匠の戦闘方法を知っていたとは思えないが、奴の言っていた俺の凄い才能ってのが、このことだったのかと妙に合点がいった。

 そして、奴の為にも頑張ってみるかと思えた。


 たった一か月だが師匠から教えを受け、元の俺を知っている奴なら必ず驚くと言っても過言ではない程に俺は強くなった。


 だから、近くから誰かが暴れている様な音を聞いた時にはワクワクした。

 腕試しできるかもしれないと思ったからだ。


「うるせえぞ、何やってんだ?」


 怒っている感じは出さず、だけど威嚇するように言いながらドアを開ける。

 そこにはレギットが二人、いや二体か? まあどうでもいい。

 ああ、そうか、人間じゃない可能性もあったな。

 だが、ここに居るレギットなら日本語が話せるだろうから問題ない筈だ。


「息子が宗谷数全の影に乗っ取られた!! 対処できる誰かを呼んできて欲しい!!」


 その言葉に驚きながらも息子とやらの方の顔を見たが、宗谷数全に乗っ取られた生物がなる筈の目の変化がない。

 どういうことだ? 発言者の方を見てみるが、レギットの表情は読めない。

 こいつは困ったな。


「なっ!?」


 親父の方のレギットが息子を見て驚きの声を上げた。

 白目が黒くなっていた筈なのに白いままで驚いたってとこだろう。

 もしかすると酒を飲み過ぎておかしくなったか? あるいは変な薬でもやって幻覚を見たとか? だが人とは違う顔だから、まともなのかおかしいのかイマイチ分からねえ。


「父上こそが宗谷数全の影に乗っ取られたんだ!! 父上は嘘を吐いてる!!」


 今度は息子の方が驚きの言葉を放つ。

 いやいや、親父の方も白目は黒くないっての。

 どうしたもんだか判断に困るな。


「どちらが乗っ取られていても良い!! 宗谷数全の影に対処できる人間を連れて来てくれ!! そうすれば解決だ!!」

「やめてくれ!! 俺を置いて行かないでくれ!! 一人になったら父上に殺されてしまう!!」


 レギット親子が違うことを主張してきやがった。

 ぶん殴ってどっちも気絶させちまえば楽なんだろうが、日本語が話せるレギットは偉いサンの一族だ。

 問題になって、同盟関係が崩れたら困っちまう。

 こいつは悩むな。

 だが考えたって俺の頭じゃ答えなんて出せねえだろうからな。


 まあ、とりあえず部屋を出て誰か呼ぶことにしよう。

 誰か賢い奴に解決して貰えばいい。

 だが、喧嘩できないのは不満だ。


 そんなことを思っていると、それに応えてくれるかのように不意にレギットの一体が近付いてきた。

 よし、やってやろうじゃないかと身構える。

 するともう一体の方から魔法を行使した気配を感じた。


 瞬間、飛来する大量の石の球。

 俺に近付いてきたレギット、息子の方に当たり、そいつの動きが止まる。

 なかなかの威力だ。

 こいつはマジだな。

 急がねえと。


 速攻で部屋を出て、誰かを探す。

 ことの真偽はこの際どうでもいい。

 治療できる奴が必要だ。

 あのままじゃ、どっちか死ぬレベルでやり合うかもしれない。


 部屋を出て団長をさがす。

 そう都合よく見つかる筈もない。

 その辺にいる日本人の若者を捕まえる。

 見たことある気がするが、名前は分からねえ。


「悪い、団長を呼んできてくれ。レギット同士で争っていて怪我人が出そうなんだ」

「分かりました。争っている場所はどこです?」

「向こうの方の部屋だ。分かりやすいように、ドアに印を付けとく」

「分かりました。それでは」

「ああ、頼む」


 礼儀正しいし頭の良さそうな奴だ。

 あれなら大丈夫だろう。

 さっきの部屋に戻り、ドアを殴って壊す。

 ドアが壊れていれば良い目印になるだろう。


 中に入ると一番最初に血の匂いが気になった。

 匂いの元を探すと、レギットの顔なんて見分けがつかないから親父か息子か分からないが、一体のレギットが血だらけで倒れている。

 頭と体が離れているから完全に死んでる。

 いくら団長でも治療は無理だろうな。


 もう一体のレギットは跪いている。

 どういう状況なのか分からない。

 普通に考えれば生きているレギットがもう一体を殺したってことなんだろうが……


「おい!! 何があった? どうしてそいつは死んだんだ?」


 声を掛けられてようやく俺の存在に気付いたのか、生きているレギットがゆっくりとこちらに目を向けた。

 そして目が合うと邪悪な顔で嗤った。

 寒気がする顔だが、それよりも大きく気になることがある。

 白目の部分が黒くなっている。


「どうやら宗谷数全に乗っ取られたようだな」

「ああ、お陰で魔法を覚えることができたよ」


 そう言うと不快な声でまた嗤う。

 それを遮る様に殴る。

 不快だからじゃない。

 そういう取り決めだからだ。


 宗谷数全に乗っ取られた者への対処は相手を戦闘不能にすること。

 そして宗谷数全の影が出てきたら朽木の遺品でもある魔道具で閉じ込める。

 宗谷数全の影や対処法については霧崎が朽木から聞いていたらしい。


 殴られたレギットはぶっ飛んで壁に激突する。

 素早く距離を詰めるが追い打ちで攻撃まではしない。

 嫌な予感がするからだ。


 案の定、魔法行使の気配、ハリセンボンの様な棘がこちら側に向かってくる。

 殴りに行っていたら突き刺さっていただろう。

 そういやあ、これは朽木があのデカい犬にやった魔法に似ている。

 自分がやられたことを人に試そうとしたってとこか?

 じゃあ、次はデカい円錐でも飛ばしてくるか?


「おっと」


 予想に反して今度は石の球が飛んで来た。

 そこそこの数で攻撃範囲も広かったが、師匠から受けた修行のおかげで余裕を持って回避できる。

 そういやあ、さっき、もう一体のレギットに対してこの魔法を使ってたな。

 魔法の知識を得たと言っていたが、このレギットの使える魔法の知識を得ただけか?

 朽木の使った魔法に似た魔法を使ったのは偶然?


 考えるのが面倒になってきた。

 確実なのはこいつがどんな魔法を使えるか分からないってことだけか。

 相手の手札が分からないのは困ったもんだが、分からないことが分かっているだけマシだな。


 それに即死じゃなきゃ団長が何とかしてくれるだろ。

 よっしゃいっちょやったろうじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ