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主人公の居ない集団異世界転移  作者: 十二月敬太
飛行機墜落事故から始まる集団異世界転移
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島06.門間翼の視点

門間翼もんまつばさ、26歳、身長166。

茶髪、茶目。痩せ型。中性的な容姿。

島06.門間翼もんまつばさの視点




 飛行機の墜落から一夜明けたけど、まだ救助は来ない。

 絶望的な飛行機墜落で死なずに済んだのは幸運だと思う。

 だけど僕達はそれで幸運を使い切ってしまったのかもしれない。

 だから深夜、あんなことが起きたんじゃないかな。

 なんて思うんだよね。


 昨晩の僕は疲れ切っていた。

 飛行機墜落という現実とは思えない出来事が有ったからね。

 だから配られた機内食を食べ終えると直ぐに眠りに着いた。

 だけどストレスが原因で眠りは浅かったんじゃないかな。

 不快な物音で直ぐに目が覚めたんだ。


 それは何かの咀嚼音だと直ぐに分かった。

 とても不快な音だったよ。

 咀嚼音を出す人はとても不快だけども、それよりもっと不快に感じた。

 それは人が何かを食べる音じゃなかった。

 それは何かが人を食べる音だったんだ。


 音の方を見ると大きなトカゲが千切れた人の腕を噛んでいた。

 思い返してみるとコモドオオトカゲというトカゲに似ていた気がする。

 それよりも大きかった様に見えたし、僕の記憶にあるコモドオオトカゲとは明確に違う部分もあったけどね。

 だけどその時の僕は、そんなことを考える余裕はなく、それを見た瞬間に悲鳴を上げていた。


 僕の悲鳴を聞いたからかもしれない。

 何人かの人が目を覚ました。

 新たに悲鳴を上げトカゲから逃げる人もいれば、トカゲに立ち向かう人もいた。

 僕はと言えばただ茫然とその光景を見ていた。

 そして人の手を咀嚼するトカゲよりも驚きの光景を見ることになった。


 スキンヘッドの男性が、どこから取り出したのか大きなサバイバルナイフを両手に持ち、トカゲと向かい合っていた。

 威嚇するトカゲと隙を窺う男性。

 トカゲが攻撃しようとすると、男性はナイフを振るう。

 そう見えるだけかもしれないけど、まるで前にもトカゲと戦った経験が有るかの様に手馴れていた。


 だけど驚きの光景はそれだけじゃない。

 僕を更に驚かせたのは一人の女性だ。

 スキンヘッドの男性のように武器を持っているのなら、まだ分かる。

 だけど、その女性は素手でトカゲと向かい合っていた。


 映画か何かで見たことのある中国拳法の構えみたいなのをして対峙する。

 いや、無茶でしょ。

 僕はそう思った。

 でも僕にはどうすることも出来なかった。

 ただ見ていただけだ。


 トカゲが素早い動きで女性に噛み付こうとした。

 だけど女性は、あっさり回避する。

 そしてトカゲに対して何かをした。

 何をしたかは分からない。

 だって見えなかったから。


 トカゲの頭が爆散して、トカゲが動かなくなった。

 それだけは分かった。

 他にも何人かトカゲに立ち向かい撃退していたのを見たけど、女性は一人だけ。

 トカゲを殺せたのも、その人だけだった。

 そしてそれを見たのはどうやら僕だけだったみたい。


「トカゲを殺したのは誰なんだ?」


 誰かがそう言ったけど、その質問には誰も答えなかった。

 勿論、僕も答えなかった。

 結局、誰が殺したのかは曖昧なまま、トカゲ対策をどうするか話し合うことになったんだ。

 皆が分かっている限りでは、トカゲに殺された人は居ないみたい。

 トカゲが食べていたのは、もう既に死んでいた人で、屍肉食の生物である可能性が高いだろうという話になっていた。

 壊れた飛行機の中には死体がいくつも有るから、また来るかもしれない。

 それに、トカゲだけじゃなくて他の生物も呼び寄せてしまう可能性もある。

 そんな話にもなった。

 だから、早急に死体を何とかしようってなったんだ。


「どうするのが最善か意見がある人は居ますか?」


 和彦先生が皆に意見を聞いた。

 医者ってだけじゃ無くてリーダーシップもあるなんて凄いよね。

 その和彦先生の隣には、なぜか糸ちゃんが居た。

 あの子はいつもそうなんだよね。

 いつの間にか、有望株の男性と親密になっている。

 中学生の頃からの友達だけど、昔から変わらない。


「最善の処理となると燃やすのが一番だろうが、その為の燃料が勿体無いな」


 そう言ったのはスキンヘッドの男性。

 ナイフを両手に持ってトカゲと対峙していた人だ。

 身体がプロレスラーみたいに大きい訳じゃないのに、野性味溢れるおじさんだ。

 名前は知らない。


「穴を掘って埋めるしかないんじゃないか? 面倒だがな」


 今度は啓治さんが発言した。

 背が高くてスタイルが良くて色気まである格好いい男性。

 空港で少し困っていた僕を助けてくれた。

 貸しだからな、なんて悪人ぶって言っていたけど、きっと根は良い人。


「確かに面倒ね。だけど、やるしかないんじゃないかしら?」


 トカゲを殺した女性がそう言った。

 啓治さんも和彦先生もスキンヘッドの男性も女性に反論しなかった。

 そうするしかないのだから、当然だ。


 そして、トカゲを警戒する班と穴を掘る班に分かれることになった。

 僕は穴を掘る班。

 穴を掘る班は、更に数班に分かれて複数の穴を掘ることになって、僕はトカゲを殺した女性と同じ班になった。

 手先の器用な人が飛行機の廃材で造ったと女性が言っていたシャベルを使いながら穴を掘っていく。

 僕は穴を掘りながらトカゲ殺しの女性と交流を深めることにした。

 この女性とは仲良くした方が良い。

 直感力なんて無くてもそれは分かる。


「あの、お名前聞いても良いですか? 私は門間翼って言います」

「私は毛塚治子よ」

「治子さんて呼んでも良いですか?」

「ええ、良いわよ。じゃあ私は翼ちゃんて呼ぼうかしら?」

「はい。ありがとうございます」


 下の名前を呼ぶようにすると、僕のことも下の名前で呼んでくれることが多い。

 だから僕は皆を下の名前で呼ぶ。

 親密度も上がるからね。

 それに僕は翼という名前が大好きだ。

 小さい頃は男の子に間違えられたりしたから少し嫌だった時期も有った。

 だから、ふざけて自分のことを僕と言っていた。

 癖になってしまったし、今も心の中では自分のことを僕と言ってしまう。

 だけど、そんなことは気にしない。

 大好きな両親がくれた名前ってことが大事なんだ。


「翼ちゃん、ちょっと良いかしら? こう動かした方が良いわ」


 治子さんがそう言って、シャベルを使う動きを教えてくれる。

 教えてくれた通りに動かすと、いきなり楽になった。

 同じ班の他の人にも指導している。

 シャベルを使う系のプロかと思ったけど、身体を上手く動かすことを教えるプロだと治子さんは言った。


「教えるの凄く上手いですもんね」

「ありがとう。そうね、私が教えたら翼ちゃんも同じことができるようになるわ」

「さっきのトカゲにやったようなことが私に?」

「そうね。でもトカゲのことは今は内緒よ」


 治子さんは笑顔でそう言ったけど、冗談ではなく言う事を聞いた方が良いんだなって僕にだって分かった。

 だから僕は分かりましたと言う以外になかった。

 それに絶対に内緒にしなきゃ駄目だなとも思った。


 因みにトカゲの死体は、調べてみたいと言う人が居て、その人が解体してた。

 色々と調べた後に、穴を掘って埋めたみたい。


 各班で穴を掘り終えると、今度は見張りをした。

 見張りの最中は一番安全な治子さんの側から離れなかった。

 先に見張りをしていた人たちは、亡くなった人たちを穴に運ぶ。

 見張りは見張りで緊張を強いられるけど、肉体労働をどちらか片方だけがやるのは不平等だからと交代制になった。

 ただ、亡くなった人の中には生存者の知り合いも勿論いて、だから穴を掘るのも遺体を運ぶのも埋めるのも自分でやりたいって人もいた。

 その人たちは見張りはしないでずっと肉体労働をしていた。


 因みにパスポートを探して、身元が分かった人については記録していた。

 そして身元が分かった人、分からない人に分けて穴に埋めた。


 穴を埋めるのは交代しながら皆でやった。

 見た感じ飛行機事故による肉体損傷のある遺体はそんなに多くなかった。

 たぶんトカゲに食べられたのが分かる遺体は偶々見なくて済んだんだと思う。

 僕が見た遺体はほとんどが綺麗な遺体で、生前を知ってる訳じゃないけど、生前と変わらないんじゃないかな、なんて思った。


 少しすると夜が明けた。

 仮眠をとった僕は、昨日のことを思い出しながら、空を見ている。

 飛行機もヘリコプターも飛んでいない。

 救助はまだ来ない。

 海を見る。

 船もいない。


 ああ、鳥が海面すれすれを飛んでいる。

 って、言うかあれ、何か変だ。

 だって、飛んでいる鳥の大きさがおかしいよ。

 目を疑う程の凄い大きさだもん。

 あんなに大きな鳥は初めて見たよ。

 だけどさすがにあの鳥が救助ということは無さそうだ。


「え?」


 自然と声が漏れる。

 海から大きな口を開いた魚が出てきて、飛んでいた鳥を丸呑みにしたからだ。

 凄く離れた距離の出来事だったけど、はっきりと見えた。

 ネットで見た海鳥を食べる鮫レベルの話じゃない。

 あれはあれで凄いけど、今見たのはもっと凄い。

 飛んでいた鳥も、それを食べた魚も、規格外に大きい。


「海には出ない方が賢明ね」

「え? ああ、治子さん。おはようございます」

「おはよう、翼ちゃん」


 治子さんとは武術を教えて貰う約束をしていた。

 教えてくれる武術には興味津々だけど、その前に聞きたいことが有る。

 今の鳥と魚のことだ。


「治子さんも今のあれ見えました?」

「ええ、大きな鳥を大きな魚が丸呑みにしていたわね」

「あれ、なんなんですか?」

「分からないわ。私たちの常識には無い存在よね」

「そうです。そうなんですよ。あんなの私は知らない。あんな生き物、まるで映画じゃないですか。現実じゃないみたい」

「そうね、私もそう思うわ」

「じゃあ、なんでそんなに落ち着いているんですか?」


 そう、治子さんは信じられないものを見たとは思えないほどに落ち着いてる。

 僕の質問に治子さんは言った。

 この場所は私たちの知る常識が通じない場所だからかしらと。

 どういうことですか? という質問が僕の口から出る前に治子さんが口を開く。


「だから地球とは別の世界に来たと思っているわ」

「え?」

「冗談よ。冗談。じゃあ、みんなが待っているから行きましょう」


 治子さんは森へ向かって歩いて行く。

 その背中に続きながら治子さんが言った冗談について考えてしまう。

 地球とは別の世界。

 どういう意味で言ったんだろう? 日本から外国へ行けば、そこは別世界の様なものだから、そんな例えで言ったのかな? でも日本とは別じゃなくて地球とは別って言った。

 うーん、分からない。


「翼ちゃんと同じ、新人さんが何人か居るわね」

「そうなんですか?」


 治子さんの言葉に考え事から引き戻される。

 これが治子さんに武術を習う人たちか。

 あ、糸ちゃんが居る。

 真面目そうな若い男の子から盛んに話しかけられて、面倒そうな顔をしている。

 別に僕は人の表情を鋭く見抜ける訳じゃないけど、付き合いが長いから分かる。

 そして糸ちゃんの次の行動も。


「あ、翼ちゃん」


 普段話す時の声とは違うトーンで僕に近付いて来る。

 そしてどうでもいい話を絶え間なく続ける。

 真面目そうな若い子は僕のことを嫌な顔をして見ると離れて行った。


「ありがとね、翼ちゃん」


 普段の声のトーンに戻る糸ちゃん。

 僕は苦笑い。

 糸ちゃんが嫌なことを回避する為に僕を使うのは何度目かな。

 この関係性はいつまで続くんだろう。


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