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主人公の居ない集団異世界転移  作者: 十二月敬太
飛行機墜落事故から始まる集団異世界転移
26/75

ある神の視点01.

ある神の視点01(三人称視点)



 ここは地球とは異なる世界であり救助は望むべくもない。

 そう結論付けた霧崎和彦は長期間の生活に絶対に必要になる水を確保する手段を得るべく、中木屋愁斗なかきやしゅうとの発見した水場を探し出そうと仲間を連れ密林の中で歩みを進めていた。


「申し訳ない。もっときちんと覚えていれば良かったんだが」

「そんなに気にしないで下さい」


 申し訳なさそうにする中木屋愁人に対して気遣う霧崎和彦。

 もう何度目かのそんなやり取りに辟易するような者は少数派であり、多くの者は暖かい目で見ている。

 少数派である辟易している方の片平幸助はうんざりしながら周囲を見ていた。

 するとキラリと光るものが目に入る。

 好奇心が湧いた片平幸助は大した警戒もせずに近付く。


「うわっ」


 声を上げる片平幸助は片足を蔦の様な物で縛られ地上数メートルの場所まで引き上げられていた。

 片平幸助は何者かの罠であろうことは直ぐに察した。

 それに、声を上げこそしたが落ち着いていた彼は、闘気で身体能力を上げると腹筋を使い上半身を持ち上げ蔦を手刀で斬る。

 自然落下する片平幸助は空中で態勢を整えるとそのまま綺麗に着地した。

 片平幸助の声を聞き、集合した連中は安否を尋ねる。

 勿論、何事も無かった片平幸助は笑顔で自分が無事であることを告げるが、どうしてこんな場所に罠が有るのか疑問に思い、手に持っている興味を引いた光っていた物を皆に見せながら相談した。

 それは鉱石の様な物であったが何であるかまでは皆が分からなかった。


「これが何かは分からないけど罠に関しては私達と同じ搭乗客の生き残りが仕掛けたか或いは……」

「或いは?」


 言い淀む霧崎和彦に対し、片平幸助は直ぐに問い詰めた。

 ここが異世界であることを頑なに認めない自分に対し異世界だと認めている人達が秘密にしていることが少なくないことを片平幸助は薄々感じ取っていた。

 だが認めたくはないが認めざるを得ないかもしれないと思ってきている片平幸助にとって情報を秘匿されるのは許容できない。


「ゴブリンかもしれない」

「ゴブリン?」

「近藤さん達が見たそうだ。ゴブリンを知っていればゴブリンとしか思えない人型の生物らしい」

「そんな……」


 ファンタジー小説には欠かせない存在とも言えなくはないゴブリン。

 それが本当に居たとしたら、ここは異世界と認めざるを得ないかもしれない。

 そんな不安が襲って来た片平幸助だったが、たとえゴブリンが居たとしても異世界とは限らないと思い直した。

 頑なに異世界であると認めない片平幸助だが、もはや彼自身ですらなぜそこまで認めないのか分からなくなっていた。


「みんな注意して。結構な速度で、こっちに向かってきてる存在があるわ」


 毛塚治子が声をあげる。

 皆が警戒し毛塚治子が注視する方へ視線を向けた。

 そして呆然とする。


「嘘でしょ」


 水場探索の同行者である中木屋美愛は思わず呟いた。

 彼女達が見たのは空を飛ぶ朽木拓哉だ。

 闘気を駆使し空中を駆ける毛塚治子を見た者、或いはその話を聞いた者も、そのことに驚愕したが闘気を使う者であればなんとか理解が及んだ。

 だが朽木拓哉は映画や漫画のスーパーヒーローの様にまさしく空を飛んでいたのだから、驚きを通り越し幻覚でも見させられているのかもしれないと真実であることが認識できない。

 それでも、彼が地上に降りてきて見慣れた笑顔を見せ「驚きました? 魔法を覚えたんで飛んできました」と言うと、まあ彼がそう言うのならそういうものかもしれないなと、それが現実であると認識した。

 皆が落ち着くと、朽木拓哉は神妙な顔になり、飛行機墜落事故の生存者が犠牲になった話をする。


「そうか、そんなことが」


 また、朽木拓哉は犬に似た象ほどの大きさのある生物が皆が居る場所に来て人々に襲い掛かってきた際に自分が魔法により撃退し、それを切っ掛けにここが異世界であることを匂わし、少なくとも特別な場所であることを皆に説明し、それを納得しやすいように魔法を教えた事を霧崎和彦達に伝えた。

 とはいえ、片平幸助の様に異世界であることを頑なに認めていなさそうな者や半信半疑のような者も居たが全員が防御魔法に関しては会得した。


「皆さんにも簡単に魔法のことを教えますね」


 そう言うと、朽木拓哉はゆっくりと手を挙げると素早く下ろした。

 魔力の風が周囲の人間を過ぎ去って行く。

 朽木拓哉の魔力を使い、体内に有る魔力の存在を強制的に感知させる為の手法だ。


 次に魔法攻撃に対する防御魔法を入念に教える。

 皆が習得すると、初級魔法と呼ばれる簡単な呪文で発動する攻撃魔法を教えた。

 攻撃魔法については防御魔法に比べて非常に簡易的な教え方だったが、それでも程度の差こそあれ皆が習得した。

 特に片平幸助の覚えは早く、内心で彼は優越感に浸っていた。

 彼が魔法を習得するのが早いだろう事を朽木拓哉は予想がついていた。

 そしてそれが良い事ばかりではないのも朽木拓哉は予測していた。


「話は前後しますが、近藤さん達が遭遇したゴブリン達の脅威は無くなりました。こちらから敵対しない限り、ゴブリン達が敵対することは無いでしょう」

「何が有ったんだ?」


 片平幸助の質問に朽木幸助は弓田美子というゴブリンの言語が分かる女性の事とゴブリンに捕らわれていた女性三人の事、また彼女らがゴブリンから性的暴行を受けていない事まで話した。

 その話をすることでゴブリンに対する敵愾心を薄め、女性達がおかしな視線に晒されない様に配慮したからだ。


「結果的にゴブリン達は弓田さんの支配下に入り、彼らは彼女に絶対的忠誠を誓っています。最初に忠誠を誓ったゴブリン達が弓田さんと同族である人間を害そうとした彼らにとって同族であるゴブリン達と敵対したことからも分かる様に、それは信頼できるものだと思います」

「なるほど」


 朽木拓哉の説明を受け、しきりに納得する大人達を見て片平幸助は苦々しく思った。

 また、自分達の様な若者がリーダーシップを取ることは良くない事だと言っていたのにも関わらず、結果的にリーダー的存在になっている朽木拓哉に対して面白くないとも思っていた。

 朽木拓哉からすれば状況的に仕方なくそうなったと思っているし、それはある意味で片平幸助の為にもなっていたのだが、それを彼が知る由も無い。


「ところでゴブリンは罠を仕掛けたりできるかな?」

「できない事も無いとは思いますが、どうしてですか?」

「実はここに罠が有ってね」


 霧崎和彦が片平幸助の引っ掛かった罠について説明する。

 朽木拓哉はこの辺りはゴブリンの領域ではないから、ゴブリンである可能性は低いと答えた。

 そして魔法を使い罠の周辺に霧崎和彦達以外の痕跡がないか調べる。


「水に関しては魔法で何とかなりますから、取り敢えず今はもう皆の所に戻りましょう」


 朽木拓哉の突然の言葉に少し驚くが、彼が言うのならと多くの者が頷く。

 納得しないのは片平幸助であり、彼は当然の如く口を開く。

 なんでだ? と当たり前の質問をする片平幸助。

 朽木拓哉はあと数時間で暗くなるのが一番の理由だと強調したが、もう一つの理由として罠を仕掛けたのが人間ではない事をあげた。


「どうしてそんなことが分かる?」

「魔法だよ」


 そう言われれば片平幸助はそのことについて何も言い返せない。

 だが、それがどんな生物であれ、自分達であれば対応できるのではないか? という根拠の無い自信が有った片平幸助はそれをそのまま朽木拓哉にぶつける。

 朽木拓哉はそうだとしてもわざわざ危険を冒す必要はないことと、罠を設置できるほどの知能の持ち主に対してわざわざ敵対行動をとる必要もないことを優しく諭した。

 

「そうか」


 それだけ言うと片平幸助は黙った。

 口をへの字にし歯を食い縛る片平幸助の表情は、悔しさを堪えているのが傍から見る者にとって明白な筈だが、朽木拓哉は何も言わなかった。

 他の事に思考を集中していたからだ。


「じゃあ帰りましょうか」


 霧崎和彦の言葉を皮切りに皆が移動を始める。

 全員が闘気を使えるので、移動速度は速い。

 だがそれは和気藹々としたものではなく無言で緊張感の伴うものであった。


 中木屋美愛はそれを気に病み、原因となった朽木拓哉と片平幸助を交互に見た。

 片平幸助は不貞腐れたような顔であったが、よくある事なので気にしなかった。

 だが、殿を走る朽木拓哉の表情を見て少し不安になる。

 中木屋美愛から見て、彼の表情は少し焦っている様に見えたからだ。


 朽木拓哉は他の皆から見ていつもの表情と変わらなかったが、中木屋美愛だけは表情の変化に気付いた。

 朽木拓哉について出会った時には少しだけ疑問視していた中木屋美愛だが、今となっては信頼している。

 少し回りくどい言い方をするけど、彼の言うことに間違いはない。

 中木屋美愛はそう信じている。

 表情の変化について言及こそしなかったが、この場から急いで離れた方が良いのは確かだと、中木屋美愛は足を速めた。

 それにつられるように周囲もペースを上げる。


 実際、少しばかり朽木拓哉は焦っていた。

 罠が設置してあったことを知り、周囲の痕跡を魔法で探った朽木拓哉は人ではない存在の足跡を見付けた。

 その足跡を目で追うと彼の目に名前とスキルが見えた。

 つまり、そこには誰かが存在して居るという事だ。

 朽木拓哉は表情にこそ出さなかったが、驚愕した。

 自分が持つ特別な目のお陰でその存在に気付けたが、彼の魔力探知にも達人である毛塚治子の闘気察知にも見つからずに近くに居られる存在に脅威を覚えた。

 もしこの存在が敵対したら? 現状で対応できるのは自分だけの可能性が高い。


 また犠牲者が出てしまうかもしれない。

 やられる前にこちらから攻撃するという考えも頭を過ぎったが、こちらは被害を受けている訳では無いし相手の実力が分からないのだから得策ではないと考え直した。

 結果、朽木拓哉ができることは退却だけだった。

 襲ってくるとしたら一番可能性が高いであろう最後尾を自分が受け持つ。

 そして襲って来られても対応できるようにいくつかの魔法を展開した。


 幸いなことに驚愕の表情は見せなかったし、自分に対して視線を感じはしたが互いの視線が合った感じは無かったので、自分が気付いていることに相手は気付いていないだろうと朽木拓哉は推測していた。

 また、こちらの人数の多さも相手が襲ってくる可能性を低めるだろうとも考えていた。


 だが、何らかの手段により相手の数が増える可能性は未知数であるし、一人ずつ襲うのであれば問題無いと考える可能性も踏まえて最大限の警戒をする。

 とはいえ、襲って来ない事を願っていた。

 だからこそ、出来る限り早急に見えない相手から距離を取ろうと焦っていたのである。



 数時間後、霧崎和彦達は皆のいる場所に帰還し、それと同時に驚愕する。

 先ず目についたのは砂浜にある高く威圧感のある塀だ。

 通過時にはその分厚さも皆は感じた。

 そして通過した先にある建造物。

 そこには非常に簡素でありながら、だからこそ、その強固さが分かる無骨な砦があった。

 朽木拓哉により、魔法で簡易的に皆を守れる建物を砂を固めて作ったと聞いていたが、その規模の大きさに一同は驚愕するしかない。


 そんな彼等の驚愕を他所に朽木拓哉はただ安堵していた。

 正体不明の相手が追って来なかった事に対する安堵だ。

 だがその安堵は一時のものでしかない事を朽木拓哉は分かっている。

 この先、この世界で生き抜いていく為に何ができるか何をするべきか。

 朽木拓哉だけではなく、生存者達のサバイバルはまだまだ続くのだから。

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