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主人公の居ない集団異世界転移  作者: 十二月敬太
飛行機墜落事故から始まる集団異世界転移
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島01.朽木拓哉の視点

 朽木拓哉、男、18歳、身長182。茶髪、茶眼。スラリとした手足の長身。

 顏は整っているが、目つきが鋭く大人びた顔をしているので、無表情だと冷たい印象を他者に与える。

 本人も自覚しているのか、にこやかにすることで悪印象を持たれないようにしている。

島01.朽木拓哉くちきたくやの視点




 周囲の喧騒で目が覚める。

 最初に目に入ったのは良く晴れた青い空。

 太陽が眩しい。

 そして暑い。

 外で寝ていたみたいだ。


 って、外? 意味分かんないんだけど? 何で外で寝てたんだ? ん? 覚えてないぞ。

 なんだこの感じ? 寝起き直後の呆けている感じとは少し違う。

 頭が混乱している感じ。

 なんだこれ? 変な感じだ。


 ああ、なんだか喉が渇いてる。

 飲み物が欲しい。

 いや、そうじゃない。

 実際、喉は乾いてるが、それはひとまず置いておこう。


 俺はどうした? ん? 俺は何してたんだ? 覚えてない。

 記憶がなんだか曖昧だ。

 え? 記憶喪失? そんな訳ない。

 朽木拓哉。

 うん、自分の名前は取り敢えず憶えている。


 それにしても身体のあちこちが痛い。

 擦り傷や切り傷があちこちにある。

 あ、この感じ覚えてる。

 六年前に交通事故に遭った時もそうだった。

 もしかしてまた事故に遭って一時的に記憶を喪失してるのかもしれない。

 でもまた事故に遭った記憶なんか無いぞ。

 いや、一時的に記憶を喪失しているなら、無くて当たり前だ。


 それにしても周りが騒がしい。

 そもそもここどこだ? 右を向くと砂と……海? 潮の香りがする。

 左を向くと林? 森? ジャングル? 木が生い茂っている。

 痛みを気にしながら徐に上体を起こして周りを確認する。


「うわっ!? なんだあれ?」


 大きな何かが所々燃えている。

 ああ、あれは胴体と翼だ。

 壊れた飛行機が燃えている。

 主翼がある中部だけで、コクピットのある前部と尾翼のある後部は見当たらない。

 叫んだり動き回ったり呆然と立ち尽くしたりしている大勢の人達。

 そして俺はそんな人達をただ見ている。


「朽木!! 目が覚めたのか!?」


 後ろから声を掛けられて振り向く。

 そこには俺の通う専門学校のクラスメイトである片平が居た。

 水の入ったペットボトルを手渡される。

 礼を言って、それを受け取り、飲み始める。

 そう、喉が渇いていたんだ。


「お前は取り敢えず安静にしていろと医者が言ってたぞ」

「医者?」

「ああ、生存者に医者が居て良かったよ。俺たちは運が良いな」

「運が良い?」

「まあ、乗っていた飛行機が墜落した時点で運が良いとは言えないが」

「そうか……墜落か」

「おい朽木、大丈夫か?」

「いや、なんだか頭が混乱しているんだ」

「医者が頭を打ったせいで起きても混乱している可能性もあると言っていた。痛むか? 医者を呼ぶか?」

「大丈夫だ。ただ記憶が曖昧なんだ。俺はどうしてこんなとこに居るんだ?」

「俺たちは研修旅行で飛行機に乗った。それは覚えてるか?」

「研修旅行? ああ、アメリカに行くんだったな」


 そう、アメリカ。

 確かサンフランシスコだったような。

 アメリカの会計事務所を見学するという研修旅行、というのは建前の観光旅行。

 俺の通う専門学校の研修旅行で、参加費はそれなりに高額だ。

 まあ、自由参加なので参加する人数はそれほど多くない。


 我が家は母子家庭で裕福ではないし、祖母が死んだばかりで母は寂しそうにしていた。

 弟が居るけど、彼だけでは不安だったから不参加で構わなかった。

 アメリカに対しても、海外の会計事務所に対しても、大して興味も無かったし。

 それに日本語が通じない所には行きたくない。

 だが、折角だからと母が強く勧めたのでマザコンの俺は行くことにした。

 初めての海外旅行だったので前日までそれなりに興奮していたが、当日になったら落ち着いてしまっていた。

 飛行機の窓から見る景色も最初は感慨深かったが、次第に空を見ていてもなにも感じず、ただ暇潰しで眺めているだけになった。


 そして、いつの間にか眠っていた俺は激しい揺れで目覚める。

 隣に座っていた片平が起きていたので理由を聞いた。

 乱気流で飛行機が揺れているとのことだ。

 客室乗務員を確認すると座席に座ってシートベルトを締めている。

 目が合った乗務員の女性は微笑んでくれた。

 俺を安心させる為の微笑みだろう。

 だけど、客室乗務員が座席でシートベルトしている時はハードな状況の時だってネットで見たことがあった俺は安心なんかできなかったな。


 何度も機内が大きく揺れて客の何人かが悲鳴を上げた。

 ちょっとした集団恐慌状態に陥りそうだったが、その後ほどなくして飛行機の揺れは収まり、乗客たちも落ち着いた筈だ。

 その時点で飛行機は墜落していない。

 それからどうなった? 思い出せない。


「繰り返すが飛行機に乗ったのは覚えてるんだな?」

「ああ、すまない。覚えてるよ。乱気流で飛行機が揺れて一部がパニックになったのも覚えてる。でも確かあれは乗り切っただろ?」

「そうだな。乱気流での揺れは激しいものだったから一部の客が騒いだけど、少ししたら落ち着いて、以降は快適な空の旅だった」

「じゃあ、なんで墜落したんだ?」

「正直、分からない。いきなり乱気流の揺れとは比べ物にならない衝撃が来て、直ぐに落下していることが確信できるほどの落下感が来た。ただ、衝撃の少し前に外が光ったから雷の影響で何かが起きたのかもしれない」

「なるほど、明確な理由は分からないが墜落したことだけは事実ってことか」

「そうなる。もしかしたら朽木は衝撃の時に頭を打ったのかもしれないな」

「かもな」


 衝撃か、記憶に有るような無いような。

 しかしそれにしても。

 俺は周りの様子を観察する。

 片平が言っていた医者はあの人だな。

 怪我人を見つつ、周りに指示も出している。

 リーダーシップが有りそうだ。

 これが物語ならメインキャストは確定ってところか。

 他に気になるのは……

 少し観察していると、片平が話しかけてきた。


「得意の観察か?」

「え?」

「朽木は人間観察が得意じゃないか」

「得意だと自信を持って言えるもんじゃない。癖みたいなもんだ。やらないと落ち着かないしな。だいたい俺みたいなモブは周りをよく観察して立ち位置を上手く決めないとな」

「お前がモブ?」


 そう言うと片平は訝しげな顔をした。

 モブはモブキャラクターからきていて、ゲームやアニメなどの名前の無いキャラクターのことを言う。

 リアルに当て嵌めれば目立たない一般の人と言ったところだ。

 なにせ、モブの意味は群衆だからね。

 多くの人々がモブだし俺も勿論そうだ。


「そうだろ?」

「まあ、それは置いておくとして、観察した結果はどんな感じなんだ?」

「そうだな……まだ全員見た訳じゃないから分からないけど、一先ずは医者から指示があったら、そのとおりに動くのが良いんじゃないかな。余程のことが無い限りね」

「意外に無難な意見だな」

「見た感じ、明らかな子供を除けば俺たちが一番若い。つまり?」

「こき使われやすい?」

「察しが良くて助かるよ。救助が早く来るのなら問題ないが、もし何日かここで過ごさなければならなくなったとしたら」

「いいように使われる可能性が高いと?」

「たぶんな。だったら発言力と善性が高い人に使われる方がいい。あの医者なら皆の為になることを指示してくれそうだから、いくらかマシだろう」

「なるほど」

「それに、俺たちみたいな若いのがリーダーシップを取ったり逆にリーダーシップを取る人に反抗的であれば生意気だと思われてヘイトが溜まる」

「それもそうだな。分かり易い説明ありがとよ」

「お安い御用さ。ところで学校の他の連中は?」

「見ていない。もしかしたら学校の他の連中に関しては絶望的かもしれない」


 ヒューマンエラーで何人分かの席が他の皆とは離れた座席になってしまった。

 そして、くじ引きの結果、俺と片平は皆と離れた席になった。

 だからこそ幸運にも死なずに済んだというのもあるのかもしれない。

 だけど複雑な気分になる。


 ただ、高高度からの墜落事故だというのに見たところ数十人の生き残りが居る。

 これは奇跡的な幸運とも言える。

 だから他の座席だった人たちが、この場に居ないのだとしても、死んでいるとは限らない。

 こことは別の場所で生きているかもしれない。


 飛行機事故の死亡率に関して言えば飛行機を前部中部後部で分けた場合、後部が一番低い。

 多くの生徒は後部に集中していた。

 だから確率的に言えば生きている可能性が無いとは言えない筈だ。


 とはいえ今はどうすることもできない。

 更なる複雑な感情が押し寄せて、何時の間にか強く拳を握っていた。

 その瞬間、おかしいと思った。


 なんだ? 何か違和感がある。

 自分の両手を見る。

 グーとパーを繰り返す。


 俺の目には信じられないことが見えている。

 だけど、おかしい。

 明らかにおかしい。

 こんなこと起こるのだろうかと疑問が頭を巡る。


 そしてとんでもないことが思い浮かんでしまった。

 まさか? そんなことが? でも、そう思えてならない。

 他の可能性もいくつか浮かんだが、この馬鹿げた考えが一番しっくりくる。


 この考えを片平に聞かせてみたい。

 だが信じるだろうか? きっと信じないだろう。

 せめて何か不思議なことが起きているということを確信させるものが欲しい……そうだ。

 生き残っている人の中にある人物がいることを願って俺はきょろきょろと辺りを見渡す。


「どうした?」


 心配そうに片平が声を掛けて来る。

 片平から見ると俺の様子がおかしいのだろう。

 でも構ってはいられない。

 手の平を片平に向けて待って欲しいことを示しながらも、目的の人物を探す。


 居た。

 目的の人物は立って空を見上げていた。

 遠くてよく見えないが恐らくその表情は満面の笑みだろう。

 いや、そうに違いないとさえ思える。

 俺はその人物を指差し片平に問う。


「なあ、あのスキンヘッドのオジサンのことを覚えてるか?」

「ああ覚えてるけど、それが何か……って、え? 確かあの人……なんで?」

「一先ずスキンヘッドのオジサンのことは置いておいて、質問だ。片平、お前鼻炎だったよな? 季節問わず、常に鼻が詰まってるって言ってただろ? 今はどうだ?」

「え? そういえば鼻詰まりが無いな。こんなにスッキリした状態は今迄の記憶に無い」

「やっぱりそうか。それとな、これを見てくれ」


 そう言って俺は左手でグーとパーを繰り返す。

 そして次に両手で。

 それを見せられた片平は驚愕の表情を浮かべた。


 俺の通う専門学校は資格を得ることが目的の学校であり、人と人との交流は些事だ。

 だからクラスメイトであっても中高生の時の様にそれほど仲良くはしていない。

 だが、片平はそれでも割と仲の良い方であり、多くのクラスメイトが知らない俺の身体の障害を知っている。

 障害といっても俺個人としてはそんなに大したものとは思っていないし、普段の生活に支障はほとんどない。


 俺は交通事故が原因で左手による繊細な動きが上手くできない。

 単純なグーとパーを繰り返す動きでさえ右手と左手ではスピードが違う。

 それなのに、今の俺はグーとパーを繰り返す動きを左手で右手と遜色ない速さで繰り返している。


 片平が驚くのも無理はない。

 だが、左手による繊細な動きができないという事実を片平が俺の作り話であると考える可能性を踏まえてスキンヘッドのオジサンを探していた。

 彼を覚えているのなら、彼を見ることで、片平は何か不思議なことが起きているのを確実に認識するはずだ。


「どういうことだ? 俺は夢でも見てるのか?」

「そう感じるのは仕方ない。俺も今のこの状況が現実であると言い切れる自信は無い。ただ、現実であると踏まえて色々と考えてみた。だが、これから話す事は非現実的だし、ぶっ飛んでる」

「よく分からないが朽木の言うことなら聞く価値があると俺は思う」

「そう言って貰えると助かるよ。それじゃあ言わせて貰うが、たぶん俺たちは異世界転移している」


 そう言葉にすることで、それが事実であると不思議と確信が持てた。

 そしてきっと片平はまだ信じないだろうことも分かってしまった。

 それに更に不思議なことに不明確だった墜落までの記憶が蘇って来た。

 そしてさっきまで見えていたもの以上のものが見え始める。


 片平のことがよく分かる。

 ああ、なんてことだ。

 見えて欲しくなかったものまで見えてしまった。

 これは知りたくなかった。

 これについては今はまだ秘密にした方が良いだろう。


 表情を取り繕い片平の顔を見る。

 ああ、何を言ってるんだこいつって顔だな。

 まあ、仕方ない。

 取り合えず片平が何か言ってくるのを待とう。

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