プロローグ 始まり
「いっててて」
目が覚めると、見た事がない明るい、いや、真っ白で何も無い部屋に座っていた。何故こうなったの思い返してみる。
―――「お前なんか勘当だ!この無能が!」
「なっ…なんっだよ!急に荷物まとめろとか言うからまとめてきたのに追い出すためかよ!こんな家こっちから願い下げだわクソがっ!」
荷物と一緒に家から追い出され、閉まる扉の隙間から心配するフリをしている母が見えた。
実家は大きな病院。父は厳格が服着たような人で、代々続く病院を継ぐ気がない俺を酷く嫌っていた。そんな父に逆らえない母はいつも俺を心配するフリだけしていた。そこまではいい。が、そこから何があってこんなところにいるんだ。
「くっそ、なんだよ腹立つなぁ!久しぶりに帰ってきてやったのになんだよ」
それで、ヤケになって歩いてたら暴走した車が突っ込んできて、それでさすがに小さい子供は見捨てられなくて庇って。
「俺ハネられたのか。てことは死んだ!?いやあああああ!」
でもないか。こんな大したことないクソみたいな人生早く死んでた方が。いや、待て!今度の日曜俺が愛して止まない宇宙級可愛さを誇るスーパーアイドルHAYAKAちゃんのお誕生日!!
「まだ死にたくねええええ!!!!」
「よくぞ言った!」
「…は?」
誰だこのジジイ。真っ白な髪、真っ白な長い髭、真っ白な服、そして色白い肌。完全に背景と同化してて気付かなかったぞ。
じゃなくてホントになんだこいつ。いきなり現れてよくぞ言った?何だそれ。
「主は生きていたいんじゃな?」
「当たり前だろ!HAYAKAちゃんバースデーイベントっ!去年は2位で負けたが今年こそあいつを…フジ丸とやらを負かす!そして俺が真のHAYAKAちゃん推しだと証明するんだ!ふははっ、はーっはっはっはっ!!!」
両手を広げ、悪役のように笑う。初めてこんな笑い方したがこれはスッキリするな。悪役がしたくなるのが分かる気がする。
「主、意外と気持ち悪いのぉ。まぁいい。性格はどうあれ主を生かしてやろう!」
「本当か!?助かるぞジジイ!」
「ジジイはやめ!これでも我は神であるぞ!」
えっへん!と音がつきそうなくらいふんぞり返るジジイ。可愛くねぇぞ。
「…神?あっ、俺無宗教なんで。やっぱいいです」
「ま、待て待て!本当じゃ!証明してやろうか!?」
本物の神様なら慌てんなよそれくらいで!まぁ見せてくれるってんなら。
「見せてみろよ」
途端に目の前が真っ白に、いや元から真っ白だ、そうじゃない。光り始めた。その瞬間目の前に広がる大草原。もちろん触ると草の感触。こいつマジか。
「どうじゃ!信じたか?」
得意気に話すジジイ。いやJKみたいにはしゃぐなよ気持ち悪い。それになんだよ。いきなり草原出すか?普通。もっとこう、なんかあるだろ!
「まぁ信じないけど。話は聞いてやろう」
聞かないと進まないだろこのジジイ。それに俺は早くHAYAKAちゃんに会いたいんだ!会えるんだろ!?
「よしよし、まだ生きていたい!そんな主を勇者とし、新たな世界で生きることを認めてやろうではないか!」
「は?はああああ!?勇者ぁ!?新たな世界ぃ!?そんなんいらねーよ!俺はHAYAKAちゃんと同じ世界で生きていたいんだ!」
勇者なんて誰がやるか!絶対面倒だろ!
「ゆ、勇者じゃぞ!?」
「誰が勇者なんか好んでやるもんか!死んだ!転生して勇者する!なんてなぁ!漫画やらラノベやらの世界だけだよ!魔物を倒して?仲間集めて?魔王を倒せってか!?」
「そう!そうじゃ!」
「誰がやるかぁっ!」
目の前に広がる草原の草を毟っては神に投げ、毟っては投げを繰り返したが神には届かない。
「では行くぞ」
届いてないどころじゃねぇ。勝手に話進めてんぞこいつ…!俺はやらねぇって!
「頼んだぞ!勇者!」
「話を聞けぇぇぇぇ!!!!」
再び目の前が光り、今度は意識を奪われた。