地対空労働者
朝靄だった。男がひとり、背中に何かを背負い歩いていた。
「何時だろう?」男は呟いた。野良犬が近づいてきた。「なんだ、野良犬か。」
それはいつもの、2507年の夏の光景だった。男は、人工太陽塔に向け歩いていた。
「火星の空気は、砂っぽくてたまらん・・・」
男の靴には、砂が子供のようにまとわりついていた。
いつものように、風がひゅうひゅうと歌っていた。
「俺はしがない、地対空労働者・・・」男は自分自身を悲しく笑った。
野良犬が男の後を追って歩いていた。
「何もないぞ。」男は小さな声で呟いた。
野良犬は治安のためのサイボーグ犬だった。
上空を、空対地資本家が一機飛ぶのが確認できた。
「あっはは、朝から血走ってやがる。」
空対地資本家から、俺に向かって衝撃波ミサイルが発射された。
男は逃げる余裕もなく、100メートルほど弾き飛ばされた。火星の重力は、地球の3分の1程度なので、このくらいは軽く飛ばされた。
「あちちちちち、朝から何てことしやがる!」
この惑星では、空対地資本家の≪無礼撃ち≫が、まかり通っていた。彼等の飛行機には高性能の嘲笑い探知機がついていた。
「顔の表情筋肉は探知できても、心の中までは探知できないんだよ・・・」
男は、心の中で嘲笑った。
「馬鹿な奴らだ。」
砂が深くなってきたので、男は中古で買った背中の空中歩行機のスイッチを入れた。
ウィ???ン・・・
いつもの音がして、男の身体は1メートルほど浮き上がった。
「これが無いと、仕事にならん。」
遠くの方からエンジン音が聞こえた。男は周りを見廻した。白い反重力エアカーが近づいてきて、男の前で止まった。
『ずいぶんと派手に飛ばされなすったねえ。』
男は吐き出すように言った。「ああ、ひどい目に逢ったよ。」
『安くしとくけど、センサーガード要らんかね?』
「センサーガード?」
『嘲笑い探知機を妨害するやつだよ。』
「どうせ、インチキ品だろ。」
『本物だよ。50火星ドルでいいよ。』
「50火星ドルね・・・ちょっと高いな。」
『・・45でいいよ。』
「あいにくと、12しかないんだ。」
『ああ、そうかい。欲しくなったら連絡しな。』
「ありがとう。」
白い反重力エアカーは、人工太陽塔とは反対の方向に去って行った。
「この空中歩行機、だいじょうぶかなあ・・」
男は、試しに10メートルほど上昇した。
「まあ、大丈夫みたいだな。」
バッテリーの残量を確認すると、男は100メートルまで上昇した。
「どこかに、バッテリーステーションは無いかなあ・・・」
ウィィ???ィ・・
「どうも、音がおかしい。」
「充電しとかないと、昼まで持たないぞ。」
火星では夏とは言っても、赤道直下で10℃くらいしかなかった。
その為、核融合人工太陽塔が各地に設置されていた。
それは、直径10メートル高さ30メートルの発光しない銀色の円柱体で、約半径25km内の空気を誘導発熱させていた。この装置によって、火星の各都市は距離に関係なく平均的に20℃前後に温められていた。
火星は、687日で太陽を回っていて、24時間37分かけて自転している。
直径は地球の約半分、体積は10分の1ほど、表面の重力は地球の3分の1ほどである。
火星の大気は人工的に約100年かけて作り変えられていた。
突然、前方彼方の空対地資本家から、空対空遊撃ミサイルが放たれた。
キィ?????ン・・・
鋭い金属音が男の上を襲った。
ミサイルは男の背後に向かって、美しい飛行雲を描きながら、背後の空対地資本家に襲いかかって行った。
上空は空対地資本家の仕事場であり、遊び場だった。
目標の空対地資本家の飛行機は、瞬間移動でミサイルを交わした。
飛行機は自動的に瞬間移動回避されていた。だから、ミサイルが命中することは、ほとんど無かった。
それは、”おどし”或いは”暇潰し”類いのものであった。
「あいつら、何考えてんだ。」
「俺達の1ヶ月分のマネーを、1発で使いやがって。」
「そのミサイルに向かっていく俺も馬鹿だよな。」
「地対空労働者は悲しいよ。」
男は、目的地を目指して急いだ。
腕時計は、9時を回っていた。男は空中歩行機のアクセルを吹かした。
「急がないと、、やばい。燃料も切れそうだし。」
「働けど働けど、資本家なんかにはなれなれないのに、俺は必死で働いている・・・なぜなんだろう。」
男は、昨夜アンドロイドの遊女から貰ったチョコレートを口に放り込んだ。
風が強くなってきた。
「砂嵐が来そうだな。」
吹き飛ばされそうになったので、男は空中歩行機のスイッチを切った。男は、砂の上にドスンと落ちた。尻餅をついた。
「あいてて、これだから中古品は嫌なんだよ。」
「本物の女に会いたいなあ・・・」
火星には、人間の女は居なかった。すべて、アンドロイドだった。
「アンドロイドには、冗談が通用しないからなあ・・・」
「意味不明!なんてぬかしやがって。味気ねえ連中だよ。」
男は上着の内ポケットからゴーグル付のマスクを取りだし、顔に被った。
男は尻餅をついたままの姿勢で、太陽をちらりと見た。
「いつ見ても、小っちゃくって頼りない太陽だなあ・・・」
男は、でっかい地球の太陽を思い出していた。
火星の極から流れ込んでくる砂嵐は冷たかった。
「おお、寒い!」
腕時計の温度計を見ると、10℃になっていた。
幸いにも、砂嵐は歩けないほどのものではなかった。
「バッテリーステーションはないかなあ・・・」
男はナビゲータの示す方向に歩きだした。腕時計はナビゲータでもあった。
30分ほど歩くとオアシスがあった。潅木やサボテンがあり、家が建っていた。
標識を見ると、≪第82居住区ゴアラ村≫と書いてあった。
村人が通りかかったので、男はマスクを取り、尋ねた。
「すみません。この近くに充電できる所ありますか?」
『ああ有るよ。教会の隣だよ。あそこに見えるだろう。』
砂嵐は、だいぶおさまっていた。
「ああ、あれですね。ありがとうございます。」
男は教会の方に歩き出した。
教会のドアには、
≪来たる者拒まず、ノック無用!≫
と書かれてあった。
男は立ち止まり、ドアを静かに開いた。
村人らしい人間が10人ほどいて、牧師らしい人間が説教をしていた。
『神は人の上に人を創らず、人の下に人を創らず・・』
辛気臭い雰囲気だったので、男はドアを静かに閉めた。
「なんだ、説教か。」
男の後ろに、女が立っていた。
『どんなに科学が進んでも、人間の心の差別だけは無くならないのよ。』
「なんだ、アンドロイドか。」
そのアンドロイドの女は、どこか違っていた。
「まるで人間の女みたいな言い方をするじゃないか。」
『そうかな。』
「充電するところ、ここいらにあるって聞いたんだけど。」
『あるよ、こっちだよ。』
言われるままに、男は女の後をついて行った。
「君、変だねえ。」
『え、何が?』
「歩き方がアンドロイド的じゃない。」
『そうですか。新型なんですよ。」
「ふ?ん、そうなの・・・名前は?」
『サチコです。』
「サ・チ・コ・・・ってことは、日本製?」
『そうです。』
「ここで働いてるわけだ。」
『そうです。』
充電設備の奥は、フード&ドラッグ・ストアになっていた。
「新型って、どこが違うの?」
『さあ、どこなんでしょう・・』
「・・・バッテリーが、ばてりい! なんて分かるかな?」
『ははは、おかしい!』
「う??ん、、まさに新型だ! 感度いいねぇ!」
『そうですか。』
男は時計を見た。11時だった。
「充電完了!これで、3日は大丈夫だな。さて、出掛けるか。」
男は、サチコというアンドロイドに手を振った。
「サチコさん、またね。」
『お気をつけて。』サチコは、不器用にウインクをした。
「新型、いいねえ・・・」
風は無かった。雲も無かった。
「火星の天気は変わりやすいからなあ。」
男は目的地に向かって歩き出した。
「風がないから、こいつで距離を稼ごう。」
男は空中歩行機のスイッチを入れた。男は浮かんだ。最高時速30kmで進んだ。
「急ごう、被害者が出たら大変だ!」
目的地には、30分ほどで到着した。
「あれだな・・」
これ以上近づくと、空中歩行機の重力波で誘爆する危険があるので、男は、空中歩行機のスイッチを切った。腰から、ドスンと落ちた。「あいたたたた。これだから中古品は嫌なんだよ。」
男は、空中歩行機を砂の上に置き、工具の入ったケースを取り出すと、ミサイルに向かって歩き始めた。
ミサイルは、直径25センチ、全長2メートルのもので、重力波に反応するタイプの中型のものだった。
このミサイルは、みかけは小さくても、周囲1kmを破壊する威力があった。
目標を外れたミサイルは、居住区から離れた場所に落下するようにプログラムされていた。
そいつは、前方を砂に潜らせて斜めに立っていた。後部には、パラシュートが絡まっていた。
男は、慎重にミサイルに近づき、溜め息をついた。
「ふ???、いつ見ても不気味だな・・・」
男は、空を見上げると、工具ケースの≪作業中信号ボタン≫を押した。
電波で、重力波を発する物に危険を知らせるためと、自分を守るためのもので、いつもの行動だった。
ときどき、砂に埋まったミサイルに接近して、エアカーやロボットが事故を起こしていた。
「そうだ、もう1基落ちているんだ。」
思い出したように、男はナビゲーターを覗き込んだ。
「北北西に1kmの距離だな。」
男は、再び歩行機を背負い浮上して、進み出した。
300メートルほど進んだところで、右側にエアカーが見えた。
「おかしいなあ、ミサイルが危険信号を発していない。」
通常、落下したミサイルは危険を知らせる信号を発しているのだが、落下の衝撃などで壊れてしまう場合も多かった。
エアカーは、ミサイルが落下している方向に進んでいた。
「危ないなあ。こちらから危険信号を送ろう。」
その時、目のくらむ閃光とともに、大地を揺るがす激しい破裂音が、男を襲った。
「やったぁ!」ミサイルが誘導爆発したのだ。
男は、次の瞬間、激しく吹き飛ばされた。
男は3回ほど回転しながら、砂の大地に激しく打ちつけられた。
爆発した方向には、大破したエアカーが黒い煙を上げて燃えていた。
「救命エアカーを呼ばなきゃ・・」
頭を打ったのか、男は意識が朦朧としていた。
男は立ち上がろうとしたが、立ち上がれなかった。左脚の大腿部にミサイルの破片みたいなものが刺さっていた。
「いててててて・・」
それを抜くと、出血しそうなので、男は抜かなかった。
空中歩行機は、動作しなくなっていた。
「地対空看護婦を呼ぼう!」
2分20秒待ったとき、男の上空に飛行機雲を描いて≪地対空看護婦≫を乗せたミサイルが飛んできた。
「やってきたか・・」
ミサイルは上空で2つにカパっと割れると、中から≪空対地看護婦≫が舞い降りてきた。
≪空対地看護婦≫は、ミサイルのマッハのスピードにも大丈夫なアンドロイドであった。もし人間の看護婦だったら、失神してるだろう。
『しっかりしてください。もうすぐ救命エアカーが来ます。』
「さっきよりか、頭は大丈夫みたい。」
彼女は男の左脚を見ながら尋ねた。
『ほかに、お怪我はありませんか。』
「たぶん・・無いと思う。」
『痛みますか。』
「うん・・かなり痛い。」
彼女は、男の怪我の部分を睨み、瞳からエックス線を出して、検査を始めた。
『大丈夫です。血管から外れています。』
「ああ、良かった。」
『今から、破片を取り除きます。』
「・・・」
彼女は、医療箱からハサミを取り出し、傷の周りのズボンの生地を円るく切り抜くと、再びエックス線アイで抜く角度を慎重に探しながら、破片を取り除いた。
『消毒して、傷口を縫います。』
「・・・」
『もう、大丈夫です。』
「これは?」
『傷口を守る透明ジェルです。約1分で渇きます。』
「ありがとう。」
『救急車は、もうすぐ来ます。』
「なんか、風が出てきたねえ。」冷たい風だった。
『寒いですか?』
「ちょっとね。」
『大丈夫です。わたしが貴方を守ります。』
そう言うと、彼女は男を両手で引き寄せ、母親のように男を抱いた。
「君って、温かいんだね。」
『今、私の体温を50℃に上げました。』
「君って、凄いね。」
気が付くと、男は病院のベッドの上に寝ていた。
「・・・あの看護婦さんは?」
男は、誰となく周りに話し掛けた。
4本脚の掃除ロボットが、こそこそと動いていた。
『ワタシハ オソウジ ロボット デス』
男は周りを見廻した。ベッドが6床あった。
「病院・・・」
看護婦が入って来た。
『お目覚めですか?』
「どうもありがとう。さっきは。」
『わたしではありません。A127号です。』
「・・・」
看護婦アンドロイドは、皆同じ顔、同じ体型だった。
「ああ、そうなのか。」
「名前は無いのか・・悲しいなあ。」
『わたしたちには、精神的看護は出来ません。』
「分かってるよ。」
『何か欲しい物はありますか?』
「物は要らない。」
『分かりました。』
「俺、どのくらい寝てたの?」
『2時間くらいです。』
男は、彼女に抱かれた後のことを、何も覚えていなかった。
『まるで子供のように寝ていました。』
「そうだ、思い出した。まるで母親に抱かれてるような気分になって・・・」
男は、上体を起こそうとして、両膝を上げようとした。
「いててて!」
『まだ動いちゃ駄目です。傷が塞がっていません。』
「ああ、そうか。」
『1週間は入院して頂きます。』
「ところで看護婦さん、ここはどこなの?」
『第82居住区ゴアラ村です。』
1週間は、あっと言う間に過ぎ、退院の日が来た。
男の前には人間の医師が立っていた。
『もう大丈夫ですよ。』
「ありがとうございます。」
医師はニコニコしながら、
『あなたの口座に、政府からの入院保証金が入っています。』
「ああ、そうですか。それは助かります。」
『それでは、気をつけて。』
「あのう、最後に、わたしを助けてくれた地対空看護婦さんに、礼を言いいたいんですけど。」
医者は、黒目を上に向けながら、
『う??ん、ちょっと待ってください。』と、言うと、病室から出て行った。5分ほどして戻って来た。
『A127号ですね。残念ながら、昨日廃棄処分されました。』
「えっ、廃棄処分!」
『彼女を乗せたミサイルが、故障で墜落しまして・・』
「えっ、ほんとですか! で、彼女は今どこに?」
『廃棄処分と言いましても、書類上のことで、実際には墜落現場に放置されたままになっています。』
「・・先生、彼女は、どの辺に墜落したんでしょうか?」
『1階のロビーに端末がありますので、それで分かります。』
火星は、いつものように酸化鉄を含んだ赤い砂塵が、断続的に舞っていた。
太陽に乱反射して、まるで宝石のようにキラキラと空気を飾っていた。
「10時か、仕事に出掛けるか。」
半径1kmほどの村で1番に高い建物は教会だった。村の真ん中に、病院と教会はあった。
「そうだ、サチコさんの店で歩行機を買おう。」
思い出したように彼女のことを考えると、男は嬉しくなった。
「どうしてるかなあ、彼女。」
店には、彼女の姿はなかった。
その代わりに、無表情な顔の別のアンドロイドがいた。
「あのお、サチコさんは、今日はいないんですか?」
無表情な顔のアンドロイドは、抑揚のない声で答えた。
『彼女は、回収されました。』
「回収!?」
『欠陥品だったんです。』
「欠陥品!?」
傍らにいた見知らぬ地対空労働者が口を挟んだ。
『余計な事を喋る欠陥品なんだって!』
アンドロイドの女の店員は、わざとらしい笑顔で男に歩み寄って言った。
『ご安心ください。彼女はクリーンになって帰ってきます。』
「クリーン・・・」
『ええ、わたしのようにクリーンになって。』
男は、アンドロイドの目を睨みながら吐き出すように言った。
「そんなのには逢いたくないよ!」
男は、空中歩行機を買うと、さっさと店を出て行った。
男は怒っていた。
「欠陥品で悪かったな!」
空を睨みながら怒っていた。
「どうせ俺も欠陥品だよ!」
アンドロイドの腹立たしい言葉を思い出していた。
「クリーンだと!なにがクリーンだ!人間は機械じゃないんだ!」
男は、いつものように仕事の現場に向かった。
その日の仕事は簡単だった。
「今日は、これで終わり!ちょうど正午だ。」
男は、仕事を終えると、次の目的地を確認するために、腕のナビゲータを見た。
「ここからだと、全速で1時間くらいの距離だな。」
男は、空中歩行機のスイッチを入れると、目一杯アクセルを吹かした。
「いやあ、いい天気だ!」
新品の空中歩行機は快調だった。
男は、彼女が墜落した場所に向かって急いだ。
上空を、空対地資本家の飛行機が、からかうように旋回しながら飛んで行った。
彼女はバラバラになっていた。男は、彼女の胴体らしきものの前に歩み寄った。
「あ?あ・・可哀相に・・、なんてことだ。」
男は、彼女の頭部を探した。
「ひょっとしたら、まだ≪生きてる≫かもしれない。」
10メートルほど前方に、頭部らしきものがあった。
男は走り寄った。
黒焦げになってはいるが、まだ原型を留めていた。
男はひざまずき、彼女を拾い上げた。
「・・・大丈夫か。」
反応は無かった。
「やっぱり、駄目か・・・」
男は、おでこの辺りを拳骨で軽く、コンコンと叩いてみた。パチッっと音がして、彼女の瞳が開いた。
『・・・おはようございます。』
男は叫んだ。
「ひゃっほ????、生きてる!!」
彼女は答えた。
『わたしは、地対空看護婦A127号です。』
「だいじょうぶ!?」
『現在、緊急用補助電源で動いています。』
「ぼくのこと覚えてるよね。」
『ええ、覚えています。』
「君に、お礼が言いたくって、来たんだよ。」
『お礼ですか?』
「ああ、助けてくれて、ありがとう!」
『どういたしまして。』
「君に会えて嬉しいよ。」
『・・・・・』
「君を助けてあげる。」
『わたしは機械です。もう役目は終わりました。』
「そんなことは無いよ!僕と一緒に生きよう!」
『一緒に生きる・・・』
「そう、一緒に生きよう。」
『もうすぐ、緊急用補助電源が切れます。そしたら、わたしの記憶は完全に消去されます。』
「ええ、なんだって!」
『あと10分12秒で、電源が切れます。さようなら。』
「そんなことさせないよ!!」
『あなたの名前は?』
「リュウジだよ、リュウジ!」
『さようなら、リュウジさん。』
男は叫んだ。
「そんなことさせねえ!って言ってんだろ?!」
『さようなら、リュウジさん。』
「君の頭、確か6ボルトだったよね。」
『はい、そうです。6ボルト60ミリアンペアです。』
「今、繋いであげるよ。待ってて。」
男は、歩行機を背中から外すと、地面に下ろした。
収納ボックスを開けると、電力端子を取り出し、電力供給レベルを6ボルト60ミリアンペアに設定した。
「これで大丈夫、今繋いであげるよ。」
『赤と青が電力線です。』
「知ってるよ。修理のプロだよ。」
「これで善しと!」
男は、彼女の頭を持ち上げると、笑って言った。
「一緒に行こう!」
『どこに行くんですか?』
「そんなことは、おてんとう様に聞かないと分からないな。」
『なんですって?』
男は、彼女の頭を空中歩行機の収納ボックスに入れると、再び空中歩行機を背負った。
「出発進行!」
背中で、彼女が尋ねた。
『どこに行くんですか?』
《 完 》