「あの、”殺人免許”をいただきたいのですが」
翌日、いつもと同じ風景を見せるセンター内。
ジュンが来訪者の対応をする中、いつもの如くシオリが姿を見せる。
「おはよぉ~…」
大きな欠伸をしながらジュンが座る受付窓口に現れたシオリは目の下にクマを作り眠気眼を引きずっていた。
「本当に徹夜したのか?」
「せやぁ。しゃーないやん」
「お疲れ様。で、今日は?」
「数学教えてぇな。もうチンプンカンプンやねん」
「その前に少し仮眠を取って脳の回転を戻すのが先決だよ。自習室で少しだけ寝て来たら?今日は午後非番だから業務終わったらそっちに行くよ」
「ほんま?んじゃ待ってるわ。よろしゅーな」
「はいはい。それじゃ次の人ー」
ジュンは次の整理券を持つ来訪者を呼び込んだ。
するとそこに現れたのは可憐な容姿のシスターだった。
「ほへー。今時はシスターさんも免許の奴隷なんかー」
「おい、止めろその言い方」
現れたシスターは物静かな様子で視線を俯かせ気味に立っている。
ジュンが着席を促すとシスターは椅子に腰を下ろし、次の瞬間シオリの眠気を覚ます程の発言を言い放った。
「あの、”殺人免許”をいただきたいのですが」
「え!?」
ジュンとシオリが口をそろえて驚嘆を漏らす。目が皿となった2人、突然の事にシオリはおどろおどろしく口を開く。
「さ、殺人免許ぉ?何やねんそれ?シスターさん、神様ジョークか何かなん?」
「…」
シオリの問いに対し口を閉ざしたままのシスター。
するとジュンは真剣な眼差しでシスターを見つめ用件を再確認する。
「”殺人免許”のご申請、で宜しいですか?」
「はい」
「…分かりました。あちらに見えます公用のパソコンで申請手続きが出来ます。やり方は他の免許と同じです。詳しい案内が出ますので画面の指示に従って必要事項をご入力下さい。横にマニュアルも置いてあります。ご自身で専用のIDとパスワードを作成いただくので、お忘れになられない様にされて下さい」
「分かりました」
「申請内容をセンター内で審議させていただき合否の結果をご登録いただきましたメールアドレスに通知致します。そちらに次回お越しいただく日程や必要事項が記載されておりますので、ご一読下さい」
「分かりました」
「以上ですが、何かご不明点はございますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言うとシスターはフロア奥にあるコンピューターへと向かって行った。
席に座り黙々と操作を始める。その様子を凝視していたジュンとシオリ。
シオリの眠気はすっかりと消え去り頭の中で溢れる質問をジュンに投げ掛け始める。
「ちょちょちょ、ちょっとジュンさん!何やねんアレ?”殺人免許”ってどういうことやねん?」
「全く、君は本当に何も知らないんだな。今まで部屋に引き篭もってたとしても世間知らず具合がひどいぞ」
「うるしゃいわ!てか正しい世の中を作るための免許制度が何で殺人免許なんか発行してんねん?」
「…話せば長くなる。取り合えずお昼になったら食堂においで。それまでは少し仮眠を取っておきなって」
シオリは今すぐにでも聞き出したい気持ちだったが、やはりこれまでの疲労が蓄積していたのか、すぐに眠気が再来してきた。
ひとまずジュンの指示に従いその場を後にするのだった。