守られなかった正しさ、シオリの真実
「鬱なってん」
「え!?」
シオリの異常とまで言える程の頑張りを不思議に思ったジュンが本人にその真相を問い掛けると、想定外の答えが返って来た。
「勤め先の上司からパワハラ受けて鬱なってん。そんで働けなくなったんや」
「…」
深刻な表情で語るシオリの語りに黙って耳を傾けるジュン。
「元々派遣社員やってん。そんで上司から正社員にしたるとか言われてありえへんノルマ課せられて。そいつ元々正社員なんかにする気無かってん。だから上手いこと言うてわざとこなせへん様なノルマだけ姉ちゃんに押し付けたんや。自分が楽したいからいうて」
「…」
「お人好しで責任感の強い性格に漬け込んで自分の仕事押し付けたんや。何か言うたら”自分の成長のためや”とか”会社の未来は君の肩にかかっとる”とかキレイ事ほざきくさって逃げ道塞いで。そいつ浮いた時間使うて何したと思う?愛人と海外旅行やで。ホンマありえへんわ」
シオリの握られた拳には語りに連れ段々と力が入っていった。
「不況やし滅多にないチャンスや思て足元見られたんや。自分で引き受けた手前弱音も吐かれへんし。ミスも重なってきていっつも自分を責めとった。寝られへん様になってからは一気に病んでったわ」
「…そうだったのか」
「私のせいでもあんねん。私がいつまでもチャラついとるから…」
シオリは呟く様にして懺悔を漏らす。そしてキッとジュンを見つめ半ば八つ当たりの様な事を口にし出す。
「ジュンさん言うたよな?この免許国家が正しい世の中作るて。ほな何で?何でお姉ちゃんの事は守ってくれへんかったんよ?」
「!」
「私の事なんかはええけど、何で真面目に一生懸命働いてたお姉ちゃんがこんな目に遭う事になったんよ?何であのクソ男だけが平然として過ごしてられるんよ?おかしんちゃうん?」
「…」
ジュンはシオリの事情を知り何も言えなかった。
そこにあった感情は悔しさなのか同情なのか、ジュン本人にも分からなかった。
「…ごめん。いらんこと言うてもうたわ」
「いや、いいんだ」
「今日はもう帰るわ。家で続きやる」
するとシオリはジュンが手に持つコーヒーを取り上げ残りを一気に飲み干した。
「ふぅ、今日も徹夜や。ほなな、サンドイッチありがと」
「…あまり無理するなよ。少しは休まないと」
「悠長なこと言うてられへんねん。もうすぐ貯金も無うなってしまう。マジでホームレスなってまうわ。お姉ちゃんの薬代とかもあんねん」
そう言い残しシオリはセンターを去って行った。
ジュンはその場に残り暫く手元を見つめ何かを考え込んでいる様子だった。
やがて小さな溜め息と共に立ち上がったジュンは自身も帰路へと着くのであった。