もうひとつの真実
教会を出たジュンは表情に怒りを広げ猛スピードで車を走らせた。
やがてセンターに到着すると一目散に歩いて行くジュン。
ジュンが辿り着いたのは自席でも受付窓口でもなく、上司にして受付総合責任者のジムラの元だった。
駆けつけるや否やジュンはジムラに対しひと言を投げ掛ける。
「ジムラさん!お話があります!」
「?」
ジュンは仕事中にも関わらずジムラを個室に呼び出した。
そして怒涛の剣幕でジムラに詰め掛ける。
「ジムラさん!一体どういうことなんですか?こんなの、絶対に間違ってます!」
「…急にどうしたんだい?」
ジュンはシスターの真相を知りセンターが下した判断に対して強い異議がある旨を言って聞かせた。
「ジュン君、あれ程余計な場所は見ないようにといったはずだけど?」
「それに対する処罰はなんなりと受ける覚悟です。しかし今はそんなこと言ってる場合じゃない!自分はこんなの絶対に反対です!シスターさん1人を切り捨てて守られる平和なんて、あってはならないはずだ!センターの理念に適ってない!」
「それは解釈の問題だね。何れにしても今回の決定は十戒の判断なんだ。従わざるを得ないんだよ。残念だけど」
「十戒の皆さんに会わせて下さい!僕が必ず説得してみせます!」
「そういう訳にはいかない。分かるだろ?」
「ジムラさんは、この決定に賛成なんですか?」
「私の意志は関係ないよ。十戒の判断は絶対。我々はセンターに所属する職員としてその決定に従う義務がある。それだけさ」
「本気で仰ってるんですか?こんな事を目の前にしても、それでもジムラさんは何も思わないんですか?」
「絶対唯一の揺ぎ無い存在こそが統治と成し得るんだ。私情を挟んでその頂が揺れれば下は一気に総崩れとなる。人の命が算数でないことは分かっているが、1人の女性と数億の命、比較するしかない時だってあるんだよ」
「…ッ!!」
ジュンは頑として意見を変えないジムラに憤りを感じていた。
音を立て椅子から立ち上がると、ジムラ背を向けて部屋のドアへと向かって行った。
去り際、捨て台詞を吐くジュン。
「…今日限りで辞職します。自分が求めた正義はここにも無かった」
こうしてジュンは部屋から姿を消した。
1人残ったジムラは何故か嬉しそうな表情を浮かべていた。
すると突然ジムラの携帯端末から着信音が聞こえてきた。受電するジムラ。
「もしもし。…そうか。分かった、すぐ向かうよ」
時間にして僅か20秒、ジムラは通話を終えると意味深なひと言を呟く。
「やれやれ。とんだタイミングだったねぇ」
そうしてジムラもまた部屋から姿を消すのだった。
その頃、教会に1人残ったシスターはどこかそわそわしている様子だった。
そして突如鳴り響いた着信音にひどくびくつき慌てて受電するシスター。
「はい!はい、はい、はい…。実行日はあくまで予定で強制される訳ではないみたいです」
端末の奥から聞こえてくるのは怪しげな男の声だった。
<そうか。よし、免許取る過程で内情を知ってる奴はどれ位いた?>
「お、恐らく講師の方と、申請を判断した十戒という上層部の方だけだと…」
<なるほど>
「あ、でも!先程受付の方がいらっしゃいました。その方も今回の申請内容を知っていたみたいです。その方は恐らく上層部の方ではないと思います」
<へー。おっけおっけ。まぁいいや。取り合えず大体のことは分かった。ご苦労さん>
「あの、お願いです!早く会わせて下さい!」
<何言ってんの?まだ終わってないでしょーが>
「え?」
<最後のお仕事。折角免許取ったんだから、バッチリ死んでもらわなきゃ~>
「えぇ!?そ、そんな!話が違います!免許を取るまでの過程を教えれば返してくれるって…」
<記憶にございませぇ~ん。てか死んだあとのセンターと警察の動きも知っておかないと話にならないでしょ~?>
「そんなっ、そんな!」
<んじゃ宜しく~。今から30分後にまだ生きてたら弟君が先にあの世に逝っちゃうからねぇ~。ばいびー>
そして相手の男は通話を切った。
「もしもし!??もしもし!??」
シスターは絶望した様な表情でその場に膝から崩れ落ちた。
端末を握る手から力が抜け顔面蒼白になりながら地面を見つめていた。
そのまま5分程が経過すると、突然教会の扉が激しく開く音が聞こえた。
「シスターさん!!!」
「!!?」
そこに現れたのはジュンだった。
シスターは飛び跳ねるが如く驚き後ろを振り返った。
「ジュ、ジュンさん…?」
「シスターさん!逃げましょう!僕と一緒に!やっぱり、こんなの間違ってる!」
「えぇ!?」
「シスターさんが死ぬ事なんてないんです!センターの正義は完璧じゃなかった。今すぐここから出ましょう!」
シスターはジュンの言葉に戸惑っていた。
ジュンが1歩1歩近付いて来るのを見て何とか体に力を取り戻し立ち上がると、突然シスターはポケットに忍ばせていた銃を取り出して自身の側頭部に突き付けた。
「来ないで!!!」
「シスターさん!!!」
ジュンは驚き立ち止まった。
シスターは酷く怯えた表情で体を強く震わせていた。
その振動は銃を持つ手にも伝わり銃口の先は焦点を定めていない状態だった。
「こ、来ないで…お願い」
「シスターさん!止めて下さい!お願いだ!落ち着いて!」
「こうするしか…こうするしかないんです…。ごめんなさい」
「シスターさん!!!」
「ジュンさん…お願いです、どうか、どうか弟を…」
「え?!シスターさん?何ですって?」
「神よ…お許しを…」
「そこまでです!」
「!!!?」
「!!!?」




