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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト2
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シスターの真相と殺害相手

 ジュンはシスターが従事する教会へと到着していた。

車を飛び下り教会のドアを開けると、ジュンは誰も居ない教会の中で大声を叫ぶ。


「シスターさん!誰か、何方かいらっしゃいませんかぁぁ?」


 しかしその声に反応する者はいなかった。


「くそ!どうしよう、どうすれば…」


 ジュンが慌てふためいていると奥のドアが開く音がした。


「!」


 開いたドアの奥から出て来たのはジュンが捜し求めていたシスター本人であった。


「シ、シスターさん!!よ、よかった、よかった…」

「ジュンさん!?どうしてここへ?」


 シスターの姿を確認し安堵から肩を落とすジュン。

そして呼吸を整えゆっくりとシスターの元へ向かう。


「シ、シスターさん、ご無沙汰してます。お、お元気でしたか?」

「え、えぇ。あの…何か御用でしょうか?」

「シスターさん、早まらないでください!!!」

「え?」

「すみません。本当に失礼かとは思ったんですが、見てしまいました。どうしても気になって…」

「…何をでしょう?」

「シスターさんの申請書です、殺人免許の」

「!」

「シスターさんが殺したい相手も…」


 シスターは怒っている様子はなかったものの、俯き、その表情は冴えなかった。


「ご自分なんでしょ?殺害相手」

「…」

「自殺する気なんですね?」

「…」


 シスターの俯きと沈黙は肯定を物語っていた。


「シスターさん!止めて下さい!そんな馬鹿なことしちゃいけない!」

「ジュンさん…」


 シスターは近くの椅子に座った。

ジュンもシスターの隣に腰を下ろす。

そしてシスターは徐に語り始めた。


「偶然だったんです。ある政治スキャンダルの真相と関係者を知ってしまいました。職業柄、懺悔部屋には色々な方がお越しになります。勿論具体的な内容は言えませんが」

「そ、それって、シスターさんが命を落とさないといけない様なことなんですか?」

「この事実が公になれば国が報復に動き大戦争が巻き起こる様な内容です。悪用を目論む方が知れば色を付けて散布されてしまい、もっと酷い参事に…。罪の無い大勢が犠牲になってしまいます。懺悔に来た方は口封じのために殺されました」

「え!?」

「恐らく政府関係者の方かと。私自身も既に1度命を狙われた事があります。教会に刺客の方が来ました。同じく口封じだと思います」

「そんな…」

「今は悪用を考える組織と口封じを目論む政府の方、2つの組織に追われています。逃げ続けて転々としてきましたが、とても怖いです」


 ジュンは神妙な面持ちで耳を傾けている。


「でも、いち修道女として多くの民を危険に晒す訳にはいきません。捕まって拷問されれば私は真実を言ってしまうかもしれません。そうなる前に、いっそ…」

「シ、シスターさん!駄目です!」

「お気遣いは嬉しいのですが、仕方の無いことだったんです。なので今回センターに殺人免許の申請を申し出ました。身勝手ですがせめて慈悲を乞いたいと思い安楽死の薬目的で」


 ジュンはシスターの運命に心を痛めていた。


「勿論葛藤はありました。私も死ぬ事はとても怖いです。でも、センターが認可を下ろした、つまり私はやはり死ぬべきなのだと。国のために」

「そんな!そんなこと言わないで下さい!何か、何か方法を考えましょう!一緒に!」

「ありがとうございます。でもこれが一番いい方法だと思うんです。考え抜いた結果です」

「で、でも…」

「こんなこと言いたくはありませんが、折角固めた決意なんです。楽に死ねるとはいえ、私だってとても怖いんです。だから揺らいでしまっては辛いんです。どうか、どうかお引取り下さい」

「…!」


 ジュンはシスターの横顔をじっと見ていた。

シスターは一向にジュンの目を見ようとはしない。

ジュンは自分の手元に目を移し悔しさに震えながら言葉を漏らす。


「ぼ、僕は…。この免許センターが正しい世の中を作るはずだと信じて一生懸命働いてきました。けど、国を守るためとはいえ、不祥事を隠蔽するためにシスターさんの犠牲に認可を出したなんて…」

「いえ、私が自ら選んだ道です。どうかご自分を責めないで下さい」


 ジュンはシスターが見せた覚悟に何も言えなくなっていた。

重苦しい空気が2人を包み込んでから約1分、ジュンは断腸の思いで静かに席を立った。

そしてシスターに背を向け教会を後にする。

それは目の前で助けられるはずの命を自分の無力により見捨てなければいけない、そんな気分に苛まれるジュンだった。

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