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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト章
5/54

奴隷な日々と意外な真面目

 この日、国家免許センターの青年職員であるジュンはいつも通り1階総合受付で来訪者の対応に勤しんでいた。


「住居情報の登録変更ですね。それではこの書類にご記入をお願い致します」

「どうも。しかしこう住所だメアドだが変更になる度にこうして申請ださにゃならんってのはしんどいもんですねぇ~…」

「申し訳ありません。治安国家実現のためなので。厳しい処置である事は承知しておりますが、どうかご容赦を。いずれはネット上で簡単に変更登録が出来る様に国を挙げて尽力しておりますので」


 そして申請者が書類をジュンに手渡し席を離れると、ジュンは次の来訪者を呼び込んだ。

するとジュンの目の前に現れたのはいつも通りだらしの無いTシャツを纏ったあの女だった。


「やほ!儲かりまっか~?」

「げっ!また君か…」


 ジュンの目の前に現れたのは大人免許の取得を目指すシオリという若い女だった。


「”げっ”って何やねん!マンガみたいなリアクションしくさってからに!」

「こ、今度は何の用ですか?」

「今テキストで勉強しててんけど、どうしても分からへんとこあんねん。ちょと教えてーな」


 するとシオリは手に持っていたテキストを机に広げ質問箇所を指差した。


「あ、あのねぇ。ここは受付なんです。そういう事を教える窓口じゃないんですよ!」

「ええやないかちょっと位。今日はちゃーんと整理券持って順番待ってたんやで!」

「講習受ければいいでしょうが」

「受けたけど分からへんかってんて。再講習受けよう思たら有料やねんもん。びっくりしたわ。ぼったくりやで」

「ちゃんと授業聞いてないのが悪いんでしょうが」

「聞いてたわ!ええから教えてぇな。あ!それとそろそろお昼やからまた食堂で奢ってな?」

「あ、あのなぁ…。いい加減にしろよ?」

「ええやんけ。どうせええ給料貰てんねやろ?ケチケチしなさんなやー」

「関係無いだろ!俺は君の召使じゃない!さっさとどっか行け!」


 するとシオリは目を細め意地の悪い表情でジュンを脅し始める。


「ほぉぉぉおおお?ええんかぁ??自習室で痴漢されたこと言いふらしたるでぇぇぇ???」

「なっ、何だって!?誰が痴漢だ!!」

「事実やんけ~!」

「だ、大体アレは君が…」


 するとシオリはジュンに背を向けフロアに向かって大声を上げ始めた。


「み~な~さ~ん!この人がぁ~…」

「あぁぁぁぁ!!!分かった分かった!!分かったからぁぁ!!!」


 シオリはニヤリとした表情で振り返り、ジュンは愕然しとしながら渋々シオリに対しテキストの内容を指南するのだった。


 食堂でシオリに昼食をご馳走し一難を終えたジュンは午後も再び受付業務に勤しんだ。

やがてセンターの受付時間が過ぎ来訪者の姿が見えなくなるとジュンはそこから残った仕事に着手し始める。

そこから数時間が経過し時刻は21時。

外の景色も暗闇に包まれた事を確認したジュンは静かに帰り支度を始める。

自席のパソコンをシャットダウンしカバンを取り上げたジュンは意外な光景を目にする。


(ん!?あれは…)


 ジュンが視線を向けた先には見覚えのあるだらしのないTシャツ姿、大人免許を目指すシオリがセンターを後にする光景がそこにはあった。


(閉館時間ギリギリ。随分遅いな)


 他に殆ど人が残っていないセンター内で静かにシオリの足音が響き渡る。

ジュンは特に気に留める様子も無く職員専用出入り口からセンターを後にするのだった。


 翌日。9時の開館と同時に多くの人がセンター内に雪崩れ込んでくる。

ジュンはいつもの席に座り来訪者を迎え入れ始めた。

滞り無く業務をこなしているジュンだったが、不意にとある人物が視界に入ってきた。


(げっ!?ま、またアイツか…)


 ジュンが視線を向けた先にはシオリが立っていた。

遠くからジュンに視線を送りなにやらジェスチャーをするシオリ。


(…)


 どうやらお昼になったらまた食堂で昼食を奢って欲しい旨を伝えている様子だった。

そう悟ったジュンだったがシオリの脅しを恐れるジュンは泣く泣くその要望に従うのだった。


 次の日もやはりシオリはセンターに姿を見せていた。

そしてジュンに対し窓口での補習や昼食を要求する。

次の日も、また次の日もそんなシオリの行動は続いた。

業務の妨げをしてくるシオリに対し当初ジュンは決していい感情を持ち合わせてはいなかったが、そんな日が続くに連れ次第に別の感情が生まれ始めていた。


(…何だかんだ、真面目に講習受けてるみたいだな。毎日閉館ギリギリまで自習室に篭ってるみたいだし。少し意外だったな)


 シオリの意外な一面を感じ取ったジュンはこの日の業務を終え静かに帰宅するのだった。

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