死刑じゃ足りない
今まさに国家認定の元、母親の仇である元義理の父に対し死という制裁を与えようとしたその時、相手の男から飛び出た意外な発言に動きを止めたJK。
「そーか。お前はあの後自殺って聞かされてたのかぁ。可哀想になぁ、大人に嘘付かれた訳だ?」
また一歩、JKに対し正体不明の”アレ”が近付いて来た。
「勿論俺が殺したんでもねぇさ」
「!?」
”アレ”が断片的な映像となりJKの脳裏に現れ始める。
「憶えてねぇのかよ?あの日あの女が熱出しやがった時、お前は俺の命令で母親に薬飲ませたよなぁ?」
心の中で蓋をしていた何かが開いた、そんな感覚だった。
「俺に殴られたくないお前は素直なもんだったぜぇ~。”これを飲ませたらママは元気になるぞ”とか言ったらバカ正直に運んでいきやがって!」
「…」
「お前に罪を擦り付けるつもりだったが、ガキが毒なんか用意出来るわけねぇってことで失敗に終わったがよ。まぁ俺も結局は証拠不十分で立件されず終いってなぁ」
「…」
「サツ共は真相に気付いてたみたいだが、多分お前が妙な殺意を抱いて復讐なんかに走らない様に”自殺した”なんて嘘ついたって訳だ」
JKの脳裏を黒い思い出が支配した。
ハッキリと思い出した。あの日、男に命令されて母に薬を飲ませた途端、目の前で母が泡を吹き苦しみながら息絶えていった事を。
その光景を見た幼い頃のJKはその瞬間から本能的に自身の刻と記憶に蓋をしていたのだ。
しかし男から真相を無理矢理思い出させられたJKの中で何かの糸が切れた。
(私が…殺した…!?)
そしてJKは崩壊した。
「うああああああぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁぁ!!!!!!」
狂った様に叫びながら銃を取り出し男に向かって無数の銃弾を浴びせるJK。
男はJKが撃った初弾を右肩に受けその勢いで地面に倒れてしまった。
しかし倒れ込んだことが幸いしJKが撃った他の銃弾を受けずに済み一命を取り留めた男。
JKは男が倒れてしまった事にも気付かずただただ叫びながら弾の限り乱射を続ける。
やがて弾切れになるとJKはその銃を地面に落とし肩で息をしていた。
そして間も無く意識を失い、その場に倒れ込むJK。
肩を撃たれた男はその痛みに悶え苦しんでいた。
「っが!いてぇ、いでぇっ…ち、ちくしょぉぉぉ…」
やがて無数の銃声を聞きつけた刑務官達が刑務所の中から様子を見に出て来た。
倒れ込む2人に駆け寄って来る刑務官達。
するとその場にも1人の男が現れた。
「あー、大丈夫です。ここは僕が引き受けますので皆さんは業務に戻って下さい」
刑務官達にそう声を掛けるのは殺人講師のキラーだった。
「え!?だ、誰だアンタは?」
「免許センターの者です。センター監視下の元で起こった出来事なのでここは任せて下さい」
キラーが提示した正職員専用手帳を見た刑務官達はすぐに態度を改め敬礼をした後刑務所内へと戻って行った。
キラーは意識を失ったJKを抱き上げると近くに停めてある車へと運んだ。
次にJKの元義理の父である男に歩み寄り上から見下ろすキラー。
「やぁ」
それから少しの時が流れた。
JKが目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
起き上がり辺りを見渡すと周辺はカーテンで仕切られていた。
「え?ここどこ?」
「お!起きたかい?」
JKの声に反応する様にカーテンの向こう側から男の声が聞こえてきた。
カーテンがよけられると、そこにはキラーの姿があった。
「え?キラー先生…?え?私…、え?」
「どこまで覚えてる?」
「え?うぅっ…」
JKが何かを思い出そうとした瞬間、軽い頭痛が走った。
「私、確か、刑務所の前で…」
「見事敵討ちは成功。その後発狂しながら倒れたんだよ」
「え?先生見てたの?」
「ここは最寄りの病院。今検査の結果待ちだよ」
「…痛っつぅ」
必死に思い出そうとすることに比例して頭痛が痛みを増していく。
「私、どうなったの?」
「ショック状態だったと思うよ」
「え?」
「君は耐え難い経験をしたせいで受け止められない記憶にずっと蓋をして生かざるをえなかったんだろう、本能的にね。その蓋が何かのきっかけで一気に外れて記憶がフラッシュバックしてパニックになったみたい。最終試験の時もそんな感じだったのかな?」
「…私、私…」
「少しずつ消化していかないといけない記憶だったんだろうけど、それが一気に心にのしかかってメンタルがオーバーロードしたってところかな」
「私、私のせいでママはっ…・!?」
「おっとそこまで!今の状態で記憶を穿り返すのは危険だよ」
「私、私、そんな、いやっ、自分で?ママをそんな、いやっ、いやぁっ!!!」
”ドンッ”
「うっ!!」
取り乱す寸前というところでキラーの手刀がJKの延髄部分に命中しJKはそのままベッドに倒れ込んだ。
「悪く思わないでね。このままだと精神が崩壊して取り返しのつかないことになってたから。今はゆっくり休むといいよ。それじゃ」
気を失ったJKに対しそう語りかけるとキラーは病室を出て行った。
安らかに眠った様子のJK、しかしその瞳からは人知れず溢れ出る一滴。
それは音も立てず頬を伝い白い枕に染み入るのだった。
病院を出たキラーはとある人気の無い港の倉庫へと向かっていた。
奥まった場所に設置されているコンテナのドアを開けると、そこには椅子に縛り付けられ目隠しをされた男が座っていた。
「やぁやぁ。お待たせしましたー」
キラーはその男の目隠しを剥ぎ取った。
その男は数時間前に肩を撃ち抜かれたJKの元義理の父親だった。
「てっ、てめぇ!一体何のつもりだ!あぁ?」
「JK君は今病院で眠ってるよ。命に別状は無い、といっても、君にとってはどうでもいいことだろうけど」
「今すぐこれ解け!こんな事してどうなるか分かってんのかコラァ!!」
「やれやれ乱暴だなぁ。十戒の皆さんに”品格免許”の施行をお願いすべきかなぁ」
するとキラーはポケットから葉巻の先端を切り落とすためにシガーカッターとライターを取り出した。
「JK君の母親と内縁の夫になった君は働かず酒にギャンブル果ては暴力三昧。5歳だったJK君は性的暴行も受けながら顔も体もあざだらけになるまで殴ってたみたいだね。無免許をいいことに随分とやりたい放題だね」
「あぁ?」
「やがて保険金目的でJK君の母親を殺そうと思い立った君は自分の手を汚さないためにJK君を使って母親に毒を飲ませて殺害。けど指紋つけさせたくらいで5歳の子供を母親殺害犯に仕立て上げ様ってのはいくらなんでもお粗末な計画だよ」
静かに語りながら男に近付くキラー。
そして徐にシガーカッターに男の指を挟んだ。
「おっ、オイ!嘘だろ?ふざけんな!止めろ!テメェぶっ殺すぞ!!?」
「君みたいな輩は、やっぱりいなくならないもんだよねぇ」
そしてキラーは手先に力を込め、男の親指を切り落とした。
「ぎゃぁぁぁあぁぁ!!!」
叫び散らす男をよそにキラーはライターで傷口を焼き付ける。
気を失う寸前という程の激痛を全身で訴えながらもがき苦しむ男。
「あぁあぁぁあああ!!!やめろぉ!!!やめてくれぇぇ!!!頼むぅぅぅ、助けてくれぇぇぇ!!!」
「君は死刑じゃ足りないよ」
それから長時間に渡りキラーから拷問を受け続けた男は喉が潰れる程叫び続けたが、その断末魔がコンテナの外に漏れる事は一切無かった。
人知れず暗闇の中で行われた粛清、やがて朝日が顔を見せる頃にはその叫び声は聞こえなくなっていたのだった。




