「お前の母親は自殺なんかじゃあねぇんだよ!」
そしてまた少しの時が流れた。
気持ちのいい光が降り注ぐ中、病院の入り口からグランの座る車椅子を押して出てくるジェントルの姿があった。
「退院、本当におめでとうございます!」
見送る看護師が嬉しそうに2人に声を掛ける。
この時の2人の笑顔が希望と幸せの溢れる未来を想像しているものであることは誰の目に見ても明らかだった。
そして病院の駐車場に止めてある赤い車の中からその様子を微笑ましく見つめる委員長の姿。
委員長は2人がとても幸せそうに病院内を散歩する姿を数分眺め終わると、ゆっくりと車のエンジンをかけ病院を後にするのだった。
委員長の車が去った後も車の中から2人の様子を見守る2人の男の姿があった。
それは殺人免許講師のキラー、そして総合受付責任者にして同期創設メンバーのジムラだった。
「いやぁ、よかったよかった。めでたしめでたしといった感じだねぇ」
「そうだね」
「こういう光景を見る度にこの仕事にやり甲斐を感じるよ」
「これこそが僕等センターの本来の目的だもんね」
「しかし君も粋な計らいするもんだねぇ」
「死刑囚の事かい?」
「わざと事情のある死刑囚を用意したんだろ?委員長さんの手を汚さず免許を発行してあげたいからって」
「正直彼女が本当に相手を射殺してくれるかは怪しかったからね。でも彼女の事情と動機からして世の中のためにも免許は取ってほしかったし。都合のいい死刑囚がいてくれたのはラッキーだったね」
「またひとつ、正義が守られたわけだ」
「後はシスターさんだけだね。あぁ一応JK君も見ておこうかな」
「あぁ。それじゃそろそろ行こうか」
こうして車のエンジンを掛けたジムラはキラーと共に病院の駐車場から走り去って行くのだった。
この日、とある刑務所から1人の男が出て来た。
「それじゃあ、お世話になりました」
「あぁ、二度と来るなよ」
「ははは、本当にそのセリフ言うんっすね」
「まぁな。醍醐味ってやつだ」
”元”囚人となった1人男を刑務官の男が見送っている。
男が数回軽い会釈をした後、刑務官の男は刑務所内に戻って行った。
男はそれを確認すると大きく背伸びをし勢いよく腕と肩を落とした。
「ふ~~~。しんどかったぜぇ~」
お世辞にも人相のいいとは言えないその男は空を見上げてしみじみと呟いた。
「さぁ~て、今度は上手い事やらねぇとなぁ~」
男の表情がより悪質化した。明らかに何か良くないことを企んでいると、そこに1人の女が現れる。
「やっほー。おじさーん!」
男の表情が一瞬にして縦に伸びた。
声がする方向を見ると、そこにはJKの姿があった。
「あぁ?誰だお前?」
「あー、やっぱ覚えてないー?まぁ無理もないよねー、10年以上前だし」
「…?」
「なんと私は、おじさんにママを殺された可哀相な少女なのでぇーす!」
出所してきた男は少しの間呆けた表情だったが、やがて思い出した様子を見せた。
「…キョ、キョウコ!?お前、キョウコか?」
「いぇーす!思い出したー?元義理パパー」
「…は、はは、ははははは。そうか、キョウコ、キョウコか!こいつぁまたいい女になったじゃねぇか。何でこんな所に?」
「ふっふふ~ん」
”キョウコ”という本名を呼ばれたJKはにやけながらポケットから殺人免許証を取り出し相手の男に見せ付ける。
「これが目に入らぬか!今日は悪いおじさんを退治する正義の女子高生として登場なのでーす!」
「はぁ?何だそりゃ?」
「ふっふっふー。殺人免許だよー。免許センターにお願いしておじさんを殺す免許発行してもらっちゃったぁ~」
「な、なんだとぉ!!?い、一体どういうことだぁ?」
「ママはおじさんに酷い事されて自殺しちゃったじゃん?そんでセンターが私が可哀想だからーってことみたいだよー」
「なっ…」
「私もしょちゅうぶたれてたし、ママはいっつも怪我してたもんねー。そりゃーイヤになって自殺もしちゃうってもんですよぉ~」
「…!」
男はJKの腰に拳銃があることに気付いた。
国が自分を殺すことを許可したという事態を飲み込んだ男は一気に顔から汗を吹き出し足元はぶるぶると震え出していた。
「く、くそぉ!ちきしょう!国がこんなガキに人殺しを許可しただと?そんなことあってたまるか!だ、大体、あの件は結局俺の関与は証明されなかったはずなのにぃ!!」
「ん?カンヨ?」
男の見苦しい混乱ぶりをJKは静かに見守っていた。
「な、なぁ頼むよ。話し合おう!なんでもする。見逃してくれ、な?お前だってガキの頃だし何も覚えてないだろ?いくら親の仇だって、人を殺したら寝覚め悪いぜぇ?」
「もう殺したことあるよー。免許の卒検で悪い人殺したもーん。けど別に毎日よく寝てるしー」
「なっ、くっ、く、くそっ!くそっ!くそっ!」
「さぁー、そろそろ覚悟はいいかー?言い残すことはないかねぇ~?」
JKは銃に手を掛ける。
男はぐうの音もでないといった様子で脱力し下を向いた。
すると突然不気味に笑い始める。
「ふっ、くくくく、かっかかかかかかぁ。そーか、本当に俺を殺そうってんだな?え?ならい~い事教えてやるよ。お前の母親は自殺なんかじゃあねぇんだよ!」
「え?」
JKの表情が固まった。
その瞬間、正体不明のアレが自分の心に一歩近付いて来るのがはっきりとわかった。




