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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト2
36/54

最初の合格者

 部屋のドアに背を向け歩き出したジェントルはキラーの数歩手前で立ち止まり、その顔を上げないまま小さな声で呟く様に告げた。

恋人のグランと共に星の数ほど考え、話し合い、葛藤し、涙を流して、決死の覚悟で免許の申請を出していたジェントル。

もしかしたら今後病気を治す特効薬や技術が開発されるかもしれないという迷いも拭いきれていなかったが、その不確かな奇跡を期待して待つことは許されなかった。

その奇跡を祈り続けるには恋人の苦しみはあまりに大き過ぎた。

そしてやっとの思いでここまで来たジェントルことスエン。

振り出しに戻されてしまった絶望と、恋人をこの手で殺さなくてよくなった安心感、複雑な気持ちに支配されたジェントルはその場に立ち尽くしながら震えていた。


「はい、残念ながら不合格です。お疲れ様でした。他の方々が終わるまでしばらくお待ち下さい」


 キラーはただ無感情で冷たく言い放った。

しかし不合格という言葉が口に出るまでの数秒間はジェントルの醸し出す何かを感じ取ったキラーがほんの少し躊躇した時間だった。


「ジェ、ジェントルさん、大丈夫ですか?」

「…」


 ジェントルはジュンの問いに答える余裕は無く、ポケットの中に入っている拳が強く震わせていた。

ジュンは見守る事しか出来なかったが、次第に他の3人の結末へと興味が移る。


(他の3人は、どうなったんだろう?シスターさん…)


 ジュンは再びそれぞれが入って行ったドアに目を向けた。

10数分前、キラーから試験開始の合図が発せられてすぐ部屋に入ったJKは死刑囚の男と対面していた。


「やほー。おじさん覚悟ぉ~!」

「はぁ?じょ、女子高生だぁ?なんなんだぁ?こりゃ一体どうなってんだぁ?」


 部屋の中に居たのはキラーの宣告通り、両手を施錠された一人の中年男性だった。


「いぇいいぇいいぇいー!おじさんが悪者だなぁ~?」


 死刑囚の男は状況が掴めないといった表情で唖然としていた。


「おいこら小娘!こいつぁ一体なんのマネだ?」

「あれー?おじさん聞いてないのー?私今から人殺しの免許取るためにおじさん殺さないといけないんだよー!」

「な、なんだとぉ!!?」


 一歩後ずさりしながら大きく驚く死刑囚の男。


「ふ、ふざけんじゃねぇ!冗談じゃねぇよ!お、おい、お嬢ちゃん?じょ、冗談だろ?」

「おおマジでーす!こんな可憐なJKに殺されるんだからありがたく思えぇぇい!」


 今から人を殺すとは思えない程の明るいテンションに現状を飲み込めないでいる死刑囚の男。


「は、はは。さっぱり分からねぇ。一体何が目的だ?」

「だーかーらー!今から人殺しの最後の試験なのー」

「ほ、本気で言ってんのか?お嬢ちゃん、人を殺せんのかよ?」

「はーつたいけーん!ワックワクー」


 “ポカン”。

決して口に出したわけではないが死刑囚の表情からはそんな音が聞こえてくる様だった。

するとJKは部屋の入口側の壁に取り付けられている沢山の武器に気付く。


「おー、これ使っていいのかー!うーん、どうしようかな~」


 武器を物色するJKの後姿を部屋の反対側見つめる死刑囚の男。


(う、嘘だろ?ほ、本当なのか?本当に…?)

「うーん、あんなに練習したからやっぱ銃かなー」

(…どうやらマジみてぇだ。ちっくしょぉぉ!このまま殺されてたまるかよぉ!!)


 男は自身の運命に抗おうと必死に考え始めた。

自然と全身に力が入り瞬きも忘れJKを凝視している。


(…そうだ、いくら手錠されてるとはいえ所詮相手は小娘!)


 武器を選ぶ隙だらけのJKを見て死刑囚の男は一瞬にて企みを立て、次の瞬間それを実行に移した。


「うぉぉぉぉあああぁぁぁあ!!」


 JKに向かって一気に突進していく死刑囚の男、JKが武器を手にする前に体当たりで打ち負かそうという魂胆だった。

男の声が自分に近付いて来ることに気付いたJKはとっさに振り返った。

そして猛スピードで突進してくる男が僅か数メートルまで迫っている事に気付く。

相手を押し倒せると確信した死刑囚だったが、次の瞬間JKは素早い身のこなしで死刑囚の突進を交わした。


「くっ、くそ!」

「へっへへー!こう見えても元陸上部でーす!」


 腰に手を当てて胸を張るJK。


「うぅっ、ぐ、くそっ…」

「さーてさてぇ!それではいきますよぉ~」


 JKは近くに壁掛けてある銃を手に取った。

すると死刑囚の男は酷く怯え始める。


「ひぃっひぃぃぃ!ま、待ってくれ!か、勘弁してくれっ!!頼む、な、何でもするからっっ!」

「えー?だっておじさんどうせ死刑になるんでしょー?じゃあ一緒じゃん?」

「た、頼む!お願いだぁ!ま、まだ死にたくねぇんだよぉぉぉ!」

「てかおじさん、何したの?」

「…さ、殺人だ。強盗殺人」

「おじさんだって人殺してんじゃーん」

「し、仕方なかったんだよ!!金が無くて、俺だって可哀相なんだよっ!」

「ふーん。でも関係ない人殺したらダメくない?」

「関係無くなんかねーよ!俺の親は俺のこと何にも分かってくれないクソみてーな親だったんだ!あんな奴ら、死んで当然だったんだよ!」

「親!?親を殺したの…?」

「だから仕方無かったって言ってんだろーが!俺だって本当はやりたくなかったんだよぉ!金借りるだけのつもりだったのに、あいつら何もかも俺が悪いみたいに言いやがってよぉ…」


“バキューン”

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