戸惑いの試験開始、そして脱落者
講師キラー先導の元、存在が知られていない地下2階へと連れて来られた一行は突如告げられた最終試験の内容に驚愕を見せた。
「な、なんだって?」
「今伝えた通りです。部屋の中にいる死刑囚は両手を施錠されてるので比較的殺しやすいかと思いますが、くれぐれも返り討ちに遭わない様にご注意下さい」
驚愕におののき言葉を失う一同。
すぐに委員長が異論を呈す。
「じょ、冗談じゃないわ!自分と関係のない人を殺すなんて!正気で言ってるの?」
「各々ご意見はあるかと思いますが、これが最終試験です。実際に人を殺すメンタルを持ってない人に殺人免許の交付をすることは出来ません。殺人の技術なんてものは比較的簡単に会得出来ますが、一番肝心なのはいざという時にきちんと相手を殺す”覚悟”と”決意”そして”心の準備”です。そのメンタルをお持ちの方のみが有資格者ということです」
「ふざけないで!私はそんな野蛮な理由で免許を申請した訳じゃないわ!私の申請理由は知ってるんでしょ?」
「センターとして一切の特別扱いはしません。これは規則です。いかなる免許にも共通して言えることですが能力や覚悟が無い人間に免許を発行する事は一切致しません。またこの殺人免許においてはいざというときに躊躇してしまいその受講生が返り討ちに合って死亡したりすることを極力避ける為でもあります」
「だ、だからって…」
委員長の必死の抗議もキラーは一切聞く耳持たないといった様子で淡々を説明を続ける。
「部屋の中には古今東西色々な武器や毒薬を用意してあります。今回皆さんが会得したのは銃殺術のみなので銃を使った射殺が望ましいですが方法は問いません。あくまで人を殺す覚悟を見る試験内容なので」
「ほ、本当にやるしかないのか?」
ジェントルが問う。
「はいそうです。制限時間は1時間です。足は施錠してないので逃げ回るかもしれません。ご注意下さい」
委員長とジェントル、そしてシスターは強く戸惑っている様子だったが、その横で威勢のいい声を上げたのはJKだった。
「いぇーい!やっちゃうぞー!」
一連のやり取りを聞いていたジュンも目を皿のようにしていた。
(こ、こんな…。確かに理にかなってはいるけど、こんな非人道的なことが行われるなんて…)
「何かご質問がある人はいますか?…はい、特にないようですね。それじゃあJK君は1番、ジェントルさんは2番、委員長さんは3番、シスターさんは4番。それぞれの部屋の前に立って下さい」
すぐに移動するJK。
足取り重く迷いながらもドアの前まで辿り着くジェントル、委員長、そしてシスター。
キラーが腕時計で時間を確認する。
「それではいきますよー。よーいスタート!」
キラーが合図を告げた瞬間、勢いよく部屋に入るJK。
他の3人は中々ドアに手を掛けない。
お互いの顔を見合わせながら迷いが拭えない様子。
そしてシスターは何も言わないまま決意の表情を浮かべゆっくりとドアを開け中に入って行った。
ドアの前に残った委員長とジェントル。
再びお互いの表情を見合わせる。
「…どうするの?」
「君は?」
「…」
「いくら相手が死刑囚とはいえ、自分と関係ない人間を殺せるほどの理由が君の殺人免許にはあるのか?」
その言葉を聞いた委員長は断腸の思いといった様な表情を見せた。
強く奥歯を噛み締めゆっくりと目を開け決心を搾り出したかのような口調で言い放つ。
「…あるわよ!勿論!生半可な覚悟で来たんじゃないわ!!」
「え?」
「ジェントル、本名を教えて」
「え?」
委員長がジェントルを見る眼差しは強く、そして真っ直ぐだった。
「…スエンだ」
「スエン、あなたは無理しないで。辞退して」
「え?な、何故?」
「私を信じて、と言っても無理ね。とにかく、貴方の決意は立派だと思うけど、これ以上背負うことはないわ!」
「な、何なんだ一体?よく分からないが、これ以上あいつを苦しめるわけにはいかないんだ。何が何でも免許を取らないと!」
再度、委員長がぐっとジェントルを見つめる。
「もう一度だけ言うわ、私を信じて!」
「!」
そう言い残すと委員長はドアを開け部屋の中へと消えて行った。
残されたジェントルは茫然とするしかなかった。
少しずつ制限時間が寿命を減らしていく中、ジェントルは動くことが出来なかった。
「…っくそ!!」
ジェントル自身も踏ん切りをつければ部屋の中に入ることは出来たが、委員長からの想定外の言葉と眼差しに、その気持ちを完全に折られてしまっていた。
ほんの数センチジェントルの右手はドアへ伸びたが、脳裏に焼き付いている委員長の言葉がその手を止めさせた。
やがてジェントルはその両手をポケットにしまい、ドアに背を向けやりきれない顔を俯かせたままキラーの方向へ歩いて行くと、やりきれなさを噛み締め呟いた。
「…辞退する」




