殺人免許最終試験
暴漢が引く気配を見せず平行線が続くと思われたその時、ある出来事を境に状況が一変した。
その場に居る人々は何が起こったのか分からなかったが、突然耳をつんざく発砲音が聞こえると、暴漢の男は急に叫び声を上げながら斧を地面に落としてしまった。
周囲が状況の把握をし終える前には次の展開が起こった。
「おおおお!!!」
「っがはぁ!!!」
突然どこからともなく現れたジュンが怯んだ男に突進し体当たりを食らわせた。
銃弾を右手に浴び痛みと出血に動揺していた男は一切抵抗出来ること無く地面に倒れ込む。
そして一瞬にして男の腕を背中に回し間接を極める様にして動きを封じた。
「いだだだだだだだぁぁ!!あぁぁぁあぁ!!!」
「誰か!早く警察に!!」
「おっ、おう!」
一部始終を見ていたチーナが携帯端末を取り出しすぐに電話を掛け始めた。
「シスターさんっ!!大丈夫ですか?お怪我は?」
「っは、は、はい!だ、大丈夫です」
「よ、よかった…」
やがて警察が到着し事態は瞬く間に収拾されていった。
簡単な事情聴取を受け終わったジュンにジムラとチーナ、そしてシスターが歩み寄って来た。
「いやぁジュン君、お手柄だったねぇ」
「すげぇな!カッコ良かったぜ!流石だなぁ!」
「いえ、そんな。ついテンパッちゃって。危ない事しちゃいました。本当なら説得と交渉から入るのがセオリーなんですけど」
(セオリー…?)
「ジュンさん、本当にありがとうございました。本当に、本当に感謝してます」
「い、いえ、そんな。お怪我無くて本当に良かったです」
「いやー。しかしびっくりしたね~」
「は、はい。全くです。身勝手な奴もいるもんですね」
「本当だねぇ。あんな連中は全員死刑にしてしまえばいいのにねぇ」
「え!?え、えぇ…」
ジュンはジムラの発言、そして先ほどの騒動での対応にジムラの中に潜む狂気を垣間見えたような気がした。
普段声を荒げる事すらない温厚な上司という印象だけにそのギャップは鮮明に脳裏に焼き付いていた。
すると4人と少し距離を置きながら様子を観察していた他の職員達が小声で噂話を始める。
「なぁ、ジュンって何で銃持ってたんだ?」
「そうよね。それにすごい腕前じゃない?あのシスターさんの隙間を縫って命中させてたし」
「なんか格闘技でもやってたのかな?あの動きすげープロっぽかったぜ」
ジュンはそんな周囲の噂話に気付くこと無く3人と談笑を続けていたが、やがて空気が一変する。
「それでは、私はそろそろ試験会場へ向かいます」
「あ…」
ジュンは先程感じ言葉に詰まっている最中、シスターはその場を後にした。
少し遅れてジュンもお暇を告げる。
「そ、それじゃ、僕も行って来ます」
「あぁ、いってらっしゃい」
ジュンもシスターの後を追いその場を後にする。
残ったジムラとチーナは2人の後ろ姿を眺めていた。
「そうか。ジュンの奴も殺人免許の講習受けてるんですね」
「あぁ」
「期待されてんだなぁアイツ。俺も頑張らないと」
「ははは。そうだね、負けてられないね」
こうしてジムラとチーナも騒動冷めやらぬセンターの中において自身の仕事に戻って行くのだった。




