恋の取り引き
その頃受付に戻ったジュンは来訪者の対応をしていた。
「はい、それでは書類お預かり致しますね。この書類に記入し終えたらこちらのボックスに入れておいて下さい」
更新手続きに来た男を対応し終わり、書類チェックのため自席に戻ろうとした際、突然目の前に1人の女性が現れた。
「やほー!お兄さん~」
そこに現れたのは義理の父親に実の母を自殺に追い込まれたJKだった。
いつもなら同じ調子で現れるのはシオリであるジュンにとっては意外な訪問者だった。
「ん?どうしたの?」
「ちょいちょい。こっち来てよ。相談があんのー」
「え?いや、俺今仕事中なんだよ!後にしてくれよ」
「ほほー!そうかそうか。ここでお兄さんが童貞であることを大声で叫んでもいいってわけだなぁ~?」
断りを入れるジュンに対しJKは意地の悪い表情で脅す。ジュンは全身でリアクションを取った。
「ちょちょちょ、おい!冗談だろ?ふざけるなよ!」
「ほれほれー。それが嫌ならちょっと顔を貸してもらぉうかぁ~。ニッヒッヒ~」
冷や汗を流しながらたじろぐジュン。
選択肢を奪われたジュンは仕方なくJKの言う事に従い受付を後にした。
人気の無い所に辿り着いた2人、ジュンはJKに叱咤を飛ばす。
「あのなぁ!大人をからかうのもいい加減にしろよ!」
「めんごー。だって時間ないんだもぉーん」
「え?何が?」
「試験来週なんだってー」
「ええぇぇ!?ら、来週!?」
先程自分が感じ取った内容とは真逆の宣告に驚くジュン。
「ってことはもう皆色々、その…技術的な準備は万端ってことなのか?」
「うん!もうばっちりぃ~。人の急所とかも色々習ったし、銃が無くても今この場でお兄さんだって殺せちゃうぞぉ~。ぐへへへへ~」
JKが今にも首を絞め殺すぞと言わんばかりの姿勢を見せると、ジュンは自分の首を両手で庇い後ずさりした。
「や、やめろ!悪い冗談はよせって!っていうかそれより、話って何だよ!」
JKは思い出したといった様子で用件を話し出した。
「っは!そうそう。実はさぁ、やっぱりお兄さんに協力して欲しくてさぁ~。キラー先生のこと~」
「キラーさん?協力って何を?」
「結局色々アプローチしたけど駄目だったんだよねー。何も教えてくれないっていうかー。私キラー先生に告ろうと思うんだけど、どんな人が好みとかも結局分からなくってさぁ~」
「は、はぁ。それで?俺にキラーさんの情報を横流ししろっての?」
「まぁまぁ最後まで聞きなさいって~。今回は頼み事ってんじゃなくて取り引きって事で話を持ってきたワケですよぉ~。お兄さんにやる気出してもらうためにぃ~」
「取り引き?何だよ突然」
「お兄さんシスターさんのこと好きなんでしょ?」
再び全身でリアクションを取るジュン。
「ななな、何言ってんだ!」
「もぉ~、めんどくさいなぁ~。とっくにバレてるって。まぁとにかく、お兄さんがキラー先生のこと調べてくれる代わりに私はシスターさんにお兄さんのことアピっといてあげるよ~」
「はぁ?」
「だってビビッてろくに話とかも出来てないじゃん?会話のきっかけ作ったりしてもあげるからさぁ~」
「…」
突拍子も無い持ち掛けに見えたが、ジュンはまんざらでもない様子で考え始めた。
(う~~ん…。悪くない話だなぁ。確かに試験が来週に差し迫ってるっていうし、今のままじゃ試験終了後は会える機会も無くなる。連絡先も聞けてないし…)
腕を組み眉間にシワが寄せながらちらちらとJKの様子を伺うジュン。
(だ、だけど、この子を信用していいのか?また俺をからかうだけじゃないか?っていうか、俺程度がキラーさんの好みとか個人情報を簡単に知れるとは思えないし…)
深く迷っている様子のジュンに痺れを切らしたJKは徐に口を開く。
「仕方無い!まずはこっちから提供しよう~」
「ん?」
するとJKはジュンに顔を近付け小さな声で耳打ちをした。
「黒の上下おそろだったよ」
「え?」
「シスターさんのブラとパンティ。さっき更衣室で見ちゃった」
JKのひと言でジュンの脳裏に映し出されたのはシスターのあられもない姿だった。
「ぶっっふぁああっはぁぁぁぁあッッッ!!」
脳の電気信号が架空の楽園を映し出した瞬間、ジュンの目は皿の様に丸くなり鼻血の噴水と共にのけぞり地面に倒れ込んだ。
「…中学生かよ」
仰向けに倒れ込みゴキブリの様に手足をヒクヒクさせるジュンを見たJKが呆れ顔で呟く。
数秒後にスクッと立ち上がり、キリっとした表情でJKと固い握手を交わすジュン。
「交渉成立だな!」
そう告げるジュンの鼻血はまだ止まっていなかった。
「…な~んか頼りないけど、取り合えずよろ~」
持っていたハンカチで鼻血を拭うジュン。
「ま、取り合えずは来週の試験に集中しないとだね。頑張って」
「もち!試験に一発合格したらキラー先生私のこと好きになってくれるかなー?」
「そ、そいうえば、君は免許交付されたらすぐに敵討ちしに行くのか?」
「ん?んー、そうだねー。早く人殺してみたいしー」
「え?」
JKの狂気に初めて触れるジュンは、やはり他の受講生と同様驚きを見せた。
「ま、まぁ何はともあれ頑張ってね。受かるといいね。無事合格出来る事を願ってるよ」
「センキューでーす。お兄さんも早く童貞卒業しろよー」
「う、うるさい!もうやめろそれ!」
「きゃははー。お互い頑張って卒業しようね~!バイビー!」
最後にジュンに向かい手を振りからかいながらその場を去るJK。
「ったく…」
ジュンが受付業務に戻っている頃、帰路につくシスターは人目を気にしながら電話を掛け始めた。
「はい、来週です。大丈夫です。バレては…あの、お願いですから…もしもし?もしもし?」
一方的に相手に切られた様子のシスター。
震える手で端末を握り締めそれをポケットにしまうシスター。
周囲には人影が無いと思われたが、やはり電話をするシスターの様子を遠くから観察する影があることをシスター本人は気付かずにいるのだった。




