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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト章
3/54

女の武器

 翌日、センターは連日同様の賑わいを見せていた。

青年職員であるジュンもまた昨日同様1階総合受付にて来訪者対応に精を出していた。


「喫煙本数上限オーバーですね。1点のマイナスです。違反者講習は14時から2階のC教室で行われますので遅れない様に」

「はい」


 次々と現れる申請者達。ジュンは慣れた手つきで次々と対応していく。


「次の方どうぞ。はい、えーと…貴方はネット上での不道徳な書き込みですね。3点のマイナスです。違反者講習は14時から2階のC教室で行いますので10分前には待合室でお待ち下さい」

「は、はい」


 新規免許申請、免許更新が主な目的である来訪者達を次々に捌いていくジュン。次第に時間は過ぎお昼休憩の時間が訪れた。


「おっと。もうこんな時間か」


 ジュンは机に”離席中”という立て札を掛け昼休憩へと赴いた。

1階に併設されている食堂へ向かう途中、ジュンは聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あ!お兄さん!お兄さん!」

「!?」


 ジュンが声のする方向を振り向くとそこには昨日受付に訪れただらしない格好の若い女がジュンに向かって駆け寄って来ていた。


「げ!き、昨日の…」

「ちょうどええ所に!ちょっと来てぇや!」

「えぇ!?ちょ、おい!」


 女はジュンの腕を掴むと強引に2階へと連れ去って行った。

女がジュンを連れ込んだのは2階にある自習室だった。

そこは各席がパーティションで区切られており必要書類に記入する人や試験合格に向け勉強する人達が集まる場所であり、女は自分の席にジュンを連れ込むと必要書類に関しての質問を投げ掛け始めた。


「なぁなぁ、ホンマこの書類チンプンカンプンやねん!何書けばええか教えてーな!」

「一緒に渡した見本書類があったでしょ?それ見ながら書いて下さいよ」

「見ても分からへんから言うてんねやんか!教えるのもお兄さんの仕事なんやろ?」

「俺は今お昼休みなんです。分からないなら休憩終わってからまた整理券取って並んで下さい」

「あ!ちょーど私もお腹空いててん。サンドイッチとコーヒー買うてきてや!」

「アホか!自分で行け!てか自習室は飲食禁止です!」

「何やねん!いちいち頭固いなぁ。ちょっと教えてくれるくらい構へんやないのー。偉そうにこんなバッジ付けくさってからにぃ~!」

「あ、こら!!」


 女はジュンが胸元に携えているセンター職員の証である睡蓮型のバッジを取り上げた。

すぐさま取り返そうとするジュン。


「コラ!返しなさい!」

「これネットのオークションに出品したら幾らで売れんねやろな~?」

「おい、ふざけるな!」

「へーん!取ってみぃやぁ~!」


 ジュンは必死でバッジを取り返そうと手を繰り出すが、女はそれを軽やかに避け続ける。

すると突然状況は想定外の展開となり空気が一変した。


「あっ!!!」

「!」


 頭に血が昇ったジュンはつい力が入ってしまい、その影響で大きく体勢を崩してしまった。

女の右手を掴もうとしたジュンの手はその方向を誤り女の左乳房をガッツりと掴み上げてしまったのだ。


「…」

「…」


 気まずい空気が数瞬2人の時を止めたが、やがて正気に戻った女が怒りを露にした。


「何すんねん!!!」

「おわっ!」


 女は顔を赤らめながらジュンの頬を強くはたいた。

ジュンもその痛みで正気を取り戻すと必死に弁明を始めた。


「ち、ち、ち、違う!違うぞ!!わざとじゃない!事故なんだ!事故、そうだ事故だ!!故意じゃない!断じて違う!!」

「…」


 女はすぐに怒りを収め不思議そうにジュンを見ていた。

普段無愛想でぶっきらぼうな態度のジュンからは想像も出来ない程の慌て振りを見て、とても意外だという気持ちだった。

すると突然悪知恵が働き始めた女は腹の中で悪魔をケタケタと笑わせながら悪巧みをし始めた。


(ニッヒヒヒヒヒ。よーし…)


 女は突然しおらしい態度を取りながら泣き真似をし細々とした声で喋り始めた。


「え~ん、あんまりやぁ~。ひどいわぁ~。乙女の胸掴むやなんてぇ~。訴えたるぅ~」


 それが演技だとは気付かず、まんまと乗せられ困惑を極めるジュン。


「なっ!?だっ、だっ、だから!わざとじゃないって言ってるだろ!!そ、それに、君があんな悪ふざけするからいけないんだろうが!」

「え~んえ~ん、私まだ処女やのにぃ~。誰にも触られたこと無いのにぃ~」

「なっ!う、嘘付け!そんな訳無いだろうが!」

「はぁ~~??何やねんそれ!誰がヤリマンやねん!侮辱やー!セクハラやー!絶対訴えたるからなぁ!」

「ちょっ、おい、冗談だろ??」


 すると女は机から書類を取り上げジュンの目の前に差し出し”しめた”といった表情で言い放った。


「書類の書き方、教えてくれるやんなぁ?」

「うぅっ…」

「あそれと、終わったら食堂でご飯奢ってくれるやんなぁ?」

「…がくっ」


 拒否権を奪われたジュンは大きく首を落とし否応無しに女に従わざるを得なかったのだった。

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