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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト2
22/54

近付く試験日、不安と葛藤と

 この日特に予定の無いジュンは自販機でコーヒーを2つ買い、その片方を上司であるジムラへと届け現れた。


「ジムラさん、お疲れ様です。あの、これよかったら」

「おや?ジュン君。今日は非番じゃなかったのかい?」

「えぇ、そうなんですが暇だったのでさっき地下で例の講習の見学に」

「そうかい。感心だねぇ。コーヒーありがとう」


 ジムラはジュンから貰ったコーヒーをひと口飲みそれとなく様子を聞いてみた。


「受講生の皆さんの様子はどんな感じだい?」

「見たところ順調みたいです。自分も今回貴重な研修させていただいてますけど、その、何ていうか、殺人免許って名前の割には淡々とした講習ばかりというか」

「拍子抜けしたかい?」

「まぁ、若干」

「ははは。やっぱりそうかい。講習を見学してきた職員は大概そんな感想を持つみたいだね。お目当てのシスターさんとは何か進展があったかい?」


 ジムラから飛び出た突然のからかい文句にコーヒーを詰まらせむせ返るジュン。


「んぐっ!!っかは!っげほ、っげほ、げほげほ。ちょ、ちょっとジムラさん!何言ってるんですか?」

「ははは。ジュン君は素直で分かり易いね。私はてっきり故意にしてるのはあのシオリさんっていう人かと思ってたんだけどねぇ」

「い、いや、そんな!どっちもそんなんじゃないですよ!」

「仲良くするのは構わないけど、きちんとラインは守るようにね。センター職員という立場を忘れないように」

「は、はい!勿論です!ご心配おかけしてすみません」


 するとジュンは気になっている事をジムラに投げ掛けた。


「あ、あの。免許の最終試験っていつ頃になるんでしょうか?」

「そうだねぇ。そこはキラーが判断するところだから何とも言えないねぇ。おおよその目安は上層部から通達があってるはずではあるけど」

「そうですか…」


 ジュンは複雑な心情だった。

どの様な事情があるか分かっていないものの、自身が想いを寄せるシスターがやがて誰かを殺める事になる、その日が刻一刻と近付いて来ている事に強い抵抗を感じていた。


 ジムラの席を離れたジュンは自席で仕事をしながら時間を潰していた。

やがて正午となりセンター内にチャイムが鳴り響く。


「お!お昼か」


 シオリとの約束のため食堂に向かうジュン。

やがてシオリも食堂に現れいつも通り共に食事を摂り始める。

するとジュンはシオリの口数が少ない事に気付いた。

しかしジュンにはその理由がはっきりと分かっていた。


「いよいよ来週だね。試験」

「!!」


 自身を支配していた心配の種を言い当てられ強い反応を示すシオリ。


「…」

「大丈夫だよ。今まで必死に頑張って来ただろ。リラックスして望めば」

「下手な慰め言わんといて。時間無いねん、ホンマ追い詰められてんねん。絶対今回の試験受からなアカンねん。リラックスなんて出来るかいな」

「自分との戦いだからね。健闘を祈ってるよ」


 いささか重苦しい雰囲気のまま昼食を終えた2人。

シオリは再び2階の自習室へ。

ジュンもまた自席に着き残っていた雑務に手を付け始める。

やがてセンターの閉館時間である21時が近付くとジュンはふと思い立ち2階の自習室へと向かった。

すると部屋の中には人影は無いと思われたが、隅の方から小さな音が聞こえてきた。


「!」


 音の正体は寝息、そしてそれを発するのは試験を目前に控えたシオリだった。

机に突っ伏し静かに体を上下させながらスヤスヤと眠るシオリ。

その寝顔はとても安らかで普段のずけずけとした物腰とはかけ離れたものだった。

ジュンは小さく息をつきその様子を眺めている。

するとそこに見回りの警備員の男がやって来た。


「おや?ジュンさん。どうされました?そろそろ閉館ですが」

「あぁ、ミチオさん。どうも」


 ミチオと呼ばれた警備員の男はジュンに近付き寝ているシオリの姿を見つける。


「おやおや、お疲れみたいですねぇ。起こしましょうか」

「あ、いえ。ここは僕は見ておきますので、他の場所を施錠しておいて下さい」

「…しかし規則では」

「彼女が起きるまで僕がここに居ますので」

「そうですか。分かりました。警備室におりますので何かあれば呼んで下さい」

「ありがとうございます」


 そう言うと警備員のミチオはその場を後にした。

ジュンもまた一旦自習室を去ったが、5分後再びその場に現れた。

その腕には毛布が掛けられており、それをそっとシオリの体に被せるジュン。

そして共に持参したノートパソコンといくつかの資料を近くの席に置くと自身の仕事をこなしながらシオリが目覚めるのを待ち続けた。

しかしかなりの疲労が蓄積していたシオリはついに目覚める事は無く、センターは翌日の日の出を迎えるのだった。

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