JKの恋心
午前10時、大人免許取得を目指すシオリはこの日もセンターに訪れていた。
総合受付フロアに到着するとすぐに窓口の方向へと目を向ける。
「ありゃ。ジュンさんおれへん。今日も殺人のやつに行っとんかなー?」
シオリがジュンの不在を確認しそのまま2階の自習室へ向かおうとした時、背後から声を掛けられた。
「よ。お疲れ」
「!」
シオリが振り向くとそこにはジュンの姿があった。
いつもであればきっちりとしたスーツに身を包んでいるジュンだったが、この日はカジュアルな私服姿を見せていた。
「ありゃ?ジュンさん。珍しい格好しとるね」
「今日は非番なんだよ」
「え?そうなん?んじゃ何しに来たん?」
「今日も殺人免許講習があるから見学させてもらおうと思ってね」
「ほへー。こらまた仕事熱心なお人やなぁ~。あ!ちゃうか?お熱上げとるのはあのシスターさん目的やんね?」
「なっ!?ち、違うわ!」
「ジュンさんホンマ分かり易過ぎやねんて。今さらバレてないとでも思とうるんか?」
「なっ、何の事だ!?何を馬鹿な事を言ってんだ!」
ジュンの漫画の様な分かり易いリアクションに若干の呆れを感じつつ、シオリはいつも通り2階自習室へと向かって行く。
「ほな私行くわ。お昼ご飯ちゃーんと奢ってや?忘れんといてー」
階段へ向かって駆けて行くシオリの後姿を見送るジュン。
「…全く。毎日毎日お昼ご飯たかるためにわざわざセンターに来るなんて。逆にご苦労な奴だな…。さてと」
そしてジュンは1人、本日の射的訓練が行われている地下へと赴いて行くのだった。
地下に到着したジュンは静かな地下フロアを闊歩しながら真っ直ぐと射的場へと向かう。
近付くにつれ段々と大きくなる発砲音。
外から室内を覗くと受講生達がそれぞれ装備をつけて標的に向かって銃を向けている姿があった。
上達の流れか、当初動かない人型の厚紙を撃っていたのに対し現在はホログラムシュミレーターを使った高度な射的訓練へとレベルアップしていた。
映像上に映る人間を目掛け次々と発砲しては命中させていく受講生達。
「シスターさん!」
ジュンは真っ先にシスターの様子を伺う。
この日も体操服姿で実弾を発砲し続けるシスター。
始めの頃は発砲の反動と音に怯えながら何とかその衝撃を体で食い止めていた様子を見せていたシスターも、現在はスナイパーさながらの物腰を見せていた。
やがて部屋の後ろで受講生を見守っていた講師のキラーがジュンの存在に気付く。
「あれ?ジュン君?どうしたの?」
「あ、す、すみません。お邪魔してます。今日は非番だったんですが折角なので見学させていただこうかと」
「どうやって来たの?」
「管理部からデイリーカードを借りました」
「あ、なるほどね」
「お!」
続けてジュンの存在に気付いたのは母親の仇をとるべく殺人免許取得に励むJKだった。
JKは防音装置とゴーグルを外し部屋の外に出るとジュンの腕を掴み廊下の奥へと引っ張って行く。
「お兄さん、お兄さん、ちょっとちょっと!」
「え!?ちょ、ちょ、何なに?」
やがてキラーや受講生達から死角となる位置まで辿り着くとJKはジュンに頼み事を申し出た。
「ねねね。キラー先生のこと教えてー」
「はぁ?」
突拍子も無い申し出に困惑するジュン。
「実は私ガチでキラー先生のこと好きになっちゃってぇ~。でもさ色々聞くんだけどなーんも教えてくれないんだよねぇ。”商売柄教えられない”とか何とか言われちゃってー」
(ほ、本気か?この子。人殺しを教える講師好きになるなんて。どういう神経してんだよ…)
「お兄さん、キラー先生と同じ会社なんでしょー?」
「か、会社っていうか、まぁ…」
「じゃ協力してよぉ~!」
「…悪いね。力にはなれないよ」
「えー?どうしてー?」
「そもそも業務内容が違い過ぎて普段接する事ないんだ。というか、俺自身も今回の殺人免許講習に参加するまでキラーさんの存在知らなかったし」
「キラー先生、普段はここには居ない人なの?」
「見たこと無いね。普段の業務内容とかこれまでの経歴や素性なんかも全く知らない。噂では本当に影の殺し屋か軍隊で特殊任務に就いてるって噂だけど」
「お兄さん聞いてきてよー」
「か、勘弁しろよ。キラーさんこのセンターの創設メンバーの1人で凄い古株なんだよ。俺みたいな受付の下っ端が軽々しく素性を聞ける様な相手じゃないんだって」
「えー。けちぃ~」
唇を尖らせ不満気なJKをよそにジュンは見学を終え地下室を後にするのだった。




