ジムラとキラーの歪な関係性
ジュンが3人の女性達と食堂で昼食を共にしている頃、総合受付責任者であるジムラはセンター玄関にて誰かを待っている様子だった。
やがてジムラの前に黒の高級車が停まると、中から3人のスーツを着た男達が姿を見せた。
ジムラの姿を確認すると男達は好意的な姿勢で近付いて行く。
「どうも、ジムラさん。お世話になります」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
ジムラは現れた男3人それぞれと握手を交わすと、そのままセンターの中へと案内する。
センター職員専用のエレベーターに乗り込む4人。
ジムラは4階のボタンを押した後、自身のセキュリティカードを特定の場所にかざす。
するとエレベーター内にガイダンスが流れた。
[認証しました]
そして動き出すエレベーター。
やがて4階に到着するとそこには1階と同様多くの受付窓口がありそれぞれに職員と思しき者が座っていたが、1階と違っていたのは来訪者と思われる人が1人も見当たらない事だった。
それぞれの窓口に座る職員達はジムラ達の登場に目もくれず黙々と何かの事務処理を進めている。
「こちらです」
ジムラは廊下を進み3人をある小さな部屋へと案内した。
設置されたソファに腰を下ろす3人。
「いやぁ突然お邪魔してしまう事になり申し訳ございません。お昼の時間を割いていただいた様で本当に申し訳無い」
「いえいえ、構いませんよ。我々センターとしても司法省の皆様とこうしてお話が出来ることはとても歓迎しておりますので」
ジムラもまた設置されているソファに腰を下ろした。
「それで、お話というのは?」
「えぇ、単刀直入に申し上げます。現在施行されている免許制度を是非未成年者にも拡大していただきたく提案申し上げます」
「未成年者へ?」
「正確には18歳未満ですが。この免許国家が誕生してから我が国は目覚しい進化を遂げました。犯罪の激減は勿論の事、国全体のモラルや品性向上により海外からも高い評価を得ています。国内株価も上昇し国内企業の海外進出も引く手数多です。これもひとえにジムラさん始めセンター皆様のご尽力の賜物です。我々からも深く御礼申し上げたい」
「いえいえ。恐縮です」
「この勢いを止める手はない。そこで是非未成年者にもと思いまして」
ジムラは顎に手を置き考える様子を見せた。
「…しかしそうなるといささか大事になりますね。道徳の問題も出て来るでしょうし、いちから制度を構築し直しするとなると膨大な時間と費用が必要です。現状ただでさえ人員不足が深刻な問題でもありますし」
「実は、免許国家成功の反面、未成年者のモラル低下が深刻な問題として叫ばれています。18を境に免許に支配される事を見越して未成年のうちにハメを外そうという若者が激増しておりまして…」
「…成る程」
「少年法は既に敗北しました。非道徳な少年グループによる残虐な殺人事件、時を経た元少年が再び犯罪に手を染めたのはご記憶に新しいかと思います。このまま放置するのはあまりに危険。まずは軽度なものからでもいいので、何かしらの規制をと司法省としては考えております」
ジムラは口元に手を当て深く考え込んだ様子を見せた。
10秒程の間を置きやがて口を開く。
「…前向きに検討させていただきます」
「ありがとうございます。こちらが省内で考案しております規制案です。センター内で審議いただき、是非ご意見をお聞かせ下さい」
「分かりました。それではまた後日こちらより連絡をさせていただきます。本日はありがとうございました」
こうしてジムラは3人の男達をセンター玄関まで見送りそのままセンターの中へと戻って行った。
「さてと」
ジムラは司法省の人間から受け取った資料を自席のキャビネットにしまい鍵を掛けると、着席することなくまた別の場所へと移動し始めた。
ジムラがエレベーターを上がり辿り着いたのはセンターの屋上だった。
「やぁ。お待たせ」
到着したジムラは屋上に居た1人の人物に声を掛けた。
ジムラに声に反応し振り返ったのは殺人免許講師のキラーだった。
「遅かったね」
「すまないね。ちょっと野暮用で」
「司法省の皆さんと密談かな?」
「相変わらず鋭いね。それとも見てたのかな?」
「君が約束の時間に遅れるのは珍しいからね。それ相応の理由かなーと。ま、いいんだけどね」
2人の間に刹那の沈黙が流れた。それを破ったのはジムラだった。
「で、例の件。どんな調子だい?」
「あぁ。大方君の予想通りっぽいね。まだ脇を固めるには時間が掛かりそうだけど」
「そうか。引き続き宜しく頼むよ」
「おっけ。しかしまたこうして君とタッグを組んで仕事する事になるとは思わなかったよ」
「全くだ。不埒な輩にも困ったもんだねぇ」
「”後処理”はいつも通りでいいのかい?」
「あぁ。頼むよ」
「相変わらず厳しいねぇ。流石は”閻魔様”。健在だね」
「齢40で隠居するってのも変な話だろ」
「そりゃそうだね」
「それじゃ」
意味深な会話を交わした後、ジムラはそのまま屋上から姿を消して行った。
1人残ったキラーはそのまま屋上の風に当たりながら手に持っていた缶コーヒーを味わうのだった。




