「私、”大人免許”欲しいねん」
身勝手な若い女性の対応に追われていた青年職員は背後からある男に声をかけられた。
「ジュン君、何の騒ぎだい?」
「あぁ!!ジ、ジムラさん!!」
受付に座り来訪者対応をしていた青年職員は”ジュン”と呼ばれ慌てて立ち上がり後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは質のいいスーツを着こなす40代後半と思われる眼鏡を掛けた男だった。その男はジュンから”ジムラ”と呼ばれた。
「す、すみません!何でもありません!」
「そうかい?ならいいけど。困った事があればいつでもおいで」
「あ、はい!ありがとうございます!」
そうしてジムラという男は再びセンターの奥へと去って行った。
胸を撫で下ろし再び椅子に座り女と対面する青年職員のジュン。
「はぁ。ったく…」
「何や?あのおっちゃん上司なん?」
「あぁそうだよ。全く君のお陰で冷や冷やしたよ」
「お兄さんジュンて言うんやな。よろしゅーな」
「はいはい、どうも」
ふてくされた態度を見せながらも引き出しから必要書類を取り出し女に見せるジュンは淡々と説明を始める。
「それじゃあそこの机でこの書類に記入したらそれをこの箱の中に入れておいて。こっちの書類と誓約書は家に帰って熟読しておいて下さい。準備が整ったら改めて郵送で講習案内を送りますのでそれと健康診断書を持ってセンターまでお越し下さい」
「ブ厚~!これ全部読まなアカンの?」
「当然です!各項目の規定と禁止事項も書いてあります。知らなかったじゃ済まされませんからね!」
「フリガナ振ってへんやん!私漢字苦手やねん」
「知りません!」
「講習案内っていつ頃来るんよ?」
「だいたい1~2週間位です」
「もっと早めてぇ~な」
「無理です!コレばっかりは僕1人をどんなに脅しても無理ですからね。諦めて下さい!」
「免許てどないしたら貰えるん?」
「260時間の一般常識講習を受講してもらいます。その後500問の筆記試験と面接に受かれば発行させていただきます」
「えーーー!めーっちゃ面倒やん!もっと楽な方法無いん?」
「ある訳無いでしょ!何のための制度だと思ってるんですか!」
「ぶぅ~…」
机に顎を乗せうなだれる女。ジュンはそんな姿を呆れ顔で見下ろしていた。
「何かご質問は?」
「ん~?今んとこ無いけど~」
「それなら早くそこをどいていただけませんか?次の方がお待ちなんですけど」
そうジュンから突き放された女は怪訝な表情でジュンを睨み付けた後、机にある資料や書類を取り上げその場を去って行くのだった。