4人の殺人免許受講生
「…という訳で、センター都合で大変恐縮ですが案内を含めて今回の講習に同行させていただけないでしょうか?何かお役に立てる事があれば何なりとお申し付けいただければ」
「はい。では宜しくお願い致します」
ジュンは1階の待合室で待機するシスターを捕まえ事情を説明し今回の殺人免許講習への同行に関し本人の許可を得ていた。
特に表情も無く静かな声で最低限の言葉しか発しないシスター。
「あ、ありがとうございます。勿論自分も秘密は厳守しますので。では、そろそろ時間なので行きましょうか」
「はい」
2人は共にエレベーターに乗り込む。
一見地下の階層ボタンは存在しない様に見えたが、シスターは徐に3階のボタンを長押しし始めた。
すると、
「おぉ!」
1階のボタン直下に隠れていたカバーが下り、そこからB1と書かれたボタンが現れた。
シスター躊躇無くそのボタンを押すと突然エレベーター内にガイダンスが流れ始める。
[セキュリティカードをかざして下さい]
シスターは先程ジムラから受け取ったセキュリティカードをB1と書かれたボタンの直下にかざすと再びガイダンスが流れる。
[認証しました]
そしてようやくエレベーターが地下へと向かって動き出した。シスターの背後で一部始終を見ていたジュンはとても物珍しそうな表情を浮かべている。
「すごい。初めて見た」
「頂いた資料に書いてありました。地下に行く時は必ず1人でとお達しもありましたが、ジュンさんは例外だと思いますので」
「あ、そうですね」
間も無くしてエレベーターが地下に到着し扉が開くと、そこは1階とほぼ同じ作りの内装光景がだった。
しかし多くの人で賑わいを見せる1階とは打って変わって地下のフロアに人影は無く、静かで閑散とした景色が広がっていた。
「はは。何かここまでだだっ広くて誰も居ないとなんかホラーゲームみたいですね」
「こちらにいらした事は無いんですか?」
「センターの地下は職員でも入れる者は限られてます。自分等みたいなのは普段来る事はありません」
「そうですか」
シスターはそのまま黙って歩き始めた。
口数の少ないシスターをジュンはまじまじと見つめる。
(…にしても綺麗な人だなぁ。こんな人が今から誰かを殺すかもしれないなんて…)
修道服の上からでも華奢な身体のラインがはっきりと見て取れるその女性は、物腰の柔らかさからとても殺意を抱くような人物には見えなかった。
ジュンは山程聞きたいことはがあったが、規則により詮索を禁じられているため問いただすことが出来ずにいた。
気まずい沈黙が続く中、目的の部屋に辿り着いた。
「着きました。こちらです」
ガラガラと教室の窓を開けると、そこには既に他3人の人間が席に着いていた。
(え!?他にもいる!?)
驚きを隠せないまま3人を見渡すジュン。
そこにはジェントルマン風のスーツを着た男、何かの文献を読むインテリ風の女性、そして、
(じょ、女子高生…!?)
足を机の上に置き椅子を後ろにのけぞりながら座る制服姿の女子高生の姿。
ジュンはとっさに質問を投げ掛ける。
「あ、あの…皆さん、殺人免許の受講生ですか?」
「そーだよー。お兄さんがせんせいー?」
女子高生が答える。
「あ、いえ。自分は今回の講習に同席させていただく職員の者で…」
「見学ってことー?」
「あ、まぁ平たく言えばそうです」
「んじゃ先生はいつ来るわけー?おーそーいー。退屈ー」
「す、すみません。もうすぐ来ると思いますので、今しばしお待ちを…」
ジュンは改めて教室に集まった面々をまじまじと眺めた。
(申請用のパソコンを操作する人は時々見かけるけど、申請が通ったって話は聞いたこと無いのに。ここにいる人達はみんな書類審査に通った人達。つまり、国から合法的に殺人を認められた人達…)
するとジュンの横をすり抜けシスターが教室内に姿を見せる。
「えーー!シスターさん?シスターさんも人殺したいのーー?」
真っ先に女子高生が声を掛ける。
「…どうも」
「こいつぁ驚いたな。どんな事情があるか知らないが、裁きをも受け入れる覚悟ってやつかい?」
無口そうなジェントルマン風の男もたまらず声を掛けた。
「どうでしょうか」
シスターは一切誰とも目を合わせることなく教室一番後ろの席に腰を落とした。
それとなく様子を伺う他3人の受講生。
そしてジェントルマン風の男がジュンに質問をする。
「これで4人目か。なぁそこの人、今回の受講生はこれで全部か?」
「え?あぁ、えぇ恐らくは。時間も時間ですし。ただ詳しいことは講師の人間しか知らされないもので。自分はあくまで研修の一環で同行させていただくことになってまして」
「そうか。しかし世知辛い世の中だねぇ。要は”そいつなら殺してもいいよ”ってやつが4人もいるって事だもんなぁ」
スーツの男が声を漏らすと、インテリ風の女性が反応を示す。
「4人とは限らないんじゃない?1人につき1人って取り決めは無いみたいだし」
「あ!そういえばそうだな」
「それに、実際はもっと多いんじゃないかしら。申請すれば通ることは確実だけど自分が人殺しになるプレッシャーに耐えられる人っていうのはそう多くはないでしょうしね」
「はは。違いない」
すると女子高生が素っ頓狂な声で話題を変えた。
「てかさー、みんな誰殺したいのー?」




