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ライセンスワールド  作者: レイジー
テスト章
1/54

免許はお持ちですか?

「こんにちは。本日はどの様なご用件でしょうか?…はい、”大人免許”のご申請ですね?それではこちらへどうぞ」


 とあるファミリーレストランにて。


「いらっしゃいませ。2名様ですね?それではまず”大人免許”のご提示をお願い致します」


 とある就職面接開場にて。


「はい、それではまず履歴書と”大人免許”のご提示をお願い致します」


 とある役所にて。


「ご入籍のお届けですね?おめでとうございます。それでは婚姻届と”家族免許”を見せて下さい」


 とある病院にて。


「妊娠3ヶ月です、おめでたですよ!それじゃあお帰りなられる時に受付に”家族免許”を見せて行って下さいね」


 巷にのあちこちで溢れる”免許”という言葉。主に耳にするのは”大人免許”と”家族免許”の2種類。

ことあるごとに各所で免許の提示を求められているが、人々は何食わぬ顔で指示に従っている。


 とあるアパートにて。


「ちょっと!クスナさん?居るんでしょ?クスナさん?一体いつになったら家賃払ってくれるんですか?もう3ヶ月も滞納してるの分かってるの?ちょっと、クスナさん?」


 アパートの大家と思しき高齢女性がある部屋のドアをドンドンと叩きながら中の住人を呼び出している。

しかし10分に渡り呼び出しを続けるも中から人が出て来る気配は無く、やがて大家らしき女性も諦めその場を後にする。

しかしその部屋の中では身を小さくしながら潜む1人の若い女性の姿があったのだった。


 そして、とあるセンターにて。


「はい、では次の方どうぞ」


 5階建て建物の1階。どこか役所の様な作りである広大なフロアには多くの人々がひしめき合っている。

来客を対応する職員、書類に記入する申請者、整理券を持ちベンチで待つ人等、それぞれの様子を見せている。

そんな中、フロア受付の一角に座る1人の男性職員が次の来訪者を呼び込んだ。

その職員は20代後半と見られる爽やかな好青年だった。

その青年職員の目の前に座ったのはいささか柄の悪そうな大柄の中年男。

その男は乱暴に椅子に座ると持参した書類をその職員に手渡した。


「はい、大人免許の更新申請ですね。中身を拝見致します」

「早いとこしてくれよ?急いでんだ」


 男は圧を掛ける様な言い方をしたが、青年職員はそれに動じる様子は無く黙々と書類に目を通している。

そして書類のある箇所に目を留めると、視線そのままで男に問い掛けた。


「…貴方、記録ではペットを飼っている事になっていますね?ペットの健康診断書がありませんが?」

「うっ…」


 男は明らかに顔色を曇らせた。いかにも何かを隠している様子でたどたどしい口調を見せ始める。


「い、いやぁさ、実は、その…。そう、死んじまったんだよ!急に!いやぁ本当にびっくりしてさ」


 青年職員は鋭い目付きで追及を始める。


「…それならば死亡診断書と葬儀認定書が必要です。そちらの書類をご提示いただけますか?」

「いや、あぁ!!そうそう、違ったわ!逃げたんだよ!ちょっと目を離した隙に!こりゃあ流石にどうしようもねぇだろ?」

「飼育ペットの逃亡は管理不行き届きで8点の減点対象です。ペット飼育規定にも明記しています」

「なっ!?何だとぉぉ??」

「”大人免許”の誓約規約にも明記していますので”知らなかった”は通用しません。貴方の持ち点は既に残り5点です。今回の事で”大人免許”は剥奪とさせていただきます。また今回の件は刑事処罰の対象となります。速やかに警察に出頭して下さい」


 職員の青年は書類を横にある箱に入れぶっきらぼうな態度であしらうように言い放った。

その態度に激昂した男は椅子から立ち上がり目の前に座る青年職員の胸倉を激しく掴み上げ大声を荒げ始めた。


「テメェ!!ふざけんじゃねぇぞ!!お役所仕事だからっていつもいつも偉そうにしやがって!!だいたいペット逃げた位で免許剥奪たぁどういう了見だコラァ!!」


 自分より明らかに体格で上回る大男に胸倉を掴まれた職員の青年だったが、その表情は一切ぶれる事は無く冷静な動作で机の下にあるスイッチの様な物を押す。

するとけたたましいリンガー音がフロア内に響き渡り、周囲は騒然となった。やがて現れた3人の警備員にその大男は取り押さえられる。


「やっ、やめろぉぉ!!はっ離せくらぁぁぁ!!!」

「投獄は免れないと思われます。期間はそこまで長くは無いでしょうが、まぁいずれにしても最低3年は大人免許の再発行はされない事を覚悟して下さい。では宜しくお願い致します」


 こうして男は抵抗虚しく警備員達に連行されて行った。

未だ周囲が騒然とする中、その青年職員は襟元を直し静かに椅子に座り次の来訪者を呼び込む。


「ふぅ、全く。あんな男に免許が下りるなんて。試験制度の見直しが必要だな。次の方どうぞ」


 ここは”国家免許センター”。

昨今増加する”無責任”と”意識の低さ”そして”能力不足”からくる痛ましい事件や民間トラブルを事前に防ぐことを目的として創設された独立行政の集権役所。

国始まって以来の大改革であり全ての秩序と情勢はこのセンターを軸にして保たれるようになっていた。

今回の免許国家発足に当たり発行された免許は大きく分けて2種。

ひとつ目は”大人免許”。

これを所持していない場合、車の運転は勿論、就職、海外渡航、1人暮らし、ペットの飼育、インターネット上でのHP開設や書き込み行為、飲酒と喫煙、男女交際が禁止または制限される。

ふたつ目は”家族免許”。

これを所持していない場合、結婚、出産、育児が禁止または制限される。

それら万が一無免許だった場合、その違法性に応じた厳罰が下されるという抑止力により事件件数は大幅に激減していった。

免許に支配されるというこの改革に賛否両論はあり大きな議論で揺れ続けてはいるものの、この国は自由と引き換えに間違いなく秩序と平穏を手に入れていた。


 先程の青年職員は次の来訪者を対応していた。

先程の騒動とは打って変わって和やかな雰囲気で会話が交わされている。


「はい。書類全て揃ってますね。この1年違反も無し。それでは30分程度の簡単な講習だけ受けていただき免許の顔写真を更新いただければ更新手続きは完了です。2階の待合室でお待ち下さい」

「はい。ありがとうございます」


 青年職員から案内を受けた中年女性は案内用紙を受け取ると指示通り2階へと向かって行った。


「さてと…」


 青年職員が先程の中年女性から受け取った書類に改めて目を通し必要事項を記入している最中、突然若い女性に声を掛けられた。


「ちょっとお兄さん!いつまで待たせんねん!もう30分も待ってんねんけど!」

「!」


 青年職員が視線を上げると、そこには若い女が机に身を乗り出し目の前まで迫って来ていた。


「ちょ、ちょっと何ですか?貴方は?」

「大人免許取りに来たに決まっとるやろぉ!ずっと待っとったのに全然呼ばれへんやん!」


 手に握られクシャクシャになった整理券を見せ付ける若い女。

ボサボサの髪によれただらしのないTシャツとホットパンツ姿であり、お世辞にも品があるとは言い難い身なりと態度だった。


「あ、あのねぇ。皆さん順番待ちしてるんですから、ご自分の順番が来るまで待ってて下さい!」

「こっちは急いでんねん!大人免許無かったら働けへんやないの!もう私お金無いねんから!」

「それが国の決まりなんだから仕方ないでしょ!大体、アナタが今まで免許を取らなかったのがいけないんでしょうが!」

「こっちにだって色々事情あんねんて!お兄さん私をホームレスにしたいんか?路上で犯されたら訴えたるからな!」

「はぁ??」


 すると突然その女はその職員に背を向けフロア内に向かって大声で叫び始めた。


「みーなーさーん!この男、私を犯すつもりですよぉ~~~!!!助けてくださぁ~~い!!」

「おぉぉっ、おい!!!」


 女の発言に反応を示すフロアの人々。

慌てた職員の青年は立ち上がり女を制止し始める。


「お、おい!いい加減にしなさい!警備を呼ぶぞ!」

「ええよぉ~。呼んだらええやん!口説かれたとか身体触られたとか色々言ったるから。騒ぎになたらお兄さんも職場に居辛なるんちゃうの~?」

「ぐぅっ…こ、この女ぁ…」


 現れた女の脅しに対し困惑する職員の青年。

警備を呼び強制退所させる事も考えたが、この場を丸く収めるためには1歩大人になり女の言う事に従った方が懸命だという瞬時の判断から怒りを押し殺さずをえなかった。


「…分かった。分かったからそこに座って」

「初めからそう言うたらええね~ん。手間かけさせんといてや~」

(…いつかこういうクソ女を処罰出来る制度を作らなければ)


 女が騒ぎを収め椅子に座った事を確認し、自身も椅子に座ろうとした時、急に背後から声を掛けてくる男が現れた。


「ジュン君、何の騒ぎだい?」

「あぁ!!ジ、ジムラさん!!」

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