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7.婚約者激変?せまる危機 2


「わ、わたしはもう家に入らないと。夕飯の支度があるから」


「夕飯の支度?まさか君が?」


「ええ、わたしが作っていてはおかしい?」


 オスカーからみたら、食事を自分で作ることなど考えられないだろう。落ちぶれてしまい、貴族から平民になった婚約者。相手の顔を見ずとも、考えは伝わってくる。もうオスカーと話すことは無駄だと思った。


「オスカー様、わたしのことはもう忘れてください。こんなところに来ていては噂がたちますよ」


「ソフィア、力になれることがあったらなんだってする。家のことも。家族のことも。親は関係がない。ソフィアが望むなら、何だってできる」


「わたしは何も望んではいません。今のままが一番幸せなの」


「ソフィア!」


「わたしはすべて納得しています。家族とも話し合った結果、今の状況にありますから。帰ってください」


 ソフィアは振り切って、家の中に入ろうとする。こんな家の前で言い争いをしていると、近所に迷惑をかけてしまう。夕食も用意しなくてはならないし、ココとキキたちが心配である。


「姉さま!!」


 すると、家の扉が開いた。お手伝いさんに世話を頼んでいた、ココとキキがいた。帰りが遅くなっているから、心配していたのかもしれない。おそろいの服をきたココとキキは、玄関から駆けてきた。そしてソフィアの足下にちかづき、ソフィアのスカートを握った。そして目の前にいるオスカーを見あげた。


「あれ、オスカー?遊びにきたの?」


「オスカーがいる!」


 ココとキキはオスカーが何故かお気に入りだ。オスカーはソフィアには表面だけでも、友好関係を築いてきた。だが、ココとキキにはよくしてくれていた。誕生日などのお祝いをしてくれていたし、屋敷に遊びにきたときはココとキキにお土産を持ってきたりした。


「ココ、キキ。元気にしていたかい?今日は、地方へ行ってきたから二人にお土産をもってきたんだよ」


「「お土産?!」」

 

 ソフィアは嫌な流れになってきたと思った。ココとキキはオスカーからの話に乗っている。お土産をくれるという人を、このまま帰すわけにはいかない。家に入ってお茶でもどうぞと言わないとならない状況になってしまう。ソフィアは身構えた。

 すると、オスカーは従者に頼み小包を持ってきた。小箱をココとキキに手渡した。ココとキキは、楽しそうに中を開ける。中には髪飾りが入っていた。


「オスカー綺麗!」


「わあ、ピンクとブルー。色が違うのね」


 髪飾りは小粒なパールが集まった、可愛らしい髪飾りであった。パールの色味が違うもので、ピンクのパールと、ブルーのパールがあった。とても愛らしい髪飾りであり、ソフィアも可愛い妹たちにぴったりだと思った。だが、受け取る訳にはいかない。


「オスカー様、気持ちは嬉しいけれど。頂くわけにはいかないわ」


「どうして?」


「どうしてって……」


 ココやキキの前で言い争うのは気が引ける。この子達の耳にいれるような話なのだろうか。あくまでソフィアとオスカーの関係のこと。ココやキキは関係ないのである。ソフィアはそれ以上言葉を続けることができなかった。


「オスカーありがとう!」


「オスカーっていつも綺麗なものくれるね」


 ココとキキは嬉しそうにオスカーを見あげる。


「こういうのももういらないわ。ココ、キキ……返してちょうだい」


「姉さま、なぜ?」


 ゆったりとした口調でココが尋ねてくる。ソフィアは困ったように、頷いた。だが、だらだらと関係を続けるのもよくないことだ。キキやココだって、いつかは知ることになるだろう。


「姉さまとオスカー様は、婚約をやめてしまったの…だから…」


「ソフィア、もし受け取ってくれないならこれは捨ててしまうよ」


「ちょっと!」


 ソフィアは双子に説明しようとしたが、話を遮られてしまう。オスカーはソフィアと双子の前に入った。そして双子達に笑顔で髪飾りを受け取らせた。

 ソフィアはオスカーの背中を見あげた。いつも近くで姿を見ることがないので、間近で彼の背中をみると意外にがっしりした体つきだった。彼はこんなに背が高かったのだろうか。幼いころから、彼を見ている。だが、頼りない印象をずっと持っていた。

 オスカーはキキとココに、ほかにもお土産を渡した。いつもならソフィアには、ドレスや宝石を渡すのだが、今回はそういったものはなかった。だが、ソフィアが嬉しい食料品であり、キキとココが大変喜んだ。

 そして、最後まで断る言葉を言い出せず、オスカーはそのまま帰ってしまった。両手一杯の、調味料。そして市場で売っているであろう、ハムや魚の干物。単なるお土産ではない。救援物資といった感じでもある。もし高価な服飾だったら、ソフィアも断固として受け取らない。だが、食べ物は返すわけにはいかなかった。だって、これを使わずして捨てるなんてもったいない。食べ物には罪はないのである。


「これ、視察のお土産ではないわよね。生活に困っていると思ったのかしら」


 確かに今後の生活を考え、なるべく節約や倹約に努めようとしている。だから食糧は嬉しいことは嬉しい。でも、恵んでもらう必要はないのだ。

 今回だけ、そう今回だけもらうことにしよう。このまま、だらだらと餌付けされるように受け取ってしまったら、婚約破棄したのに、未練があるように思われてしまう。

ソフィアにはまったく未練などないのだ。貴族の暮らしも、豪華な暮らしも。そして貴族と結婚して、約束された未来も。

 未練があるとしたら自意識過剰になってしまうが、オスカーのほうだろう。今までソフィアには、婚約者という手前、それなりには優しくしてくれた。だが、儀礼的なもので家同士の付き合いとしてのものだった。だから、オスカーが何を考え接触してくるのかソフィアには理由がわからなかった。

 その晩、豪華になった夕飯にココとキキは喜んだ。ソフィアは理由を両親にも言わなかった。

 ソフィアは、無駄に美味しいダシがでている魚介のスープを味わった。



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