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31.領主の過去、一難ありて 1


「急病人だ!」


 その日は晴れた日だった。ソフィアは先日織物の工房に見学にいって、この地域独自の織物をもらってきた。この織物を使って小物を作ってみようかと部屋で試作品を作っていた。今日は、母もココもキキもそれぞれの部屋でくつろいでいた。父も叔父もそれぞれ仕事にでかけている。そんなゆったりとした時間に聞こえたのは祖父の声だった。

 朝からお祖父様は釣りに出かけてしまって、いつもは昼過ぎに一回帰ってきてまた出かけるのが日課である。声が聞こえたのもそろそろお昼ご飯の時間という頃だった。


「何かあったのかしら……」


 ソフィアが部屋から出ると、下の階で話し声が聞こえてきた。エントランスに向かって歩いて行くと、女性が運び込まれていた。女性は身なりのいい人で王都からきたようだった。傍には女性の召使いがいた。召使いの女性は、主の体調がよくなく混乱しているようだった。

 祖父が女性をソファに抱きかかえ、召使いにいって看病させていた。急いで医者を呼び、容態をみてもらうことにした。

 だがソフィアは、この光景を見たことがある気がした。そう女性の召使い。初めてみたわけではない。どこかでみた気がする。


「お祖父様……どうかされましたか?」


「ソフィア、女性が倒れてしまったのだ。王都から来たらしくて。長旅になれなくて疲れてしまったのだろう」


 女性はドレスを見れば、貴族階級であることがわかった。王都から出たことがないというのも聞くと、身分は上の人ではないかとも思った。ソフィアは傍にいた召使いに話を聞こうと思った。女性が不意にソフィアを見ると、はっとした顔になった。


「そ、ソフィアさま!!お久しゅうございます」


「え……」


「奥様を助けてくださり感謝いたします」


 ソフィアは思い当たったことを確認するために、奥様のお顔を近くでみた。金髪の美しい顔立ち。少しばかり痩せてしまったが、気品あふれるこの顔。そうだ、オスカーにそっくりな容貌。オスカーの母親だった。


「カタリナ様……。お祖父様、オスカー様はこのことを知っているのかしら」


「やはりカタリナ様か。知らないだろうな、無理をして屋敷を飛び出てきた可能性もある。侯爵家に伝えるか判断しかねるな、この状況だと」


 お祖父様も思い当たる顔の女性だったので、予測していたようだった。しばらくして医者が到着すると診察がはじまった。ソフィアたちはいったん部屋から出ることにした。


「カタリナ様、ずいぶんお痩せになってしまって。心配だったの」


 母も部屋から出てきて、事情を聞くと悲しそうな表情になった。母・ビアンカとカタリナは同時期に社交界デビューした縁で親しい仲だったという。母は伯爵家。母の実家もそれなりの影響力があったそうで、カタリナ様は遠慮していたところがあったそうだ。カタリナ様の実家は美男美女ぞろいの男爵家で、カタリナ様のご姉弟もみんな良家に嫁いだり婿養子になったりしていた。


「オスカーを産んでから不安定になってしまって。心労もあったと思うのよ。一時期はオスカーを家に預かっていたこともあったの。ソフィアは覚えている?」


「ええ、そんな記憶がある気がする」


「ソフィアが小さい頃だもの。しばらくして侯爵様のところへオスカーが戻ったのだけれど、何度かカタリナ様が家を出るって話もあったみたい」


 他家の事情はわかっていても、口は出せないものだ。貴族となれば体裁を気にするものも多く、内情がよくなくとも表面上いい顔をすることは普通に起こりうる。いい人であっても、家庭内では問題を抱えていることはある。それは貴族であろうがなかろうが同じであろう。


「オスカー様は家のことを教えてはくれないのよ。カタリナ様のことが心配だからオスカーも我慢していることは多いでしょう」


 ソフィアもオスカーが妙に聞き分けが良すぎることがあったのは記憶がある。母親の意向には逆らうことはしないオスカー。もしかして、下手に刺激して事を荒立てたくなかったのかもしれない。ソフィアには見えない、オスカーの家の事情。お祖父様もオスカーの家をよく思っていなかったようなことをオスカーが言っていた。


「カタリナ様、元気になってほしいわ」


 ソフィアはそれしか願うことができなかった。ソフィアには知らないことがたくさんあって、オスカーから詳しく事情を聞いたわけでもない。下手な詮索せんさくは避けた方がいいと感じた。

 それから医師が診察を終えて部屋から出てきた。すると症状を説明することになった。




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